プロローグ
穏やかな風が吹いて、川辺の草花を揺らした。春先のまだ肌寒いその風は、草花の匂いと一緒に、俺の横を通り抜けて行った。
放課後になったら、この川を見下ろせる橋に来て、ずっと景色を眺める。それが俺の日課になって、もう何カ月にもなる。
川の両脇には、白い花が咲いている。忌々しい花。人々に嫌われる哀れな花。
去年、この町で奇病が発生した。全国で症状が確認されているが、この町では群を抜いて発症者が多い。
高校に入って一年が過ぎた。その間に、同級生は二十人も減った。そのほとんどが、奇病を恐れて転校していった。二、三人は、奇病で死んだ。何人もの人がこの町を出て行って、地価も下がっていき、この橋も車が全く通らなくなった。その代わりに、自殺志願者が集まるようになったけど。この町で生まれて、この町で育って、だからと言ってこの町を好きなわけでもない。ただ、惰性でここに残っているだけだ。ある人は、この町が好きで、ある人は、奇病なんか信じてなくて、ある人は、死にたくて、そうやってここに残っているのだろう。
この町の空気は重々しくて、いつだってどこか暗く、もの寂しい。誰かの死を、感じさせる。
去年、発生した奇病は、まだほとんどが謎に包まれていて、原因も治療法も、まだ解明されていない。研究をしていた医者が何人か死んだという噂もあって、そのせいでなかなか研究も進んでいないらしい。川辺には、所々に土を掘った跡が見える。それは、発症者が出たということに等しい。発症する確率は交通事故や通り魔なんかと変わらない。だから、発症者の家族は口々に言う。なんで、うちが、こんな目に。そうやって何人もの発症者が出て、全員死んだ。
その奇病は、自分の愛するものの死を心から悲しめる、そんな心を奪っていく、残酷な病気。