序章第7話 到着、中核結晶
ソラはウミからの指示に従い、時折モザイクによって不明瞭になっているショッピングモールの内部を進む。人がおらず、少し暗いせいか不気味さが際立っている。1階を歩いていたかと思えば、駐車場にでたり、通路を歩いていたかと思ったら階段に繋がっていたり、2階かと思えば1階に来たり、歩くだけで空間の歪み・無秩序な連結を肌で感じることができる。仕立て屋が侵蝕区域内で必要となる最大の理由を直に感じる。
ウミの指示なしでは目的地に辿り着くのも難しいだろう。
『目的地はその先の階段の歪みを通った先だよ。中心のルイン結晶の周りに人型の怪物が数体いるから気をつけて』
「了解、階段が見えた」
ソラは報告を返しつつ、階段に足をかける。数段あがった所に破れた空間があり、いきなり屋上駐車場に繋がっているなんとも不思議な光景が目の前に広がっている。駐車場へ足を踏み入れる。
今回はエネルギーだまりを突っ切るわけではないので不快感はない。
駐車場に入ってすぐにソラの目を奪う存在があった。巨大なワインレッドの結晶がまるで大樹のように天を貫き、聳え立っていた。周りにはエネルギーが迸り、雷をいくつも放っている。周囲には高濃度のエネルギーだまりが生じていて、その周りの空間が歪み赤黒く輝いている。そしてその周辺を囲うように人型の怪物が数体徘徊していた。ルインズの前腕が飛び出して刀のように発達している。
中核となるルイン結晶をどうこうする前に露払いが必要だ。ルインズもこちらに気付いたらしく、こちらに向かって突進してくる、ソラの手から放たれた光が炸裂し弾け飛び、ルイン結晶に形を変えた。ルインズが一斉に襲いかかってくる。ソラは怪物の間を巧みに抜け、通り抜け様に斬撃を加えていく。時折、クリスタの閃光が迸り、ルインズを穿つ。少しずつルインズの数が減り、ルイン結晶が増えていく。
「これで、終わり!」
ソラが放った突きによって最後のルインズが討伐される。上がった息を整えつつ、中核のルイン結晶に視線を向ける。
「なんとか間に合った……っ!」
ルイン結晶に向かって引き寄せられるような感覚が全身を襲う。気を抜けば魂すら持っていかれそうな吸引。周辺のエネルギーだまりが中核結晶へ飲み込まれていく。
「これはっ!」
ソラが声を上げる。
『中核結晶のエネルギー密度が上昇、収縮現象発生! これ止めないとまずいよ』
ソラは刀を一度鞘に納め、片手を前に突き出した。目を閉じ、炎と爆発のイメージを強く頭に浮かべる。目を開くと同時に大型の火球が手から放たれる。それは爆発することなくコア化しつつあるルイン結晶に飲み込まれて消えた。クリスタではあれを止められない。
中核結晶はやがて真っ黒な球体となった。同時に球体の周囲には黒い霧が立ち込める。その霧が凝縮し、形を取り始める。そうしてコアを中心として人型でありながら頭部がなく、背丈が人の3倍ほどはある巨体を持つ異形の怪物が生まれた。外皮には赤黒い煙を吐くヒビ割れのようなものがいくつも存在している。そのヒビゆっくりと閉じていきつつあった。怪物の金属音のような唸り声が恐怖心を煽る。
「イーグル、最悪だ。コアルインズが生まれた」
ソラはゆっくりと後退しつつ、現状を報告する。あの怪物を正面から見ると恐怖で身体が竦みそうになるので視線を少し外へ向ける。
『生まれたてならまだ万全の状態じゃないはず。今叩かないと侵蝕を止められる可能性はかなり低くなっちゃう』
絶望の混じった声が耳に入る。その言葉にソラの後ずさる足が止まる。コアルインズに視線を向ける。
目の前にいる怪物を止めなければ、完全な力を得たコアルインズとなり、倒すことが難しくなる。その後も周囲のエネルギーを吸い上げ、強くなり続ける。時間が経てば、たとえA.E.Rエージェントが束になっても返り討ちに合うほどに強くなる。そして、侵蝕を止められず、区域周りに住む多くの無関係の人間が住処や命が奪われることとなる。そんな悲劇を止められる最大最後の機会が目の前にある。
下がろうとする足を踏み止め、1つ深呼吸する。
覚悟を決めろ、ソラ。
いつも以上に重たく感じる刀を鞘から引き抜いた。