結婚初夜に旦那様から「君を愛することはない」と言われました……私は全力で愛してますよ?
ゆるゆる設定です。許せる方、読んでいただけると嬉しいです。
「ラスティア、君を愛することはないから……いい加減諦めたらどうだ?」
「なんで諦めないといけないんですか?」
結婚初夜に、“君を愛することはない”と言い放たれた私は、今……旦那様を組み敷こうと必死に戦っております。
さすが現役騎士団長。女の私の力じゃ、なかなか押し倒せません。
鍛えているからこその程よい筋肉。鍛えているはずなのに線の細い美しい肉体。肉体派のはずなのに知性を感じさせる整った顔立ち。……思わずヨダレ垂れた。
「ラスティー! ヨダレが垂れているぞ! 本当にやめろ!」
「やめません! なんで結婚初夜に夫となる方を襲っちゃいけないんですか!?……ふふふ、愛称で呼んでくれましたね」
「ラスティーと呼んだら、やめてくれると思って……そうではなくて……君にはそういう感情が持てないんだ!」
「やるだけやってみればいいではありませんか!」
「男みたいなことを言うな」
「今の時代、男性も女性もありませんよ?」
「それはそうなんだが、そうではなくて……もういい! 私は別館で寝る!」
そう言って飛び出していく旦那様の背中を見つめて、ため息をつきます。幼い頃、旦那様に一目惚れした私。私より3歳と78日年上の旦那様。立場もあり、当初は私を扱うことができなかった旦那様。私のあまりにも激しい求愛行動に、徐々に冷たくあしらわれるようになりました。そんなところもたまらない……。断られようと避けられようと思いを伝え続けてまいりました。それだけ好きなのです。だから、無理を言って、私を溺愛するお父様に頼み込んでこの結婚を整えてもらったのです。……国王陛下に。
「さてと、旦那様は別館で寝るとおっしゃいましたね……? マナ、いらっしゃい?」
「お呼びでしょうか? お嬢様」
私の声を聞いて、専属メイドが現れました。お人形のような容姿の彼女は、メイドだけでなく色々なことができます。そう、いろいろなことが……ふふふ。
「旦那様に媚薬を盛ってきてちょうだい」
「……お嬢様、いえ。ナカルダルク伯爵夫人。さすがに初日に媚薬を盛るのは、外聞が悪すぎます。伯爵が愛用されている布団ならびに先ほどまで身につけていた服を持ってまいりますので、そちらとの添い寝で我慢していただけますか?」
「……まぁ! 本物が手に入らないのは悲しいけど、それならそれで我慢するわ」
「ありがとうございます、伯爵夫人」
「おい! メルス! 昨夜はどうだったんだ?」
ニヤニヤとした様子で、旦那様に声をかけるのは同僚のパルシア様です。なぜ私がここでもお話ししているかって? 旦那様の行動は24時間365日見ておりますので。今日はメイドに変装しておりますわ。
あぁ……鬱陶しそうに振り返る旦那様も麗しい。
「……バマタ。うるさい。貞操は守った」
「結婚初夜に!? あんなにお前のこと愛してくれる王女様だぞ!? とびっきりの美女の。その上、あんな身体してるのに、よく我慢できたな……」
「……不敬だぞ。……ラスティー、いや、ラスティア様は、性格が好みじゃないんだ」
「まぁ、あれだけお前に対しての変態行動を見せていたら、引いちまうか……」
まぁまぁまぁ! 性格が、ということは、外見は好みということですわね!! 理解しましたわ! さりげなく不敬と言ったあたり、俺の妻って意味かしら!? 今夜は寝かせませんわ!!! マナ! 媚薬は用意できたかしら!?
「……なんか背筋がぞくりとしたぞ」
「……また、お前の奥さんがその辺に隠れているんじゃないか?」
「いや、俺の妻は常に俺を見張っているぞ……」
ため息をつきながら、髪をかきあげる旦那様の色気がムンムン……。ではなく! 聞きましたか!? 今私のことを“俺の妻”って言いましたわ! なんだかんだ私のこと好きなんだから!
「いや、メルス。さっきはからかって本当に悪かった。結婚生活に疲れたら、いつでもうちに逃げてこい。今すぐでもいいぞ」
「……もれなく妻も着いてくると思うが、いいか?」
「……メルス。お前、思ったより悪い気してないんじゃないか?……すまん。そんなことないよな」
私が旦那様を見るという至高の時間を過ごしていると、見知らぬ男性が近づいてきました。
「ねぇ! 綺麗なお姉さん。お姉さん、騎士団の人のファン? 僕のファンを絶賛募集中なんだけど……」
「あら? 初めてお見かけする顔ですね? あなたも騎士団の方なのですか?」
見られないように隠れている私の護衛たちの空気が張り詰めます。旦那様の所属する騎士団にはこのような男性いらっしゃらなかった記憶ですが……。
「最近入ったばっかりなんだけどさ。ファンが増えると街で姿絵が売ってもらえるって聞いて! 収益も少し入るんだって! 騎士団長はいいよな……ファンがたくさんいるからがっぽがぽだぜ! 俺、フランツ!」
「あら……。あなたみたいに愛らしい顔立ちのお方でしたら、きっとすぐにファンが増えると思いますわ。そうですわね……なら、私がファン1号になって差し上げますわ」
……この方、先ほど視線がちらりと私の護衛の隠れているあたりに向いた気がしますわ。念のため、見張らせていただきましょう。この国の害になったら困りますもの。
「本当!? ありがとう!! お姉さん、名前なんて言うの?」
「私は、ラスティーと申しますわ」
「ラスティーね! ありがとう! また話に来るよ!」
こちらの方、先ほどから私のことをただのメイドと思っていらっしゃるご様子で話しかけていらっしゃいますわ。……それにしては…………まぁ! 旦那様が稽古をつけていらっしゃいますの! 煌めく汗もダイヤモンドのようですわ! もったいない……。あのあたりの地面を掘って、持って帰ろうかしら!?
「……バマタ。今汗が落ちた辺りを念のために水で洗い流しておいてくれ」
「……了解」
「くそっ、ばれましたわ」
「ねぇ、ラスティー! みてよ、今日の試合で勝ったんだよ」
「まぁ! フランツはすごいのですね!」
「ふふん、まぁね」
あれから、私とフランツはよき友人となりました。私が騎士団長である旦那様のファンと知って、いろんな話を入荷してきてくれるようになりました。
「まぁ! そんなことがあったのですね!」
「……いいのか? お前の奥さん……いやあの求愛行動よりかはいいかもしれないが……」
「……」
その夜、私は旦那様に呼び出されました。
「フランツとかいう新人と仲良くしているようだな」
「えぇ。私はフランツのファン1号ですから! あれだけ愛らしいのですから、きっとすぐにファンが増えますわ!」
「君は……私のファンではないのか?」
「旦那様!! 押し倒してもいいですか!?」
「やめ、やめろ、落ち着け。それよりも、夫婦二人でわかりあう時間が必要だろう」
「まぁ!」
あまりの私の愛に折れて、今ではすっかり相思相愛の夫婦となったのでした。
「ラスティー? まだ、そういう触れ合いには至っていないだろう?」
「でも、少しは私に魅了されていらっしゃるんでしょう?」
「まぁ……」




