7 オペレッタの幕開け
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
・この特別試験は個人戦のサバイバルゲームである。
・全員がこの施設内に集まったところで30分の猶予が与えられ、各自フィールド内で自由に初期位置を決めることができる。
・配布されたリュックの中には模擬の『狙撃銃』、『小銃』、『拳銃』が一丁ずつ、その他物資がいくつか入っている。取り扱いについては、説明書が同封されている。
・銃は全てレーザー銃であり、相手に当たったかどうか、どのくらいのダメージが入ったかは、フィールド内に無数に設置してあるカメラ、銃に仕込まれているセンサーなどを通じ、AIによって判定される。
・個人の端末内の個人ページ(残りHP 弾倉残数 etc)、または全体ページ(残り人数 脱落者表示 etc)を見ることができる。
・制限時間は三時間。ただし残り生徒が一人となった場合には即終了となる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
端末に送られてきたのは、細かなルールを除けばこのような内容だった。
かなり単純なルールだ。気になる点は少なからずあるが、後々確認していけばいいだろう。
然る後、施設内に他クラスの生徒たちが続々と入ってきた。
学年の生徒へ一斉に通知が送られたのか、多くの生徒が端末を眺めている。
そして、最後の生徒が入り口をくぐったところで30分のカウントダウンが端末に表示された。
秒刻みで、刻々と時間が過ぎていく中、生徒の大半はその場を動けずにいた。
先生たちの姿はすでにない。
「ええ... 私たち制服のままでやるの? 汚れちゃうよ」
「そうだよね、服くらい変えさせてくれたっていいのに...」
女子生徒たちの嘆きがところどころから聞こえてくる。
サバイバルゲームのスーツにでも着替えて試験をするのかと踏んでいたので、まさしく拍子抜けである。
しかし数分後、立ち往生していた生徒たちも、不本意ながらもフィールド内に散り散りになっていった。
ここからは、一人だけでの行動になる。生徒の多くが、施設の奥の方、奥の方へと移動していく。
駆け足で、なるべく先に良い初期位置を確保しようとしている者もちらほらいた。
「俺たちも行くか」
「うん、お互い頑張ろうね」
俺は隣にいた夜桜に一声かけ、生徒たちの背中を追う。夜桜はどこに行こうか迷っているようだったが、たぶん大丈夫だろう。
俺は迷わず近くにあるガラス張りのビルへと足を向けた。幸か不幸かこの建物に入っていく人影は見られない。
後ろからちょっとした視線を感じたが、俺は一階のロビーのドアを開けて中へと足を踏み入れた。
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建物内の冷たい空気が頬を撫でる。流石はサバイバルゲームの為だけに作られたものだけあって、設置されている家具は倒れていたり、大きな傷があったりと、あたかも本当の戦地のような雰囲気を醸し出している。
エレベーターは二基あるが、片方はボタンを押しても反応が無かった。
おまけに扉の前に設置してある階数表示用の電光掲示板は機能しておらず、エレベーターのカゴが何階にあるのかは外からは分からない。
他に上に行く手段としては、建物の内部の端に非常階段が設置してあっるだけだった。
俺は反応のあった方のエレベーターに乗り込むと、最上階より少し下の10階のボタンを押した。あまり上に行き過ぎてもかえって視界が悪くなるだけだろう。
10階に到着し、エレベーターがら降りてみると、この階の電光掲示板も壊れていた。
電気系統かそこらの機構が建物全体で破損しているのだろう。と、そんなことを考え、一番隅の部屋へと足を踏みいれると、昨日ゲーム内で見た光景と同じ景色が目の前に広がっていた。
昨日はここから狙撃銃で敵と応戦していたため記憶が鮮明に残っている。
地上からでは森やその周辺の草原までしか見えなかったが、ここからだとさらに遠くの砂漠や川まで眺めることができた。
俺は背負っていたリュックサックを床に下ろし、中身を確認した。
ルールにあった通り、狙撃銃、小銃、拳銃が一丁ずつ、それぞれ透明なアタッシュケースにしっかりと収まっている。
他には、手榴弾、発煙弾、時限爆弾がそれぞれ1つずつ、携帯食料と飲料水も入っていた。ここが本当の戦場なら、何とも贅沢な装備である。
銃と同じく手榴弾や時限爆弾も偽物だと思いたいが、作動したらどのような効果が起こるのかはまだ分からないので後でルールを改めて読むことにした。
又、端末上で様々な情報が見れるということなので早速開いてみると、自分の残りHPや、フィールド内の残り人数を容易に見ることができる。
色々と確認が終わったところで、とりあえず俺は狙撃銃が収まっているケースを取り出し中身を確認しようとした。
―――がその時不意にエレベーターの動く音がした。
俺のいる階から一階まで降りていき、また上がってくる。
しばらくして到着音が鳴った。まさに俺のいる10階だ。
俺のいる部屋の扉は開けっ放しにしてあったとはいえ、角度的にエレベーター付近の様子は見えない。
「あの、、誰かいますかぁ?」
突然、何とも弱々しい声が向こうから聞こえてきた。女子の声であり、どこかで聞いたことがあった。返事をしないのはどことなく気が引ける。
「ここに一人いるぞ」
「ひゃっ!」
「一番右奥の部屋だ」
まだ開始時間までは幾分か猶予がある。別に居場所を教えても差し支えないだろう。
「い、い、今行きます!」
ドッドッドと床を駆ける音がだんだんと近づいてくる。
「いや、別に来なくていいぞ」と言いかけたところで、一人の少女の姿が視界に現れた。
走ってきた反作用で薄ピンク色の髪がふわっと揺れる。
この一週間ほとんどかかわりが無かった為、まじまじと見てこなかったが、整った顔立ちにすっと伸びた鼻筋、体の細いラインはとても魅力的である。
俺の前に姿を見せたのは、クラスメイトの綾瀬 実里だった。
入学式直後のホームルームでの自己紹介の場で一番最初に名乗りを上げ、一躍クラスの人気者となった生徒である。
彼女の栄光の裏には、俺の闇があるわけだが、、
「もうっ、びっくりしたなあ、結城君かぁ」
彼女は膝に手をついて、息を切らしながら呟いた。
「俺の名前覚えてたのか」
「当たり前だよ、私の次だったじゃん! 確か『得意なものはない』... みたいなこと言ってたよね?」
俺の味気ない自己紹介を覚えてくれていた人がいたとは。
「ああ、そんなこと言った気がする。 それで、どうしたんだ?」
「ええっとね、その... 私一人だとやっぱり不安で... 良かったらなんだけど、私とタッグを組んでもらえないかな?」