貴方は終わりに何を望む?
暫くは、不定期に投稿します。
何卒、よろしくお願いします。
この黄金を見よ! 日は既に没した! 結局、世界一賢い者たちと謳われるものたちが、一番愚かということだ!
死した英雄を殺せ! その矮小なる存在を。己の分を弁えもせず、己の物語は終わったというのに、未練がましい根枯れは、この戦いの意味を知らない。
故に、愚鈍な彼奴らに、その信念は既に折られた!
愚かなる牛の子らは日暮れに滅ぶ、自らを律することなく、己の身から出た錆に罰せられて。
ざまあみやがれ!
俺たちの屈辱を思い知れ!
親殺しの大罪人どもよ、我らが祖を、神を殺した罪、身をもって贖え!!
勝利の剣は、俺たちにある!
by 叛逆者 ロキ
此れは、終末の次の世界の物語。
✖️
幽かで昏く、生命の息吹を全く感じない。屋敷が一つ立っており、その存在を嫌でも象徴するほどの、漆黒。闇に紛れても、くっきり見える程だ。
また、光を発する虫は、屋敷と、その周りに生えた林をともに照らして、幻想的な景色を作り上げる。
ただ、その光の無いところは異様に薄暗く、明かりは数歩先を照らすぐらいで、灯火が無ければ、普通の人間ならば此処の出口に辿り着けず永遠に彷徨うことだろう。
「歓迎してくれてるのかね」
襤褸がズズッと、引き摺る音を立てながら、肩に鎌を背負って、二つの揺蕩う青白い火だけがその存在を主張していた。
青白い火は揺らめいて、その屋敷へと向かっていった。
扉の前に立つと、ドアノッカーがあったので、一応押しておく。
カンカンカン、
ノックって、三度だったか、四度だったか。
そんなことを考えていると、扉が内側へガチャリ、と開いた。
「遠い所から、わざわざ御足労ありがとうございます。私は、向こうには疎いもので」
喪服のような黒を基調としたドレスと漆黒のマントを纏った女性だった。顔はベールで隠れてよく見えないが、紅い瞳が爛々と輝いている。
「ふん、オレは色んなところを渡り歩いてるからな。この程度は、ザラさ。一つ聞いておくが、本当にオレでいいのか? 一応、オレだって神の中では若造だぜ?」
ヒュン、ヒュンと鎌を振り、最後に鎌を背負う。
「ええ、もう、この世界には英雄は居ないのです。一人でも人材が必要で。特に、世界樹の外から来たものが望ましい」
「ああ、アフターケアもばっちしやってやる。まあ、仕事の対価は仕事で貰うから、あとは少しの融通をしてくれれば、オレはそれでいいぜ」
これからも、外来の神を呼んで人材補充か。苦労しそうだな。オレはあたりの部類だが、場合によっちゃ、面倒くさいヤツもいるからな。
「そうですか、本当にそれだけでよろしいのですか?」
喪服の女性は、こちらのことを考えて、訊いてくれてるのだろう。だが、分かっちゃいないな。やれやれ。
「ああ、それがオレの仕事だからな。ああ、ならお前の名前を聞こうか。オレも改めて名乗る、オレはランシェル、しがない、唯の死神。お前は?」
突然の振りに戸惑っているのか、はたまた会話に実は慣れてないのか。少し、間を置いてから、
「私は、ディルティア。それ以外の名は、誰にも呼ばれたく無いわ」
「ふむ、分かった。ルティアだな」
「えっ、ちょっ、まっ————」
「では、ルティアに幸多からんことを」
ルティアを振り切って、ぽんと音を立てて消えた。
✖️
結局、特に何も用意せずに出ちまったな。まあ、しょうがねぇ。飛んだ場所を見回すと、其処は青々と生い茂る森だった。…………、適当にノリで飛んだ割には当たりだな。人がオレを見ると、びびっちまう。
取り敢えず、現状確認、まず持ち物か。
愛用の鎌【グリム・リーパー】、死神の鎌で、問答無用死を与える鎌。
鎌の下につけたストラップのランタン。
鎌を持つための手袋。素材は、ただの布。これが無いと、何も持てないんだよなぁ。身体の殆どが闇だから。
そして、闇を覆う襤褸。
うん、武器以外、最弱装備じゃねえかっ! 百歩譲って、手袋は有能だが、襤褸は何にも守ってくれねぇぞ!
