【14】 母、父親と会う②
「まあいい。試すなような真似をしてすまなかったな。貴族の世界も一筋縄ではいかんだろう。年寄りのお節介だと思ってくれ」
先ほどとは打って変わって物憂げな表情をしている。娘の件もあるし、私のことも心配して、言い始めたことなのだろう。爺馬鹿である前に、親馬鹿の一面があることをすっかり忘れていた。
「……お父様、私だってもう十代の小娘ではありませんし、これまで侯爵家夫人を勤めてきた自信も、自負もあります。ご心配には及びませんわ」
「……それもそうだな」
お父様はそう言うと笑みを浮かべた。
「それでもこうして気にかけてもらえるのは、私としてはとても嬉しいですわ」
「ああ、愛しのリジー……おまえとシアが幸せなら、それでいいのだ」
私のことをリジーと呼ぶのはこの世でただ一人。お父様だけだ。もしかしたら亡くなった母もそう呼んでいたのかもしれない。
お父様は母の事をあまり喋りたがらない。なので私はあまり母の事を知らない。一時期は知りたい気持ちが強かったが、年月も経っているし、母親が恋しい年ごろならともかく、さすがに今は知りたいと思わない。
(母と言えば、お互い故郷の話もしなくなったわね……)
「それで今日はどうした? わざわざ顔を見せにきたわけではあるまい」
「私たちは領地に戻るつもりです」
お父様の顔が一瞬強張ったが、すぐにいつも通りの温和な雰囲気に戻った。
「……カイン王子と婚約したから、か?」
なぜその事を……。今日の昼前に話し合ったばかりだというのに。
この事はまだ私とフィリシア、国王夫妻とカイン王子の5人しか知らないはずだ。
例え誰かが口外したとしても、お父様の耳に入るのには早すぎる。
「そう驚くな。王城に勤めている友人が王たちの様子を教えてくれただけじゃよ。実際に婚約したかは知らなかったが、どうやらおまえの反応を見る限り、当たっておるようだの」
「はい、実は今日……」
フィリシアとカイン王子が婚約するに当たって、私が提示した条件など、国王夫妻と取り決めたことを委細報告した。
それを聞いたお父様は思案顔になり、
「ふむ……正式に婚約発表するのは、学園へ入学が決まってから。公式の行事は出席せず、社交界、茶会や夜会等にも一切顔を出さない、か」
最後の条件は、元々社交界に出すつもりはなかったので、ほぼおまけと言ってもいい。婚約はどこからか漏れるだろうが、王家から公表しないことが大事なのだ。
「エリザベス……とんでもないことをしたな」
お父様は腕を組み、うなっている。
「何かいけなかったでしょうか……?」
「いや、その逆だ。よくこんなとんでもない条件を飲ませたな。要は領地に籠って隠遁する、と宣言してるのだからな」
「それについては国王夫妻……特にアリシアがフィリシアのことを可愛がってくれているので、慮ってくれたのです」
「そうか、王妃様がな……借りができたな。儂でよければいつでも力になろう」
「私としては王子との婚約などどうでもよかったのですが、予想よりもフィリシアが乗り気な上、当のカイン王子もあっさり了承したものですから、どうしても先ほどの条件は譲れなかったのです」
「おいおい、仮にも次期国王だぞ? それをどうでもいいと切り捨ててしまう、おまえには違う意味で感心させられるよ」
さすがのお父様もあきれ顔だった。確かにちょっと言い過ぎたかもしれない。……がそれが偽らざる本音だった。いくら親友のアリシアからの頼みと言えど、私にとって何より優先すべきものは揺るがない。
「お父様も先ほど言っていらしたでしょう? シアが幸せなら、それでいいのです」
「……それもそうだな。しかしこれであの国王夫妻も少しは気が休まるだろう。こと王子に関しては心を砕いておったからな」
「そうなのですか?」
王子自身の噂は時々聞いていたが、アリシアから婚約を持ち掛けられた時以外、相談されたこともなかったし、気にしているそぶりも見せなかった。
(親友なんだし悩んでいるなら、一言いってくれればよかったのに……)
そんな私の胸中を察したのか、
「おまえにはフィリシアの件もあるし、言い出しづらかったのだろう。この婚約で王子が少しでも興味を持った、と、いうならば何かしら変化は起きるかもしれんな。どうなるかは儂にも想像がつかんが」
話が一段落したところでお互い楽な体勢になり、一息つく。
話のストックがあと1つあるので、来週も木曜か金曜あたりに更新します。
次の話は全力で書いている最中です。
ただ、基本的に1話1話、すべて書き上げるまで更新するつもりはないので、
また少しお待たせするかもしれません。
書いてる途中だと、どのぐらいの長さになるかわからないんですよね。




