桜一枚、 桜の栞の人。
私の名前は桜 栞です。
この春卒業を迎える、
…彼を想っています。
彼を想う時間はいつでも桜の色に包まれています。
初めて出逢ったのも、桜舞う春でした。
─一年前、春。
「わぁ〜!すごいすごいっ」
まるで映画のワンシーンのように、春風に桜が舞いおどる。
その時だった。
一枚の桜の花びらが、ひらひらと私の前髪にちょこんと舞い降りてきた。
人差し指と親指で優しく手にとって、淡い空に透かせてみた。
「ハートみたい。なんかちょっと可愛いな。」
「…本当だ。」
少しかすんだ低い声。
少し着くずしたブレザーがやけに大人みたいで、ドキッとした。
それが彼との初めての出逢い。
見たことない…からきっと2年生、いや3年生かな?
どちらにしても絶対先輩だ。
すごく穏やかで落ちついた雰囲気のその人は、ゆっくり私の方へやって来た。
「新入生?制服、ちょっと大きいね。可愛い。」
「あの…っ、えっと…」
戸惑う私の前髪に、優しく触れた彼の手。
忘れない。
桜色の恋の始まり─
ぽん♪
「おめでとうってことで、もひとつおまけ〜♪じゃーね。」
すらりとのびた長い足、麗しい背中姿に、
恋をした。
「…ハートっ。」
まるでそう、
彼は私にとっての麗しき、
桜の栞の人。
 




