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【20】 母、国を語る②

「そうね……まずは『ハイン帝国』から説明しましょうか」


 私の生まれ故郷であることは、伏せといてもいいだろう。余計なことを口にして、気をそらせたくない。……いつか機会が来れば、話せばいいのだ。


「幾度となく領土拡大を繰り返して成長した国よ。特に功績が大きかった、と言われているのが先代の皇帝、ミハイル・フォン・ハインね。そのおかげでテラウスディン教国とは大陸を2分するほどの巨大国家となり、今も周辺諸国に睨みを聞かせているわ。エヴァンス王国も、彼らの庇護下にいるの」

「ひごか……ってなんだ?」


 ヴァールハイドに聞かれて、人に教えるのというは存外難しいな、と私は思った。

 相手がまだ子供だから、というのもあるだろうが、これでもかみ砕いて、わかりやすく話してるつもりだった。

(先生もこんな気持ちだったのかしら……)

 学園でお世話になっていた先生に、よく面倒をかけていた。

 当時、貴族の作法や、しきたりなど面倒に思って、いつも話半分で、聞いていたとしても右から左、といった状態だった。

 先生はそれでもめげずに、最後まで私に教えを説いてくれた。そのおかげで、今の私がある。

(そういえば、先生はどうしているだろうか……?)


「言い方が難しくて、分かりづらかったわね。守ってもらっている、と言えばわかるかしら?」

「そんな強い国なのに、なぜ私たちを守ってくれるのですか?」


 フィリシアの質問が止まらない。

(聞いたことがある……子供は一度質問しだすと止まらなくなる、と。こ、これが噂のあの状態なの……!?)

 まさか私がその状況に出くわすなんて、夢にも思わなかった。うれしい反面、なかなか大変なことがわかった。


「いろいろ事情があるのよ。それはまた次の機会にしましょう」


 これは外交問題に関わってくるし、不可侵条約……そのために1年に1度、物資や金品を献上していることまでは、もっと大きくなってから教えればいいだろう。


「ハイン帝国は大きなだけあって、いろいろ物が集まるし、人々が豊かに暮らし、かなり発展しているわ。ただ、貧富……貧しい人と、お金持ちの人の差はかなりひどいわね」

「だったら、オレたちとたいしてかわんねーじゃん」


 ヴァールハイドが痛いところを突いてくる。子供ならではの視点ということだろうか。


「エヴァンスは国自体が豊かではないから、少し違うのだけれど、大雑把に言ってしまえばそうかもしれないわね」

「どこの国も……似たようなもんか」


 路地裏での生活を思い出しのだろうか? 

 ヴァールハイドは少し口を尖らせ、腕を組んで不機嫌な態度になったが、私はそのまま続ける。


「あと貴族の男性は必ず名と家名の間に『フォン』が入るわ。女性なら『デュ』ね。例えば『フィリシア・デュ・フェルデン』といったぐあいに。だから名前を聞けば、貴族かどうかすぐにわかるわ」

「国によってそんなに違うものなのですね。なんだか面白いです」

「あなたも将来、学園に行けば、もっと知る機会が増えるわ」

「楽しみです!」


 数年先の話だというのに、フィリシアの意気込みがすごい。学園に行くのに消極的だった私とは大違いだ。


「次はテラウスディン教国ね。エヴァンスとはあまり交流がないし、彼らの教会も無いから、私もそこまで知っているわけではないわ。たしか、ラ・テラス神が絶対であり、唯一神と崇め奉っている教徒たちの集まり、といえばいいのかしら。日に5回は祈るそうよ」

「うわっ、5回も祈んのかよ。ぜってーやりたくねー」

「兄さんは1日1回でもいやがるしね」

「ふん。祈って腹がふくれるかよ」


 お腹を空かせたものに神など居ないも同然だ。彼らが救いの手を差し伸べてくれるわけではないのだから。

 それでも何を信じるかは個人の自由だ。信じたいものは信じればいい。それが……生きる糧となるのならば。

 商人というのは現実的だ。神を信じないわけではないが、結果が不確かなものを当てにはしない。

 道中の安全や、取引がうまくいくよう、神に祈ったりする。

 だが、それに頼り切ったり、すがったりはしない。あくまで、おまけにしか過ぎない。

 ヴァールハイドの言葉を借りるわけではないが、「祈ってなんとかなるならば、苦労しない」お父様からもそう教えられたし、私の中にもすっかり根付いている。

 中には信心深い商人もいるだろうが、大抵は私のような考え方だろう。


「ラ・テラス神って、どんな神様なのでしょうか?」


 フィリシアが聞いてきたので、


「この世界を作り、私たち人間も生み出したと言われる一番えらい神様よ」


 そういえば以前、フィリシアと約束する時、女神に誓いを立てたのだから運命の女神・イリシシュカは知っているはず。

 逆にラ・テラス神を知らないのは意外だった。ラ・テラス神に比べれば、女神イリシシュカの方が知らない人が多い。

 いつ知ったのだろうか……?

