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10 夜は短し歩けよ乙女

私には高校生以前の記憶がない。


気が付いたら真っ白な部屋の中にいた。

横たわっていた私が起き上がると、周りにいた大勢の人が各々歓喜の声を上げていた。


 「おお、やったぞ!」 「ついにだ!」 「私たちは成し遂げたんだ!」


そんな声が聞こえていた気がする。


白衣を着た大人の人たちに色々教えてもらった。空の色、土の香り、生命の美しさ、この世界について、その人たちは私に熱心に話すのだ。

私は外に出たことがなかった。その光景を見てみたいというと、必ず「まだ駄目だよ」という言葉が返ってくる。

まだってことは、いつかはそとにでられるってことだよね――― そんな風に思った。だからもっといろいろなことが聞きたいと私は願ったのだ。大人たちもそんな私の思いを汲んでか、今まで以上にたくさんの事を私に教えてくれた。


けどなぜだろう―――


 誰一人として私について話をしてくれる人がいないのは。


たまに私が聞こうとすると、周りの大人たちは眉を顰め、すぐに話を変えてしまう。

私の両親は一体どんな人でどこにいるのか、私は今までどんな風に小学校や中学校の日々を過ごしてきたのか、私はいったい何者なのか―――


唯一私が自分自身の事で知っていること、それは私の名前が『夜桜 衣撫(よざくら いぶ)』だということ、それだけ―――




私が目を覚ましてから三か月ほどたった時だった。 


 「学校に行ってみないか?」


そう話を切り出されたのだ。


学校―――私と同じくらいの年の人たちがいっぱいいるところ。みんなと一緒に勉強したり、遊んだりするそんな場所。


 「行きたいです」


私は即答した。




   ―――――――――――――――――――――――――――――――――




その後、白衣の大人たちは私に対し、私自身の話を何度かするようになった。


私が特発性過眠症という症状を持っていることもそのうちの一つ―――

普通の人と比べ、睡眠時間が異様に長く、起きていられるのは精々一時間が限界。

それ以上になると次第に意識が遠のいて、目の前が真っ暗になってしまうのだ。


そういったことは高校側の先生に事情を話し、特別な処置をとってもらえるらしい。


そうして迎えた高校への入学―――

私が思っていた『学校』というものとかちょっと違っていたが、たまに話ができる友達とかもいて楽しそうなところだと感じた。


この学校には特別試験というものがあって、入学から一週間がったた今、私たちはその試験に挑んでいた。

大きな円状のマップの中での疑似的とはいえ生き残りをかけたサバイバルゲーム―――


あまり気は進まなかったが、試験なのだから仕方がない。

ただ、私のほかにもあまり自信のなさそうな生徒もちらほらいる。

加えて最近仲良くなった、隣の席の結城竣君も私を励ましてくれた。


この間の帰り道では結城君にみっともないところ見せちゃったな―――


茂みの中に隠れ、そんなことを思っていると、結城君から端末にメッセージが入った。

三日前の金曜日の帰り道、別れ際に連絡先を交換していたのだ。


こちらに来てくれということなので、結城君のいる建物へと向かう。入り口近くのガラス張りの建物。私のいるところからも確認できるくらいには近い距離にある。


今は試験中、自分以外はみんな敵。もしかしたら結城君も―――


ふとそんなことを思ったが彼は私を脱落させるような人ではない、、と感じた。


けれど、行こうにも私はあと10分程度しか起きていられない。

ただ、何のために私を呼び出したのかが気になる。


私の足は自然と結城君のいるほうへと向いていた。

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