まあ、今まで、それで生き抜いたわけだが、これは結構前の経験活かさねえといけねえな。前の場所だったら、老人をチクチクすればよかったのに。此処じゃ、鎌を持って近づいた瞬間、吹っ飛ばされそうだな。実際、かなり昔に痛い目を見たし。何なんだよ、あのジジイ、元気に動き回りやがって、お前は年貢の納め時だっちゅうのに。すげぇ、しぶとかったわ。
森を歩いてると、巨大な出っ歯を持つリスに出会った。ん? リス?
ジャキン、
こちらを補足したようで、歯を見せて威嚇している。
うわ、でけぇ。三メートルぐらいあるんだが。って、
「ググルアアア!!」
いや、プク、って可愛い鳴き声じゃねえのかよ!
「にっ、逃げろおおおお!!!」
凄い速さでこちらを追って来る。うおおおっ、走れ走れ、はしれええええ!!!
ふわっと、足元に浮遊感。…………脚、ねぇけど。って、そうじゃねえ!
「落ちるッ! うおおおお!!!」
精一杯力を込めろっ、いつもは少し浮いてるんだ! そこから飛ぶことに派生したって、違和感は…………。
「やっぱ、無理だああああ!!」
黒い襤褸切れは、下に落下した。
⚡︎
人間界 ミズガルズ
人間が住む領域にして、神の国だったアースガルズと死者の国ヘルヘイムに挟まれ、アースガルズとの間に架けられた虹の橋ビフレストが名物だった。
今は、あらゆる場所に瓦礫が埋もれて、折れた遺跡の柱や建造物は蔦に絡め取られている。かつての栄華は見る影も無い。
「ぼ、僕がやらなきゃ。いつまでもお兄ちゃんに頼ってばっかもいられない」
ラタトスク、巨大なリスたちがいる森に、僕は脚を踏み入れる。
✖️
はあっ、酷い目にあったぜ。何なんだよ、あの巨大なリス野郎は! どういう場所か、ちゃんと聞いときゃよかったな。後悔しても、もう遅いが。
ガサッ、
草が揺れる音がする。慎重にその場を確認しようとすると、
一面のリス、リス、リス。リスが焚き火を囲って、宴会してやがる。…………リスなのに。
ここには、ヤベェ奴しかいねえのか? と真面目に思案していると、
おっ、なんか移動し始めたな。この隙にここを抜けてみるか。
そんなことを思っていると、
「ぎゃあああ?!?!」
少年くらいの声が聞こえた。
✖️
ゑ?
悲鳴が上がった場所に身を隠して、様子を見に行くと、少年が木の棒に豚の丸焼き状態で括り付けられ、リスたちが歓喜の声をあげていた。
どこからツッコミを入れればいいのだろう。まず、アイツら人食うのか、もうリスじゃねえな。
そして、あのバカはこんな危険地帯にノコノコと足を踏み入れたわけだ。
「だれがぁー。たずげでぇー!!」
みっともなく喚き散らしてるし、絶対こっそり助けようとしても泣き喚いて、リスに追われるだろ。はあっ…………。
「臨時兼業だっ、この野郎!」
拾っていた石を、襤褸を使ったスリリングを当てて気を散らしてる隙に。
「もうおうぢがえれないんだあ」
まだ喚いてやがる。
棒を掴んでいたリスに鎌を振るう。
シヤッ、とあまり音を立てず切ることに成功する。完璧だぜ、あとは少年が…………。
「ふげぇっ!」
少年はしたたかに背を打つ。
ですよねー! 知ってたぞ馬鹿野郎。サッ、と手足に縛られていた紐を切ってやる。
「おい、さっさと走れっ、ノロマっ!」
少年は、背を打った後から声が聞こえない。
えっ、死んだか?
少年の様子を見ようと、栗鼠から目を移すと、
「うぐっ、うわあああん!」
バチッ、と周囲が放電してる。まさかっ、
ドゴオオン
巨大な雷があたりを埋め尽くす。後には、更地しか残って無かった。
✖️
やあ、ランシェルだぜ。オレの旅は終わっちまったが、物語はまだ続く。楽しみにしてくれよな!