(まぁ些細なことか……)

 さして重要なことでもないので、私は自分の中の疑問をすぐに打ち消した。


「ほかにもいろんな神様がいるのですか?」

「そうね……ぱっと思いつく限りで、火や水を司る神様……生活には欠かせないから、どんな人も恩恵にあずかっているといえるでしょう。そうそう、忘れてはいけないのが商売の神様ね。商人には大事でしょう?」

「オレも知らなかったけど、いろいろいるもんだな」


 商人は商売の神・セールダールを信奉していることが多い。

 なんでも大変なお金好きで、それで商人たちが祈るものだから、自然とそう呼ばれるようになったとか。が、お父様に言わせるともう一つ大事なのは「運」だという。

 だから運命の女神・イリシシュカにも感謝を捧げると言っていた。この他の商人との些少の違いが、成功を収めた秘訣の一つかもしれない。


「だからこそ私たちは感謝を忘れてはいけないわ。テラウスディン教国のように、日に何度も祈る必要はないけど……たまに思い出した時、感謝を伝える程度でいいのよ。それだけでも十分、神様には伝わるわ」

「ふーん、それだったらオレでもできそう」

「兄さんはもう少し感謝したほうがいいわ」

「ちぇ……ミリアにはかなわねぇや」

「ふふ……」


 思わず皆笑いだす。


「そんなに神様がたくさんいるのに、一人しか認めないなんて、テラウスディン教国ってなんだか……窮屈な考え方」


 と、フィリシアは独り言のようにつぶやいた。

 彼らの主義主張をどうこう言うつもりはないが、教義として推し進め、広めているのだから、私たちからしたら迷惑なことには違いない。

 押しつけは、商人の中でかなり嫌われる行為だ。

 あまり関わりあう事がないのが、幸いだった。


「オレ知ってるぜ。そういう連中をなんていうのか」

「あら、なんていうのかしら?」


 ぜひヴァールハイドの意見を聞いてみたい。


「“恩知らず”っていうんだろ。自分たちはもらうもんだけもらって、知らんぷりなんだし」


 神が人間に対してどう思うかは、わからないけれども、たしかにそうかもしれない。

(本当にこの子は、時々鋭いことを言うわね)

 大人になっても、この鋭さを失わないでほしいものだ。


「だけど、オレは……違うからな。そんな連中とは。……忘れねぇよ、拾ってもらったこと」


 言うだけいってヴァールハイドは気恥ずかしそうに、そっぽ向いてしまった。

 よく見ると耳まで赤い。精一杯勇気を振り絞って伝えたのだろう。


「私もです……」


 ミリアリアはなぜか顔を赤らめ、フィリシアではなく、私を見ながら言った。

(シアじゃなくて、私……?)

 よくわからないので、適当に頷いておいた。

 嫌われるより好かれている方がいいに決まっている。


「二人ともかわいいですわっ」


 フィリシアが二人の手を取り、ぶんぶんと振り回している。片手を握られ、振り回されているというのに、相当恥ずかしかったのか、ヴァールハイドは外の方を向いたままだ。

 よほど気まずいのだろう


「シア、狭い馬車の中で暴れるのは止しなさい」

「ごめんなさい、お母様……」


 一流の悪役令嬢を目指すだのなんだのと誓っても、こういうところはまだまだ子供っぽい。そこがまた可愛いところでもある。

 バツが悪くなったのか、フィリシアは兄妹(きょうだい)に「妖精はいると思う?」と話を振った。



「妖精なんているわけねーだろ。大人の考えたおとぎ話だよ」

「わたくしはいると思いますわ」

「兄さんはほんと夢がないんだから」



 3人は先ほどの妖精の話に花を咲かせ、きゃっきゃっと盛り上がっている。

 私はぼんやりと窓から景色を眺める。

(領地に戻ったら、まずはフィリシアの淑女教育……悪役令嬢がどの程度のものかは知らないが、先々必ず役に立つだろう。あとは息抜きに一緒に買い物したり、おいしいものでも食べたいわね……)

 馬車の適度な振動が心地よい。久しぶりだが、見慣れた景色が見えてきた。

 もう間もなく領地へ着く。私とフィリシア……いや、兄妹も含め私たちの新しい生活が始まる。



途中でローファンタジーに切り替えたんですが、知人が調べてくれて、

「おまえのハイファンタジーだよ」って教えてもらいました……

なので、またジャンルを変えてハイファンタジーに変更しました。

これで今度こそバッチリなので大丈夫!

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