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第八話 ガーデンパーティー



※※※



「本日はお招きいただきありがとうございます聖女様」

「もう、よしてよマリア」

「ふふふ、冗談よイザベラ」


 今日は私の大切な友人とそのご家族を招いたガーデンパーティーを、ローズデール伯爵家が誇る庭園で開催する。


 マリアとご両親のダービー伯爵夫妻に、マリアの3つ上の兄ウィリアム様。


 エヴリンとご両親のグレイ伯爵夫妻に、エヴリンの2つ上の兄ローラス様、10歳の弟エイダン君。

 ちなみにローラス様はマリアの婚約者でもある。


 シャーロットとご両親のケインズ男爵夫妻と、シャーロットの婚約者のローガン・ファーガス男爵令息。


 この場にいる誰もがみんな、私にとってかけがえのない大切な人達だ。


 全員が揃ったところで、お義父様が改めて挨拶を行う。


「皆様、ようこそお越しくださいました。本日お招きした皆様には、改めてイザベラのことをお伝えしたく、このような会を開催させていただきました。なにぶんバタバタしておりまして、国の発表から1週間も日が空いてしまったこと、心よりお詫び申し上げます。イザベラ」


 お義父様の一歩後ろに控えていた私に前へと促すお義父様に頷くと、お義父様の隣に出る。


「皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。国からの発表がありました通り、私は先日、聖女の力が発現し、正式に聖女の任を拝命いたしました。しかしながら、どうか皆様には今までと変わらぬ関係で、仲良くしていただけたら幸いです。そして私を信じ、いつも心強い支えになってくださったこと、改めまして心から感謝を申し上げます」


 頭を下げる私の肩にそっと手を置いたお義父様が口を開く。


「イザベラのために、辛い立場に置かれながらもご尽力いただいたこと、我々家族一同、重ね重ね感謝申し上げます」


 家族一同頭を下げる。

 すると会場は温かい拍手に包まれた。


「では、乾杯の挨拶をさせていただきます。皆様の温かいご芳志に、乾杯!!」

「「「乾杯!!」」」


 乾杯が終わると私はマリア達と同じテーブルについた。「友人同士、気兼ねなく話せるように」とお義父様が配慮してくれたのだ。


「マリア、エヴリン、シャーロット、今日は来てくれて本当にありがとう」

「こちらこそ、イザベラと会えて本当に嬉しいわ」

「私もよ、イザベラ」

「私も。いつ来ても素敵な庭園ね」


 3人と出会ったのは、5歳の時に同年代の子供達が集められて王宮で開催されたガーデンパーティー。


 ふわふわした金髪に湖のように澄んだ碧眼を持つ、明るく正義感の強いマリア。

 サラリとした黒髪に若葉色の瞳を持つ、聡明で情の深いエヴリン。

 ふわふわしたミルクティー色の髪にアンバーの瞳を持つ、穏やかで芯が強いシャーロット。


 彼女達は幼い頃から私の境遇を知っていて、ずっと交流を深めてきた大切な友人達だ。

 噂が流れてからも私を信じ続け、懸命に噂を正そうとしてくれた彼女達には、家族同様感謝してもしきれない。


 色とりどりのスイーツに舌鼓を打ちながら、3人に急かされて聖女になった経緯を語る。


 3人は、時折涙を滲ませながら私の話を最後まで聞き終えると「本当によかった」と言って、お義母様の無事や聖女になったことで濡れ衣が晴れそうなこと、家族に愛されて今幸せなことに改めて喜んでくれた。

 

「イザベラが聖女として現れた時、正直スカッとしたわよね」


 マリアの言葉にエヴリンもシャーロットも大きく頷く。


「事前に話せなくてごめんなさいね」

「陛下から口止めがあったんでしょ?気にすることないわ。堂々としていて私達も誇らしかったわよ」


 エヴリンの言う通り、陛下から国の発表前に家族以外への他言を禁じられていたため報告できていなかった。

 どこから漏れるかわからない以上、致し方のないことだと理解しつつも、出来れば3人や、いつも良くしてくれていた3人のご家族には直接伝えたかった。


 家族はそんな私の気持ちを汲んで、今日のガーデンパーティーを提案してくれたのだ。


(私は本当にいい人達に恵まれたわ)


 3人の友人達の笑顔や、各テーブルで和やかに歓談するそのご家族と私の家族を見ながら、しみじみとそう思う。


「そういえばオーランド侯爵は今日いらっしゃってないのね」

「彼は少し遅れてくるのよ。もう少しで来ると思うわ」


 オーランド侯爵はエヴリンの婚約者だ。


「婚約者といえば、イザベラの婚約者選びはどうなっているの?釣書が殺到しているんじゃない?」

「ええ……」


 シャーロットに問われ思わず口をつぐんでしまう。


 確かにありがたいことに釣書は多く届いてはいる。だが、中には私を悪く言っていた人もいて、まだまだお義父様やお義兄様が精査中なのだ。


 そして1番問題なのは……。


「その顔、まさかとは思うけど、イザベラの元婚約者からも求婚が来てるなんてことは?」


 エヴリンの鋭い指摘にコクンと頷く。


「なんて厚顔無恥なの!!」


 マリアが語気を強める。


「あの発表後、イザベラの元義妹がすぐに婚約破棄されたって今話題になっているのよ。謝罪くらいはしているはずだとは思っていたけど、どの面下げてイザベラに求婚なんて出来るのかしら?」

「まさか、受けたりなんてしないでしょう?」

「もちろんよ。真っ先に断ったわ」


 私がそう答えると3人は揃って「よかった」と安堵の息をついた。


 そう、あの日お義父様から判断を仰ぎたいと見せられた手紙は、私の元婚約者からの手紙だったのである。


「こういう奴は厄介だ。自分に良いように事実を捻じ曲げる。まだ愛情が残っているとは思えないし、悪いがそうでも反対させてもらう。だが念の為イザベラの気持ちを聞きたい」


 そう言って差し出された手紙を読んだ私の感想は、


(ローガン様ってこんなに頭が悪い人だったかしら?)


 だった。

 

 書かれていた内容を簡単にまとめると。

 『自分は魔女に騙された哀れな被害者なのだから許されて当然』

 『まだ私の事を愛しているだろう?婚約を結び直そう』


 自分を裏切って濡れ衣で婚約破棄した上、義妹と婚約し、嘘の噂を社交界で流した人をまだ愛しているなんてこと、あるはずがない。


 そう言うと家族は皆心底ホッとした様子だった。


「こういう男は、私から断りの連絡を入れても納得しないだろう。面倒だろうがイザベラからはっきり断りの手紙を出した方がいい」


 お義父様からのアドバイスを受け、はっきりと求婚を断る手紙を出してから、元婚約者からの接触はない。


 そんなことをマリア達と話していると、「お待ちください!!」「困ります!!」という慌てた様子の声と、「イザベラ!!」と私の名を呼ぶ声が聞こえてきた。


(この声はまさか)


「イザベラ!!」


 現れたのは、今まさに話題に上がっていた私の元婚約者だった。

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