って、そうじゃねえ! 雷の落ちる予兆を感じたオレは、一目散に遮れそうな岩場に隠れた。
閃光が奔った瞬間にオレの背にあった岩の大部分が蒸発していた。
あっぶね、死ぬとこだったぜ、死神なのに。
森にできたギャップの中央を見ると、
まだ、アイツが泣いていた。ちっ、落し前付けてもらわねえとな。
「おい、ノロマ」
鎌の柄でコツンと当てる。
「うぐっ、ひっぐ」
「気づけってんだよ! このノロマがっ!」
ゴツン、と鎌の柄をを当ててやる。
「いたっ、なっ、何ですか?」
「やっと気づいたかこのノロマが!」
「いきなり何ですっ! こっちは死にかけっ……、あれ?」
やっと状況を理解したらしい、ん? 少し目に血が掛かっちまったようだな。だが、オレには好都合。
「オレが助けてやった。取り敢えず、川まで案内してやる、何処だ?」
✖️
川沿いまで案内してやった。少し聞きたいこともあるしな。
バチャバチャと洗ってるうちに、話を聞く、
「なはは! 兄のようになりたくて、あのリスに挑んだのか?」
「うう、小さいの一体だけなら倒せると思って」
バカだ、バカ。そんな偶然なかなかあるわけないじゃないか。
「あのなぁ、なんのために人は群れるんだよ。脅威に複数で立ち向かうためだろ? はぐれたリスなんて、すぐに他のヤツに食われちまうよ」
「それを言うなら、そんな相手から助けてくれた貴方はなんなんですか?」
まあ、名前を名乗るぐらいなら構わねえか。
「オレは、ランシェル。旅人ってところだな」
「へぇ、その割に腕が立つんですね。昔の熟練した兵士でも倒すのに手こずるって、聞くのに」
ああ、やっぱそこまでやべぇヤツか。
「ああ、数匹ぐらいならな。そんな相手に、無謀にも挑んで捕まってしまった憐れな少年には、そろそろお別れだ」
「もう行ってしまうのですか? ちょと待って、…………えっ?」
ちっ、間に合わなかったか、からかいもほどほどにすりゃあよかったな。
「ああ、見ちまったな。もう、こんな化け物に遭おうとするんじゃねえぞ?」
向こうが声を上げてないうちに、急いで去った。
✖️
うーん、この特性は仕方ないとしても、もう少しなんとかならねえもんかな。
特性は、死神としての死を溜め込むと言う性質。相手がどれほど無惨に死んだのか、恨んだのかによって蓄積が上下する。それを倒して、怨念を吸収する。
それが、死神の強さの根源だ。ただし、他の生物を恐慌させてしまったりする。特に、人間には顕著だ。ただし、自分よりも格上だったり、怨霊とかには影響しない。
つまり、今のオレより、リスのほうが格上だったわけだ。何なんだよ、あのリス。
今回は、今までの貯蓄を削って、この世界に来たり、転移したので残量が少ない。リスを殺して、少しは回復しているが。
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
「はあっ? お前なんでついてきてんだよ!」
肩で息をしながら、顔を上げる。
「貴方の強さに感動したんです。弟子にしてください」
バカだ、いやここまで来ると大バカだよ。お前、雷を落とせるじゃん。アレは、並大抵のヤツをねじ伏せるよ。
…………。ジジイは躱すかもな。
「おい、オレ見て怖くねえのか?」
「はいっ、大丈夫です!」
ふむふむ、緊張してるだけか。オレに怯えた様子はない。
「お前、何処の血縁だ?」
「父は、アース神族。母は巨人のクウォーターです」
成る程、神の血を引く例外か。
「それで、何だっけ、弟子にして欲しいか。お断りだ。オレはそこまで強くねぇ。それに、お前あの雷があれば何とかなるんじゃねえのか?」
「ええっと、アレは制御できないんです。それに、強くなるには僕の力より、貴方から学んだほうがいい気がするんです」
ちっ、面倒だな。
「分かった。弟子にしてやる。代わりに、しばらく目を瞑れ」
バカな弟子は、オレの言葉を信じて目を瞑る。
ぽん、と音を立てて、その場から姿を晦ました。
少し、補足。
死神は自分で殺した魂も、力に出来る。
主人公の主義には反しているが。
ちなみに、ランシェルはしばらく技だけで生き抜かなければならない。死神なのに。