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【19】 母、国を語る

 爽やかな風が時折馬車の中を駆け抜け、私の肌をくすぐる。今日は雲一つない晴れ空で、暑くも無く、過ごしやすい日だ。


 新しい使用人が来てから、問題も無く……と言いたいところだけど、多少の問題が起きた。

 まずミリアリアには驚いた。

 実はけっこうしっかり者だと思っていたのだが……いや、しっかりはしている。

 仕事もやる気があり、覚えようと健気に頑張っている。それは間違いない。

 ただ恐ろしいぐらいの欠点というか、ある意味才能というべきか……。

 兎にも角にも、皿との相性が悪い。


 なぜか割る。とにかく割る。どんな態勢でも、どんな状況でも割る。「親を皿に殺されたのか?」と思うぐらい割れる割れる。あそこまで行けば立派な才能である。たぶん両手両足縛っていても、割るんじゃないだろうか。おまけに必ず割る前は「あっ」と声を出す。そこまでわかっているならなぜ防げないのか……。


 ミーシャは皿の軌道をしっかり見てるだけで、何もしないし、皿は助けないくせにちゃんとミリアリアだけは倒れそうになっても、しっかり抱きかかえて助ける。人としては正しいが。

 ヴィクターが同所している時は、咄嗟に受け取り、何枚か割らずに済んでいる。表情を崩さず、受け止める姿は、さすがヴィクターといえよう。

 そのためミリアリアには皿接近禁止令が出た。

 久しく客人は来ていないので、高価な皿を使う機会もなかったし、高価な物への被害は無いからよかった。こう割られていては、さすがに気持ちも数も持たない。


 領地についたら、せっかくだし新しいものをいくつか用意させよう。

 フィリシアと街へ行き、一緒に選ぶのもいいだろう。フィリシアも喜んでくれるはずだ。

 そう考えると、皿が割れたこともそこまで気にならず、反ってよかったかもしれないと思えてきた。

 娘と二人で買い物に出かける……なんて1、2年前では考えられなかった。

(二人で目いっぱい楽しもう。来年の妖精祭も一緒に見れるわね)

 今から考えるだけで、温かい気持ちで包まれる。

 私が物思いにふけっていると、


「街の外ってこんな景色になってるんですね」

「わたくしも初めて見ました!」

「ぼ、ボクは見たことありますです」


 馬車の中で3人が和気あいあいと話している声が耳に入ってきた。一人は少々言葉使いがおかしいが。

 領地までの距離は短くはないので、話し相手にと思って、年の近いヴァールハイドとミリアリアを同席させたのは正解だった。

 フィリシアとミリアリアは同い年だった上、女の子同士なおかげか、馴染んだようだ。

 反面ヴァールハイドは、ぎこちなさを醸し出しながら、私の隣で、若干固くなり座っている。

 出発前にヴィクターが何かしら言い含めたに違いない。無理に口調を改めようとして、余計おかしくなっている。

 本人には辛いだろうが、これも慣れだ。我慢してもらおう。


「お母さま、まだまだつかないのですか?」


 初めての遠出で、フィリシアも嬉しいらしく、馬車に乗ってからはしゃぎ気味だ。


「そうね、まだ先かしら。そうだわ! せっかくだから今のうちにお勉強としましょう」


 その言葉を聞いた途端、ヴァールハイドはあからさまに嫌がっている。小さな声で「うぇー」と言っていたのを聞き逃さなかった。さすがにそれを、はっきり言うつもりはないようだが。

