第33話 競技会、そして
競技会当日。
ここは王城の一角にある競技場。
名だたる王国貴族も観覧している
宿敵アルマンは出場を取り下げていない。
もしかしたら、ひょっこりと顔を出すのではないかとも思ったが、やはりそんなことはなかった。ヤツはこの場には出てきていない。
そんな中、俺は順当に勝ち進む。
午後も陽が傾くころになると、勝ち残った出場者は両手の指におさまるほどに減った。
ここまでの連戦でだれもが疲労困憊である。
ここからは気力がものをいう。
そして、ついに最終の決勝戦。
俺はここまで勝ち残った。
対戦相手は槍遣い、重槍を操る巨漢だ。
「ガツン!」
相手の一撃はとんでもなく重い。手が痺れる。
だが、槍の難点は懐に入られると弱いこと。
俺は双剣を繰り出し、槍の攻撃をいなしながら、瞬時に間合いを詰める。
刃引き(はびき)の模擬剣が槍遣いの肩口を強打する。
「ぐはっ!」
「そこまで! 勝負あり!」
二撃目を相手の首筋に入れようとしたところで、勝負ありと審判の掛け声が響いた。
「勝者、ライナー・ライバック!」
ついに……勝った。
観衆から大きな歓声と拍手が起こる。
一年前の競技会での惨めな敗北。
それから一年たった今日の誉れ高い勝利。
俺は会場の隅の方にいたシルを見つけ、優勝したことをあらためて伝える。
「優勝おめでとう、よかったわね!」
「ありがとう。これもお前のおかげだ」
「よしてよ。ライナーが頑張った結果よ。わたしは少し手を貸しただけ」
「俺にとっては大きな助けだったのだ。感謝している」
「そう、とにかくよかったわ。でもまあ、出逢った頃のライナー、あの少しやさぐれたあなたも悪くはなかったわよ」
「昔のことを持ち出さないでくれ……きまりが悪い、はは」
ほんの少しだけ昔のことを思い返していると、オーエンやタリアが駆けつけてくれた。
二人からも「おめでとう」の言葉を掛けられたのがうれしかった。
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競技場では慌ただしく表彰式の準備が進む。
熱気はまだ冷めやらない。
もうすぐ臨席していた王が会場に降りてくるだろう。
と、会場の一角が突然騒がしくなった。
不審に思うなか、一人の兵士が駆けてきた。
王の御前でこのようなことは珍しい。
その伝令兵らしき者は、すぐそばにいた近衛騎士団のもとへ駆け寄る。
耳をそばだてるまでもなく、やりとりは俺にも聞こえた。
「報告します。たったいま北部監視班から敵軍侵攻との急報を受けました」
「なに?」
敵軍?
聞き間違えかと思ったが、本当らしい。
騎士団首脳の顔に焦りの色が浮かぶる。
ざわつくなか、伝令兵の報告が続く。
「敵軍は北の辺境伯領に進出した模様」
「どうしてそこまで接近を許したのだ? 北方の辺境伯は押し返せているか?」
「そ、それが……詳細は不明ですが、辺境伯領軍は、隣国南軍に合流している模様。一緒になって王都に向かってきているとのこと。あと数時間のうちに王都周辺に到達すると見込まれます」
ナウリッツ辺境伯が王国を裏切った。懸念していたことが現実になる。
騎士団がにわかに緊張に包まれる。
団長は、すぐさま戦時編成を指示し、各隊を王都に配置することを命じた。
ところが、その命令を阻止する声が響く。
王が近衛騎士団のそばまで降りてきていた。
拙速を貴ぶ我が王らしい。
「騎士団長よ、それはならぬ。近衛騎士団は王軍を支援し、敵軍の侵攻を阻止せよ。城の守りはいらぬ。敵軍を王都に寄せつけるな」
意外とも思える王の命令に騎士団の首脳陣が戸惑う。
「しかし、陛下を守るのが我々の役目、城を離れるわけにはいきませぬ」
「ならぬぞ、団長。隣国の南軍に加えて、辺境伯も攻めてきているのだ。王軍だけでは奴らの侵攻を止められない。そちも分かっておろう? 近衛騎士団も加勢せよ」
悪いことに王軍の三分の一は外部に派遣されている。
主力を欠いた今の王軍では不利かもしれない。
王の言葉にも理がある。
苦悶の表情を浮かべる騎士団長。
敵の狙いは当然、王の首。王位の簒奪を目論んでいることは明らかだ。
見かねた北部方面隊司令のラインハート卿、すなわち、俺の父が王に上申する。
「ですが、陛下。我らは大君の盾、王のもとを離れよとの命はあまりにもご無体ではありませぬか」
「ラインハートよ、たのむ……王軍はいま万全の状態ではない。どうしても近衛の力が必要なのだ。王都と王都の民が滅んでしまっては、王族が生き延びたところで意味がなかろう。軍議を開いている時間はない。さぁ、騎士団長よ、これは王命だ」
王の真剣な面持ちに騎士団長も北部方面隊司令も首を縦にふらずにはいられなかった。
「しょ、承知いたしました、陛下。我ら近衛騎士団は王軍とともに前進し、王都郊外にて敵軍を迎え撃ち、これを撃破します」
「ただ、しかし、陛下。我が北部方面隊から警邏小隊三個分を城に残します。これだけは譲れませぬぞ」
「うむ、よかろう。騎士団長、北方司令よ。よろしくたのんだぞ」
行動方針の決定にともない、近衛騎士団が弾けたように動き出した。
北部方面隊司令が叫ぶ。
「そこに第一警邏小隊のトリスタンはおるか?」
「はっ、ここに」
「貴殿の隊は、城内に残れ、王の警護を任せたぞ」
「はっ」
「第二、第三小隊も……」
城内の警護には第一警邏小隊を含む三個小隊が割り当てられた。
第一警邏小隊は騎士トリスタンが指揮し、オーエンが所属する隊だ。
「それから、うちの倅、ライナーを使ってくれ。実力は競技会で示したとおりだ。足手まといにはならないだろう」
そうトリスタンに告げたラインハートが俺の顔を見据える。
「いいな、ライナー。初陣になるが、ライバック家の男として、しっかりと役目を果たせ」
「はい、承知しました。父上もお気をつけて」
「うむ」
それから、日も落ちたころ、王都北方の郊外で大きな爆発音があがった。
こうして、王国の辺境伯領軍と隣国の南軍で構成される敵軍の侵攻が開始される。
王都の長い夜が始まった。




