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終末の境界線  作者: 5ion
序章 ラプターアイ
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序章終話 後日談

 コアルインズとの死闘から数日後、ソラとウミはメイリンの事務所を訪れていた。カーテンが窓から差し込む光を適度なものに調整している。部屋全体には柔らかい草の香りが漂っている。部屋の隅にはペット用のケージが扉が開いた状態で置かれている。そんな部屋の奥でメイリンが人間工学に基づいたであろう少し不思議な形をした椅子に座ってた。


雹華ひょうかちゃーん」


 入室してすぐにウミは茶髪を揺らしながら、うさぎの雹華ひょうかを抱き抱えた。雹華ひょうかも嬉しそうに彼女に真っ白でもふもふの身体を擦り付けている。


「まあ、座って座って」


 2人は部屋の真ん中に配置された応接用のソファに腰をかける。メイリンもこちらに来て机を挟んで向かいにあるソファに座った。


「わざわざ足を運んでもらって悪いね、ちょっと仕事が立て込んでて」


「いえいえ、おかげでこうして雹華ひょうかちゃんに会えましたし」


 ウミはうさぎを撫でながらそう返す。その表情は幸福感が溢れ出ている。メイリンはその様子を微笑ましげに眺めている。


「違法採掘者にコアルインズかなんと言うか、災難だったね」


 気を取り直したメイリンが労うようにそう言う。ソラの手足、露出している部分から包帯がチラリと覗いている。


「全くです。メイリンさんからの依頼で無ければ投げ出してたかも」


「そう言ってもらえるなんて光栄ね。あなたたちに頼んでよかったわ」


 メイリンの顔がほぐれる。


「あの依頼の後の話、気にならない?」


 ソラとウミはシンクロした動きで頷く。ズタボロの身体を無理矢理動かし、侵蝕区域を抜け出して、キャンピングカーに転がり込んだ。その後は怪我の療養やらなんやらにかかり切りでその後の情報を仕入れる余裕はなかった。


「A.E.Rの報告書によると非常ビーコンの座標にて違法採掘に関わった人間を発見。()()が置いていった映像のおかげでA.E.Rエージェントも含めて全員逮捕……お手柄ね」


 置いていった映像が役に立ったようだ。

 続けて


「コアルインズの発生の痕跡はあったが、誰かが討伐した可能性が高いと……これはさっきの以上のお手柄よ。逃げても誰も文句言わないのに立ち向かって、倒して、生きて帰ってきた。素晴らしい以外に言葉が見つからないわ」


と褒めた。


「最後にあの侵蝕区域は制御可能範囲に収まっているから少なくとも今より拡張することはないわ」


ソラの決死の抵抗には意味があったらしい。彼は改めて今回の依頼を反芻する。


「思えば、割に合わなさすぎる依頼だったな」


 ソラが噛み締めるように呟く。


「でも、頑張ったおかげで1ついいこと話があるわ」


「なになに〜、気になる」


 さっきまで黙って雹華ひょうかに構いきりだったウミがうさぎを撫でる手を止め、話に入ってくる。“いいこと”に食いついたのだろう。


「鋼鉄の男、ヴォルフがあなたたちに会いたいって」


 ヴォルフ、この業界で知らない人間はいないだろう。圧倒的な情報網に冷徹な判断力をもつ最強のフィクサーと呼ばれる1人だ。彼と仕事をしたいと願う人は無数にいる。そんな人間に目をつけられるとは僥倖だ。


「あんたらさえ良ければ話を通しておくけれど」


「彼と仕事ができる機会を拒否する人なんていないよ」


 ソラは肯定の意味を込めて言葉を返した。


「それじゃあ、ヴォルフに伝えておくよ」


 ✳︎


 話が終わり、メイリンの事務所を後にした2人は建物を出てキャンピングカーへ向かって歩く。ウミは車に着くまでの間、名残惜しそうにエアうさぎを撫でていた。


「思わぬ収穫だったな」


 ソラが呟く。その言葉にウミのエアうさぎを撫でる手が止まる。


「そうだね、うちらの目的に1つ進んだね」


 ウミの言葉にソラはその言葉に頷きを返しながらキャンピングカーの扉を開いた。


「次はヴォルフの信頼を得ないとな」


「そうだね。でもその前に怪我をしっかり治さないと」


「間違いないな」


 ソラは運転席に座りに行く、ウミを見ながらソファに横たわった。

 静かに発進した車はいつもの駐車場に向かっていく。その速度は怪我のあるソラを労わるようにゆっくりであった。

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