桜二枚、 二度目惚れ。
私の前髪にやさしく彼が触れたあの日から…
桜色の恋の始まり─
まるでそう、
彼は私にとっての麗しき、
桜の栞の人。
──
「栞〜?またそれ眺めてるの?」
結依がななめ後ろから声をかけてくる。
私ははっとして生徒手帳を閉じた。
「校訓を読みこんでただけだよっ。」
「真面目かって。」
結依は絵に描いたような呆れ顔をしている。
私は背すじをのばして、シャツの襟口をととのえた。
「私、結依とちがって優等生だもん。」
すると結依も姿勢を整えて、金色バッチのついたブレザーを羽織ってみせた。
「副生徒会長に向かって何か反論でも?」
「…い〜え。本家副会長。」
「よろしい!書記の桜栞さん♪」
私と結依は同じ生徒会の仲間です。
って言ってももちろん立場や実力は比べものになんてならないくらい。
結依と初めて言葉を交わしたのは生徒会選挙の始まる前の週だった。
「それって桜の栞…?」
生徒手帳にしまった桜の栞を見つめている私に、彼女が声をかけてくれたのだ。
「へぇ〜!一目惚れかぁ♪」
「あの、えっと、全然そんなんじゃなくって…っ」
第一名前すら知らないのに。
それにあの日以来一度も見かけてもいない。
一人ドキマギする私に結依は言ってくれたの。
「生徒会に立候補してみたら?」
こんな私が生徒会役員だなんてありえない!
うん…絶対にありえない。
「目立つのが嫌なら、書記とか?書記なら比較的一年生の私たちでも受かりやすいしさ!」
「書記かぁ。でも私なんて受かるはず…」
「そんなの立候補してみなきゃ分からないよ!それに…」
「それに…?」
「生徒会に入ればその憧れの先輩のクラスや名前が分かるかもしれないよ?」
「なるほど…」
…やってみようかな。
でもやっぱり一人で立候補なんて不安すぎるかも。
すると結依はブレザーの襟元をびしっと正して、
「私も立候補するから二人でがんばってみない?」
「え…結依ちゃんも立候補するの?他に一年生でもできるものだと会計とかかな?」
「副生徒会長だよ!」
「え…っ!?でもそれはいくら何でも難しいんじゃ…」
「やってみなきゃ分からないって!本当は生徒会長がよかったんだけどやっぱりそれは立候補権がないみたい。悔しいけど来年は絶対立候補する予定っ!」
「へ、へぇ〜…すごいね。結依ちゃん。」
そんな結依のことをかっこいいと思った。
素敵だなぁってすごく思ったの。
そうして本当に一年生初の副生徒会長になれちゃったのだから、彼女は本当に素晴らしい。
立候補用紙を二人で提出し終わったあとに、結依は右手を差しだした。
「それじゃあ改めて…本家結依です。受かっても受からなくてもこれからよろしく〜!」
「桜栞です。こちらこそ末永くよろしくね。」
そうして私たちは晴れて友だち、そして生徒会役員になった。
あっという間に梅雨は明けブレザーからシャツへ衣替えの初夏。
「栞〜♪ビックニュース!」
水色のシャツ姿の結依がかけ寄って来る。
知的な結依にとってもよく似合っている。
「どうしたの〜?素敵な話?それともそうじゃない方…?」
半分不安そうな私の肩を結依はぐっと掴んで言った。
「梓先輩!いま渡り廊下歩いてたよ!たぶん屋上の方に行くはず。行って来なよ、栞っ!」
「…先輩っ。」
──
先輩との二度目の出逢いは初めての生徒会の日。
「じゃあみなさんこれからよろしくね!」
─ガラっ。
「梓くん?もう委員会終わりますけど…!」
「ごめんね?恭ちゃん…」
少しかすんだ低い声。
少し着崩したブレザーがやけに大人っぽくて…
「……っ!」
その瞬間私は彼に、二度目の恋をしたのでした。