表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれ魔法剣士の大逆転~精霊に愛された双剣使いが王国最強の騎士になるまで~  作者: スギタジュン
終章 王都動乱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/40

第39話 楽しい思い出

 人がまばらになり、謁見の間が再び静けさを取り戻す。

 どこに隠れていたのか知らないが、シルがひょこんと姿を現した。


「ライナー、おめでとう。ついにあなたの願いが叶ったわね」

「ああ、ありがとう。俺の晴れの姿、見ていてくれたか?」

「ええ、もちろん。遠くからだけど、ちゃんと見てた。素敵だったわ。これであなたも近衛騎士の一員ね、よくがんばったわ、えらいえらい!」

「はは、本当にありがとう。これもお前のおかげだ」

「ううん、ライナーの実力よ。わたしはほんの少し手を貸しただけ」


 シルが自分のことのように喜んでくれているのがまた嬉しい。

 ここまでの道のりは決して平たんではなかったが、シルからもらった力で乗り越えることができた。彼女には感謝してもしきれない。


 そういえば、シルと出逢ってからちょうど一年くらいか……


「ライナー、あ、あのね……これからどうするの?」

「このあとは午餐会が開かれる。叙任者と希望する家族が参加する」

「そ、そう、そのあとは?」

「アーマコスト伯爵家で祝宴があるそうだ。少しだけ顔を出してみようと思う。シルも一緒にどうだ?」

「え~と、そうじゃなくて……」

「どうした、シル?」


 シルは何か言いたげなのだか、それが何かは分からない。


「あっ、ううん。なんでもない。人混みで少し疲れちゃった。わたしは先に屋敷に戻ってるわね」

「そうか……ゆっくり休んでいてくれ。明日は久しぶりに風の森に行ってみないか? あの泉の花畑もだいぶ回復してきただろう? もう少し手をかけてみよう」

「ライナーは忙しいわ。花畑はわたしにまかせて。ひとりでもだいじょうぶよ」

「そうか? 無理するなよ?」

「う、うん。じゃあ、先に帰ってる……ライナー、さようなら」


 シルは微笑を浮かべたまま少しのあいだ俺をじっとみつめた。

 そして、風のように去っていった。


 彼女の態度がどこかぎこちなく、いつもとは違う感じがする笑い方が少々ひっかかった。


❖*✽*❖*✽*❖*✽*❖


 午餐会ごさんかいがつつがなく終わる。

 そのあと、アーマコスト伯爵家での祝宴にも少しだけ顔を出した。

 友人オーエンのことが少し気にかかったからだ。


 だが、宴席の二人は想像した以上に楽しそうにしていた。

 これならまあ問題ないだろう。


 日がどっぷりと暮れたころ、俺は屋敷にたどり着く。

 あちらこちらで葡萄酒を浴びたので足元も若干おぼつかない。


「ただいま。いま戻った」

「ライナー様お帰りなさい。ずいぶんと上機嫌ですね? 冷たい水をお持ちしましょうか? だいじょうぶですか?」

「少々飲み過ぎたがなんてことない。平気だ」


 エリスが少々呆れているのだが、今日ぐらいは勘弁してくれ。

 明日からはシャンとするつもりだ。


「シルは?」

「さきほど見かけましたがいまどこかは……」

「そうか。ああ、それから、悪いが今日は食事はいらない。もっと早く言えばよかったな、すまん」

「はい、承知しました」


 自室の扉を開く。


「シル! 遅くなってすまない。オーエンからご馳走を分けてもらった。一緒に食べよう!」


 しかし、部屋のどこからも返事がない。

 俺の声だけがむなしく響いた。


「シルー! どこだ?」


 付近を探してみたがいない。

 もう一度エリスにも聞いてみたのだが――


「ライナー様、あの娘は屋敷のどこにも見当たりませんね。どこにいったのでしょう? やはり部屋に隠れているのではありませんか?」


 ほったらかしにしていたから、ねたのかもしれない。


「エリス、すまないが一緒に俺の部屋に来てくれないか? 探すのを手伝ってくれ」

「はぁ、はい。いいですけど」


 再び自室を見渡す。


「ライナー様、あれは?」


 メイドのエリスに言われて、さきほどは気が付かなかったものが目に飛び込んできた。


 机の上に二種類の花がそっと置いてある。


 一つは透き通るような白い花。よく見慣れた白精蘭だった。

 それに砥草とくさの茎が添えてある。


「これは……」


 ずっと前、まだ出逢ったばかりのころのシルの言葉が思い返される。


(この花の蜜、とても美味しいのよ。ねぇ、今度、砥草とくさの茎でストローを作ってあげる。あなたも吸ってみるといいわ)


 たしか、そんな感じの約束だった。

 蜜を飲んでみてほしい、ということだろうか?

 けれど、いまになってなぜ唐突に?


 俺は少々、いや、だいぶ混乱した。

 シルがこれを置いていった意味が分からない。


 そして、もう一つの花束は……

 見たことのない、知らない花だった。

 机に置かれた花束を手に取ったエリスがなにか考えている。


「その薄紅色の花はなんだ?」

「これは日日草にちにちそうです」

「なにか意味があるのか?」

「それが……その……」


 躊躇ためらいの表情を見せるエリス。

 いつもは遠慮なしにズケズケという彼女がなぜか言いよどんでいる。


 俺はとても不安な気分になった。


「はっきりといってくれ、どういう意味だ?」

「花言葉は『楽しい思い出』 そして……別れの意味も込められています」

「なっ?」


 ほろ酔い気分が一気に冷める。

 俺はその場に立ち尽くした。


 そんな……どうして……こんなにも突然に……


 その日、いくら待っても、とうとうシルは戻らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