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桜の栞  作者: Maria
5/9

桜五枚、 桜色の雨。

─ガラっ。





梓先輩…っ!!!





…じゃないや。





「お待たせしました。それでは始めましょう。」





初めての生徒会の次の週。

もう委員会が始まってしまうのに、梓先輩はやって来ない。





「水嶋さんならたぶんもう来ないと思うよ。」





「…えっ!!?」





隣りの席に座っていた2年生の中村先輩。

こちらには一切視線を向けずに、ぺらぺらとプリントに目を通している。





何だか少し冷たそうな雰囲気。





「ど…どうしてですか?」





恐る恐る聞き返してみる。





「去年もそうだったから。席だけ置いてるっていうか。」




そんな…。





先輩にもう逢えないのかな…。





「…好きなの?」





「え…っ!!?な…どうしてですか?」





あ!!

こっち見た。

眼鏡がギラリと光って反射している。





「…"そんなぁ〜"って表情(かお)してるから。」





「……っ!!」





何かちょっと中村先輩って嫌な感じかも。





─放課後。





「し〜おりん♪委員会終わったの?一緒に帰ろうよ!」





「春山くん!!」





生徒会が終わって昇降口に着くと、同じクラスの春山くんが立っていた。





「約束したでしょ?」






約束…?

そういえば今朝、"一緒に帰ろう"って言われたようないないような…





春山くんはイヤホンを耳から外してくるくると巻いている。





「あの春山く…」





「嫌だなぁ♪"(あおい)"って下の名前で呼んでって言ってるじゃない♪」





「でも…そんなの、」





「俺としおりんは運命なんだよ?"春"と"桜"でさ♪」





「そ…そうなの?」





「とにかく帰ろ?」





「…う、うん。」





春山くんはけっこう強引です。

だけど誰にでも壁を作らずに接するからとっても話しやすい。





私は持っていない、明るくて人なつっこい雰囲気には憧れてしまう。






春山くんは本当に素敵な男の子。





だけどやっぱり駅まで歩いている間もずっと、梓先輩のことを考えて想ってしまう。





「しおりん今度映画とか行こうよ!」






梓先輩はどうして生徒会に参加しないのだろう?

副生徒会長なんてすごい立場なのに。





そもそもどうして学校にすらあまり来ないのかな…。





「映画が嫌なら遊園地もいいかもね♪しおりん!」






何か理由があるのかな…?





「しおりん!聞いてなかったでしょ?」





「…えっ!?あ…ご、ごめんねっ。何だっけ?」





春山くんは口をとがらせて少しだけ拗ねている。

何だか小さな男の子みたい。





「もぉ〜!だから今度どこか…」





その瞬間(とき)、一枚の桜の花びらが空を舞って私の前髪に…






「梓先輩…」






先輩に逢いたいなぁ。

逢いたいよ。





「…梓先輩って、3年の水嶋梓のこと?」





「え…っと…うん。」





春山くん?

空気が凍った…?





「…もしかして好きだったりするの?」





「え…っと…」





何だか急にいつもの春山くんの雰囲気じゃなくなったような気がした。





「……」





「…春山くん?」





「あいつはやめときなよ。」





あ、雨…。





「…どうして?」





前髪についた桜の花びらが雨に濡れている。





「…俺の姉ちゃんと付き合ってたの。生徒会に入ったのも姉ちゃんがいたからだよ。」





ザーザーと、雨脚は強まっていく…





「ついでに学校に来ないのはもう姉ちゃんがいないから…」





「それってどういう…」





「…桜ついてる。」





春山くんはそう言うと私の前髪についた花びらを取ってくれた。





「知りたい?なら今度の土曜日俺と過ごしてよ。駅前に1時ね。待ってる♪」





あ…

いつもの人なつっこい春山くんに戻った…?





そうして春山くんは走って行ってしまった。







一人残された私に、桜の雨が降り注ぐ。





梓先輩と春山くんのお姉さんが付き合ってた…?

どういうことだろう…?







「…大丈夫?」







桜色の雨が降りしきる中で先輩が立っていた。





「梓先輩…」





桜色の、やさしくて冷たい雨。





「傘貸してあげようか?はい♪」





「あ…ありがとうございます…。」





梓先輩の手から受け取った赤い色の傘。





「生徒会の子…だよね?」





先輩…

覚えていてくれたんだ。

涙が溢れるくらいに嬉しい。





よかった。

雨の中で本当に本当によかった。





「私…桜…桜栞です。」





「…可愛い名前だね。」





梓先輩はゆっくりと歩み寄って来て、傘に手をのばした。





「先輩…?」





「…ついてた。(しおり)ちゃん♪」





「先輩…っ」









そうして初めての桜の季節は終わりを迎えたのでした。


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