【11】 母、孤児と邂逅する
そうこう考えているうちに、少年が取り出したのは私が花売りの少女にあげた……ハンカチだった。
「……貴方、これをどこで手に入れたの?」
思いがけない物が出てきた事で、声に力が入る。
ハンカチを見ると金色の糸で私の名前が刺されているから本物だ。
自分で刺したものだから間違いようがない。
「妹から……」
「妹?」
少年のぼさぼさ髪が目にかかっていて、見え隠れしているため表情がはっきりとはわからないが、言われてみれば似ているような……似てないような……。
というかよく考えたら花売りのあの子の顔もぼんやり、としか覚えていない。
「い、妹っていっても、ほんとうの兄妹じゃなくて!」
恥ずかしそうに口ごもりながら、
「面倒みてるうちにその、なつかれたっていうか……いつもオレのこと、『おにいちゃん』って呼ぶから……」
(実の兄妹じゃなかったのね)
「それで、その妹さんからどうしてこれをもらったの?」
机に置かれたハンカチを指で二度ほど軽く叩き、疑問を投げかける。
「いらないっていったんだ。でも……オレがいつも危ないことをしてるから、無理やり渡されて、何かあったらこの商会で『エリザベス』って人の名前をだせって」
「危ない事って、どんな事をしているの?」
少年に聞くと、黙ったままちらりと後ろを見て、ニースの事を気にしている。言った途端、騎士団に突き出されると思っているのだろう。
「大丈夫よ。騎士団に突き出したりしないから。……さすがに人を殺したことがある、なんて言われたらかばえないけどね」
「そ、そんなことするかよっ!」
「あら、そうなの? 危ないっていうからすごく悪い事だと思ったのだけど」
もちろんわざと大げさに言っただけだ。そうでもしないと話してくれそうになかったから。
「……だよ」
「えっ?」
「ぬ、ぬすみだよ! 金とか、食い物とか……」
「なぜ? 孤児院に居れば生活に困ることはないでしょう?」
「あそこはダメだ! 食べ物を取ったり、殴ってきたりする連中がいて、それが嫌でなるべく孤児院には近寄らない。妹もそうだ。だからオレが面倒みてやってるんだ」
どこの世界にもうまくやる人間は存在する。問題にならないのは、院長を含め孤児院を運営してる人間側が腐っているか、傍若無人に振舞っている集団が、バレないようやっているのだろう。
(こういう時、なんと声を掛けたらいいのかわからない……)
「……話が少し逸れたわね。事件のことを教えてくれるかしら?」
「あ、ああ……」
整理すると、経緯はこうだ。
パンを盗んだ少年は騎士(と言っても隊員ではなく団員)に追われていたので、ほとぼりを冷ますためにしばらく路地裏に潜んでいた。
その時、表通りから何かが割れるような大きな音がしたので、何事かと様子を見に行った。だがちょうど犯行が終わった後でその姿を住人に見られていた、というわけだ。
そして犯行を行った孤児については、後ろ姿を見ただけだが、同じ孤児院に住んでいる二人組に間違いないと、言い切った。しかも好き勝手やっている例の集団の二人だと発覚した。
当然少年には恨みもあるし、孤児もそう多くはないため間違いということもないだろう。
もちろん念のためニースに調べさせるが……これだけ情報が揃えばも真偽もわかるし、難なく犯人は捕まりそうだ。
(……あの時、馬車からみかけて、追いかけられていたのは彼だったのね)
「オレは追われてたし、見つかるのがコワくて逃げたんだ……」
「話はわかったわ。……正直に話してくれてありがとう」
言い終わると同時に私は頭を下げる。
頭を上げ、少年を見ると彼は不意をつかれたようで、うろたえている。
「あ、あんたえらい人なんだろ……!? お、オレみたいな孤児に、頭なんか下げていいのかよっ」
「ふふっ、いいのよ。商人は誠実でなければいけないわ。あなたが私としっかり向き合ってくれたから、私もそれに答えただけよ」
(……この子、状況が読めていないのかと思ったけど、思ったより頭が回る。
それにしてもどうしたものかしら……? ただこのまま帰すといっても芸が無いし、花売りの子に渡した銀貨は一人分だと思ったから1枚だけだし、二人分となると1週間も持たないわね……。かと言って帰す間際にただ渡しても、金持ちがこれ見よがしに施したようで、この少年は嫌がるだろうし……)
「……どうしたものかしらね」
自分でも気づかずふと漏れた一言だったが、
「や、やっぱり騎士団につきだすつもりなのかっ!?」
「あっ、そうじゃな……」
その時、勢いよく扉が開け放たれ、
「話はすべて聞かせてもらいましたわッ!!」
フィリシアが胸を張り、堂々と現れた。
少年は、フィリシアの方を見ながら呆気にとられている。
私も多少は驚いたが、貴族たるものそんな事まで顔に出してはいけないし、驚かないにはもう一つ理由があった。
いまだに少年の肩を押さえているニースが、まったく動じていなかったからだ。
そもそも「話は聞かせてもらった」ということは聞き耳を立てていたわけで、ニースはいつからかわからないが、気づいていたのだろう。だからニースの表情を一瞬見て、察した私もそこまで驚かなかった。
(それにしても聞き耳を立てるのは、行儀が良いとは言えない。あとで、しっかり、シアに釘を刺しておきましょう)
その時、ふとニースと目があった。ニースは私を見ながら穏やかに微笑むだけだった。
(こっちにもしっかり苦情を言っておこう。そうしよう)
「言いたい事はありますが、それは後にしましょう。そこだと話声が筒抜けです。シア、中に入って、扉を閉めなさい」
思わず心の中で溜息をつく。
「はい、お母さま」
久しぶりの更新です。大変長らくお待たせしました。
最近やっと自分らしく書けてきてる気がします。3万5千文字も書いてといて、
やっとかっていうね。
次話も来週には更新しますので、お楽しみに!