 女の子二人は気にならないようだ。


「大丈夫。勉|強と言っても、昔話を聞くだけよ」

「昔話……?」

「そう、とても古い昔のお話」


 昔話と聞いて、ヴァールハイドも嫌悪感が下がったようだ。3人とも、興味を持ち出している。


()()()()()の物語を――」



 むかしからこの地には、人々が住んでおり、森には妖精がいました。

 妖精は神のつかいとされ、人は妖精をうやまい、仲良く暮らしていました。

 愛らしい姿をした妖精はとてもいたずら好きで、人間をからかうのが大好きです。

 妖精のいたずらはかわいいもので、何かを隠したり、森へ入った人を少し迷わせたりします。

 妖精のいたずらは頻繁だったため、人々もちょっと困りものでしたが、平和に暮らしていました。

 しかし、そんな日々は長く続きませんでした。

 人々が何も言わないのをいいことに、妖精のいたずらはどんどんひどくなります。

 これには人々も困りました。

 でも、神のつかいである妖精をどうにかできる人は誰もいません。

 そしてある日……ついに一人の人間が、妖精のいたずらのせいで、死んでしまいます。

 その出来事のせいで人間たちはうやまっていた妖精を、怖がるようになってしまったのです。


 そこへ一人の旅人がやってきます。

 彼は人々が妖精に悩まされているのを聞くと、「私が何とかしてみよう」と言い、みなに妖精と遊ぶことを提案します。

 しかしみんなは怖がってしまい、なかなかその気になってくれません。 

 そこで旅人はならば遊ぶのではなく、「みなで歌って踊ろう」と言います。それなら怖くないと、人々は準備を始めます。

 旅人が持っていた楽器で音楽を鳴らし、人々は飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎです。

 騒ぎに釣られて妖精もたくさんやって来ます。妖精は楽しい気分なって、すっかりいたずらすることを忘れてしまいました。

 お祭りが終わっても、妖精がいたずらをすることはありませんでした。楽しい気持ちがずっと続いていたからです。

 こうして人々は、妖精に再びいたずらされないようときおりお祭りを開くことにしました。

 人々は旅人にすごく感謝し、その後のお祭りも旅人に開いてくれるよう頼みます。

 それがきっけかで人々が集まるようになって、エヴァンス王国が誕生しました。



「……おしまい。その時の旅人が、初代の王様と言われているわ」


 私が話終わると、皆きらきらと眼を輝かせながら、身を乗り出してきた。……約1名を除いて。

フィリシアとミリアリアはかなり気にいってくれたようだ。

(こういうところ、男の子と女の子だと違うわね……)

 それでもヴァールハイドの表情を見る限り、つまらなかったわけではないらしい。


「よ、妖精って本当にいるのですか!?」


 質問の一番槍はフィリシアだった。


「さあ、どうかしら? 少なくとも私は『見た』、という人に会ったことはないわね」

「そうなのですか……? 残念です……。わたくし、ぜひ見てみたいですわ」


 今でも妖精の存在を信じる人は、ほとんど居ないだろう。何かしら妖精に関して文献が残っていれば、まだいいのだが……この話すら王国に古くから伝わる言い伝えで、国民にも広まっただけに過ぎない。

(そういえば私も子供のころ、いたらみてみたいって思ってたわね……。なんだかんだと、親子って似るものなのね)


「私も孤児院で『()()()()()』の物語、きいたことがあります」

「あら、そうだったの。けっこう有名なお話ですものね」


 ミリアリアはすでに知っていたが、その話が建国の歴史とまでは知らなかったらしい。よくあるおとぎ話の一種だと思っていたようだ。


「あれ、それってよ、たしか続きがあったんじゃなかったっけ?」


 ヴァールハイドの口調がすっかり元に戻っている。慣れないとこんなものだ。私も昔、散々苦労させられた。

 いちいち指摘していたら、気がそれてしまうので、今は何も言わない。


「そうだよ、兄さん。旅人は妖精の女王さまと結婚して、幸せに暮らしたって」


(兄妹だとこんな感じで喋っているのね)


「場所や地方によって、語られている内容が少しづつ違うみたいだわ。もしそれが本当なら、王族は妖精の血を引いてる一族……ということになるから、素敵な話ね」

「ふぉぉ、一気にファンタジー要素が……っ!」

「難しい言葉を知っているのね、シア」

「ふぇ? え、あ……たまたま、そう! たまたま本で読んだのです!」


(本でしか聞かない言葉を知っているなんて、さすがは私のシアね)


「勉強熱心なようで何よりだわ。みんなもせっかくだから、このまま諸外国、つまり周りの国のことも知りたくない?」



「知りたいですわ!」

「はい、聞いてみたいです、奥さま」

「ま、まぁちょっと気になるかな……」



 初めにこの国の成り立ちを話してよかった。おかげでみんな、少しは国に対して興味を持ってくれたようだ。

 明確な目的もない勉強など退屈なだけだし、どんな事でも、知っていれば役に立つ日がくるかもしれない。


「まずは王国の北東の山を抜けた先には、この大陸で一番大きな国、『ハイン帝国』があるわ。北西側の山には、一大宗教国家、『神聖テラウスディン教国』よ。大抵はテラウス教国とか、ディン教国と呼ばれてるわね。そしてエヴァンスとこれらの国を跨いでいる山々が、ジーア山脈よ」

「二つはどんな国なのですか?」


 フィリシアはかなり興味を持ったようで、先ほどから率先して問いかけてくる。いい傾向だ。


体調も回復してきて、無事更新できました。

その間もちまちま書いていたので、来週分も確保できてます。

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