1 自己紹介&裸おどり
戸昼ケンイチ、35歳。ぱっとしないサラリーマンである。
周囲の評価は、重要度の低い仕事は任せられるが重要なプロジェクトには荷が重い、という微妙な立ち位置だ。
生活態度は特に変わったところはない。週5日会社に勤務し、休日はのんびりするという暮らしだ。
両親はすでに他界し、親しい親戚もいない。女性とも縁がなく独身生活を謳歌していた。
昨日までは。
目が覚めると、知らない草むらにいた。それも全裸でだ。
幸い、柔らかい枯れ草の上にねていたが、それでもチクチクとして背中がむず痒い。
「俺は下戸だ……ドッキリをしかけてくる系の友人もいない。そもそも友人がいない。
ウォオオオオ!ウウッ……冷静になれ」
警察にでも見つかったら、大変だ。全裸中年男性は、自宅以外では許されない。誰かに見つかってしまえば、通報され、仕事もクビになる。
去年、奮発して買ったスポーツタイプセダンのローンも残っているのだ。
ケンイチはそうつぶやくと、周囲を見渡した。
ところが、不思議なことに周囲に人の気配はない。それどころか、建物や道路といった人工物すら見つからない。
ケンイチが途方にくれていると、突如、大きな影が彼を覆った。
自衛隊か警察のヘリでも飛んできのか?
生まれたままの自分の姿を発見されたらどうしようと思ったケンイチは、あわてて草むらに伏せると、顔を少しだけあげて空を見上げた。
彼の心配は無用であった。
「でっかい鳥……いや、ドラゴン!?」
空には、クジラほどのサイズのドラゴンが空を飛んでいた。恐竜に赤色のペンキをぶち撒いたような真っ赤な赤色だった。
頭がフリーズする。
小さな頃に読んだ恐竜図鑑の挿絵、考証もへったくれもない、色とりどりの恐竜が活躍する躍動するプテラノドンの図みたいな光景が広がる。
しばしの間、ほかの鳥たちが慌てて逃げる姿を眺めていると、ケンイチは思い立つ。
「これはもしや、異世界転生!チート、ハーレムの時間じゃ!!!!」
ケンイチは小躍りする。誰もいない森の奥深くで、全裸中年男性が小躍りしている。恐怖の図である。
「まずは、ステータスオープンっとな」
プライベートにおいて、異世界転移モノを読みすぎたせいで、彼の脳みそは破壊されていた。
迷わず手をかざした。
ところが、待てども、反応はない。
イヤな汗が、ケンイチの頬を垂れる。
これは、ハードモードの転移かもしれない。作品によっては、とことんひどい目にあう。生きていくのがやっとで、前世のサラリーマンより厳しい生活が待っているかもしれない。
「そんな、俺の週休2日制を返せ!!」
ケンイチは叫んだ。けれども、その声はむなしく森の奥へ吸い込まれていった。そもそも、当たりの異世界だとしても、異世界で週休2日制が行われているか疑わしい。
風が吹いた。ケンイチの腕に鳥肌が立つ。
そして気がついた。
地球か異世界かにかかわらず、森の奥に放置されては、今日を生き抜くのも難しい。
ケンイチは、すっかり疲れてしまい、枯れ草に座り込む。
おしりがチクッとした。
「痛っ!怪我したかもしれないな……」
下がりきったテンションは、底をつらぬき、ブラジルまで届きそうだ。
ケンイチは、立ち上がると、座っていた場所を見る。
<異世界転移記念、☆5確定10連ガチャ>と書かれたチケットが落ちていた。
コンビニで発券してもらえるような長財布くらいの長方形の厚手の紙に、派手なフォントで印字されている。
背景には、美人の秘書、札束の山、聖剣、ドラゴン、魔王っぽいすごそうな人……バカの考えた俺tueee系のイメージイラストと表現するしかないものが描かれている。
ケンイチはそのチケットを拾い上げて、見つめた。
「勝ったな……」




