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4 冷たい校舎の時は止まる

それからというもの、早くも一週間が何事もなく終わろうとしていた。

入学式が月曜日で、今日はもう金曜日である。

俺は姫川をはじめ何人かの生徒とは一言、二言言葉を交わしたものの、そこまで親密になるには至らなかった。


この一週間、生徒たちは普通に授業を受け、淡々と毎日を過ごしていた。まさに本で読んだ通りの光景。友人が未だできていないこと、この間の自己紹介に失敗したことを除けば、これこそ俺が望んでいた普通の高校生活だった。


ただ、来週には『法』の支配が解除される。その瞬間この平和な光景は崩れ落ちるのか。



それとも―――――



 「静かにしてください。 これから来週のことについて話します」


6時限目の授業が終わり、担任の常盤先生が生徒たちに声をかける。

先生は入学式後のホームルーム以来変わったことはなく、ごく普通に授業を行っている。


 「来週月曜日の正午12時から法が解除となります。 ただ、その前に学校に隣接する施設で、特別試験が課せられます」


例の、一週間に一度行われる試験のことだろう。


 「月曜日の午前中、皆さんには個人戦の『サバイバルゲーム』をしてもらいます」


教室内がざわつく。不安な者、期待に胸を躍らせている者、反応は人それぞれだ。


 「月曜日の朝9時に、寮前に全員集合してください。 詳細はまた月曜日に話します」


例の試験、()()()()()()で行うと、常盤先生は言っていた。

学校内の施設なら、わざわざ『隣接』などという言葉は使わないだろう。学校外の施設ならば、当然法は適用される。

したがって、今回もこれからも、同じ会場で行われるのであれば、試験は『法』が効いている中で実施される可能性が高い。


使用する武器は、模擬銃かそこらだろう。実弾銃など使おうものなら、あっという間に多くの生徒があの世行きである。


それはともかく兵士の育成機関だということもあり、サバイバルゲームは必然的なカリキュラムと言えるだろう。ただ、場所の立地や、装備している武器などでこのゲームの状況は大きく変わる。


例えば、学校側が機関銃のような大量キルが可能な武器を許可してしまったら、必然的に沢山撃った者が生き残る。

逆に狙撃銃のみで戦うとすれば、皆が皆影を潜めて、こう着状態が長く続くだろう。

学校側が決めたルールや、用意された武器などでどう戦うかがこの試験のカギとなるのだ。


気づくと教室を出た常盤先生に続いて、多くの生徒が帰り始めていた。早くも教室の中は閑散としている。


教室を出ていく生徒たちに聞き耳を立ててみると、どうやら個人の端末にプリインストールされていたバトルロイヤルゲーム『Beauty Of Bullet』が面白いらしく、放課後に何人かで集まってプレイしようというのだった。

仲のいい友人と共通の事で盛り上がる、そこからは何処か青春っぽさを感じる。


もうすでにクラスには何組かのグループができていて、それぞれが和気あいあいと日々を過ごしている。俺は友達作りに失敗した。高校に行けば自動的に友ができるというのは、どうやらデマのようだ。

しかし俺と同じように、ボッチを営んでいる生徒も教室の中にちらほらいるのを見ると、少しばかりの安堵感が湧いてくる。



そして――― 俺の隣にももう一人、孤独な少女がいた。茶色の髪をした無口な女子生徒である。

名前も知らない為、俺はひそかに『眠り姫』と心の中で呼んでいた。

この一週間、彼女は授業中も学活中もほとんど起きることなく過ごしている。何をするために学校に来てるのかと言いたくなるレベルだ。


何人か生徒が彼女に話しかけているようだったが、毎回――眠い――といいつつ再び机に突っ伏してしまっていた。


そんな中、俺は放課後になると、彼女を起こすのが日課になっていた。

今日も例によって一向に起きる気配がないため、声を掛けようとしたが、今日は金曜日だ。

たまには、起こさないでおくのもいいだろう。


―――と言ってもそのままにしていく訳にもいかないので、俺は彼女が起きるのを待つことにした。



窓から差し込む西日が眩しい、、カーテン閉めておくか―――



まだ四月だが、校舎の中はひんやり涼しい。

まるで時が止まったかのように静まり返っている。


俺は自分の着ていた服を、眠り姫に掛けようと思ったが、色々と思うところがあったのでやめておいた。


来週の授業の予習でもしていよう―――


自分の席に座り、俺はノートを開くと数学の問題にとりかかった。

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