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終末の境界線  作者: 5ion
序章 ラプターアイ
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序章第6話 反逆の花火

 ルイン結晶を採掘する人たちの前に立つ2人の男が真面目な顔で会話をしている。


「社長さんよ、この侵蝕区域もそろそろ限界だ、他のエージェントが怪しみ始めてる。撤収の準備を始めた方がいいぞ」


 A.E.Rのエージェントが採掘者のリーダー、建設会社の社長と呼ばれた豪勢な身なりをした男にアドバイスした。


「心配しなくていい、責任を他の会社になすりつける準備は完璧だ。次の侵蝕区域でもあんたと協力できると嬉しいねぇ」


 社長の顔がゲスい笑みに変わる。奴はルイン結晶で稼ぐことに味を占めている。放っておけば、他の場所で侵蝕現象を報告せずに違法採掘をし始めるかもしれない。そうなればまた別の犠牲が出ることになる。ここで止めなければならない。


「いや、次は来ない」


 ソラは怒りの滲む声でA.E.Rのエージェントと採掘者のリーダーの会話に割ってはいる。

 2人は驚きの目でソラを下から上に舐めるように見る。


「ここは侵蝕区域内だぞ。……侵蝕対策法第17条第3項に基づき貴様を逮捕する。大人しく両手を上げろ」


 白々しい言葉にソラは不愉快さを隠さずに顔に出した。

 ソラより一回りほど年上であろう男は着崩したスーツのズボンのベルトに取り付けられた警棒を引き抜いた。

 ソラも腰の機械刀に手を当てていつでも抜けるようにする。


「ラヴェジャー気取りのガキが、抵抗するつもりか」


 指示に従わないソラに苛立ちの声を上げる。どうやら、ソラのことを仕立て屋(シュナイダー)ではなくラヴェジャーと勘違いしているようだ。

 A.E.Rエージェントの警棒の周りに生き物のような空気のうねり、風が纏わりついた。

 あれはクリスタと呼ばれる魔法に近しいものだ。侵蝕現象によって生成されるルイン結晶を使って行使される。侵蝕区域で発生する認知、認識によって歪み、変化する性質を上手く利用することで超常現象を引き起こしていると考えられている。クリスタは使用者のイメージによって様々な魔法を行使できる。が、人間を傷つけるほどの出力を発揮できる魔法は個人によって、基本的に1つに決まっている。目の前の敵はそれが風だったのだろう。

 ソラはそれに怯える様子はなく、堂々としている。


「もちろん」


と言葉を返す。

 ソラはゆっくりと抜刀、構えを取る。その様子に相手も警棒をしっかりと握り込んだ。互いが互いの動きを警戒して睨み合いの時間が流れる。この均衡を破ったのはA.E.Rエージェントで警棒をその場で振るう。もちろん離れたソラにそれが届かない。


「っ!」


 ソラは声にならないうめきをあげて身体を捻った。そのすぐ横を真空波のような斬撃が通り過ぎていく。かなりの鋭さを持っていたそれは後方の壁に爪痕を残した。

 回避の隙をついて急接近したエージェントは突きを繰り出す。

 ソラは刀でそれを受け流す。

 2人の身体が入れ替わる。その入れ替わりの刹那、エージェントは腰をを捻ってソラの後頭部に裏拳を放った。

 拳の気配を悟ったソラだったが、対応する時間はなくそのまま攻撃を受けてしまう。ソラは追撃を回避するために距離を取る。

 2人は再度、両者の武器の間合いの外で向かい合う。


「多少はできるようだな」


 エージェントが警棒を深く握り直す。警棒に纏われる風がより一層強くなったように見える。


「どうも」


 ソラは短く返して、一歩踏み出す。エージェントもそれに対して足を踏み出した。

 警棒と刀が激しく交錯し、金属音が響き渡る。攻撃の隙を上手くカバーする風のクリスタにソラは攻めあぐねる。警棒が勢いよく振り下ろされるたび、ソラの刀がそれを的確に受け止め、激しい火花が散った。ソラは風と警棒の隙間をついて斬りかかるが、警官はその刃を巧みにかわし、逆に警棒で反撃する。ソラは寸前でそれを避け、逆に刀を翻して攻撃を繰り出すが、警官もまた素早く防御する。互いに攻防が激しく入れ替わっていく。呼吸をするため、2人は距離を取る。

 相手を警戒しつつ息を整える。

 あまり時間をかけるとこの侵蝕区域が制御不能に陥ってしまう。決着を急がなくては。


「おっさん、次で決めるぞ」


 ソラはそう言って刀を構え直す。その言葉は相手に言っているようにも自分に言い聞かせているようにも聞こえた。エージェントの眉がぴくりと動き、不愉快そうな顔へと変化する。


「やれるもんならやってみろ、クソガキ」


 彼我の距離が一気に迫る。


 ソラは右手で刀を引き、左手を前に突き出す。刀がくるりと回転させた。

 次の一手を見切り、叩き潰すためにエージェントの目が刀に向く。

 瞬間、左手に光が宿った。光はエージェントの目の前で炸裂した。

 エージェントがよろめく。ソラにとって初めて得られた絶好の攻撃の機会だ。

 ソラは刀を振るい、首に叩き込む。エージェントが息を吐く音ともに地面に伏した。

 自分もクリスタを使える、その手札を隠して必要な時に通したソラの勝利だ。


「安心せい、峰打ちじゃ」


 少しちょけた様子を見せながら納刀する。巻き添えをくらうまいと隅に集まっていた他の連中は逃げることも戦うことも諦めて項垂れている。その中の1人、先ほどA.E.Rエージェントと会話していた男が立ち上がった。


「俺たちをどうするつもりだ」


A.E.R(迎え)がくるまで大人しくしててもらうよ」


 ソラはエージェントを拘束しながらそう答える。


「貴様とて、ラヴェジャーだろ! 我々を咎める道理があるのか!?」


 ものすごい剣幕で凄む社長。捕まれば懲役刑は免れないためどうにか言いくるめたいのだろう。


「そうだね、違法採掘だけなら僕らもやったことあるし、文句は言えない。でも、関係ない人に危険を及ぼすような行為を見逃すことはできない」


 ソラは淡々と応えつつ、社長を睨み返す。逃げきれないことも説得できないことを察したのか大人しく拘束された。


✳︎


 全員縛った後、A.E.Rエージェントが意識を取り戻した時に余計な行動を起こさぬように装備を一つ一つ外していく。そこでとあるものを見つけた。


ウミ(イーグル)、非常用ビーコンを見つけた。これでA.E.Rを呼べないかな」


 今さっき倒したA.E.Rエージェントが根回ししていたとしても非常用ビーコンが起動すれば救助隊が来るはずだ。


『確かに、これを使えば通報しなくてもA.E.Rを呼べるかも。撤退する時にドローンでビーコンを起動するね』


「任せた」


 そう言ってまとめた荷物の横にA.E.Rエージェントが違法採掘に関わっていた記録を残した記録媒体を横に置いた。


 ソラが屋外テラスを離れようとしたその時、非常に重要なことを思い出した。


「そうだ、エネルギーだまりをくぐらないといけないんだった」


 ソラのテンションがぐっと下がったが、覚悟を決めてエネルギーだまりをくぐった。

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