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落ちこぼれ魔法剣士の大逆転~精霊に愛された双剣使いが王国最強の騎士になるまで~  作者: スギタジュン
第二章 覚醒

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第11話 雷撃魔法

 翌日。


 シルはいつもの場所で朝から俺の訓練につきあってくれていた。

 俺はといえば、慣れない雷魔法を撃ちまくっているので、すでに疲労困憊ひろうこんぱいだ。魔力枯渇こかつが近い。


「ハァハァハァハァ……」

「ライナー、息が上がってるけど大丈夫?」

「問題ない、だいじょうぶだ」

「人間は自然から魔素を取り込めない。休憩しないと体内の分は減っていくばかりよ!?」

「いや、まだいける。あと数発分は撃てる。魔力が尽きるまで続けるぞ」


 木片で作られた標的をシルが魔法で操る。その標的が空を自在に走った。

 軽い斬撃を加えながら、けん制し、標的の動きを遮る。


 もう少しだ……。


 ついに標的を有効射程に捉えた。俺は残り少ない魔力を練る。

 左右の剣に風の魔力をのせながら――


風裂斬(ウインドスラッシュ)パラレル!」


 上段に構えた剣を一気に斬り下げた。

 二筋の風のやいばが猛然と標的に向かう。

 直撃するかと思われたが、直前でひらりと――


「か、かわされた!」


 そして、標的はこちらに真っすぐ突っ込んでくる。

 だが、俺は、剣に纏わせておいた雷をのせ、ひねりこみながら鋭い突きで放つ。

 新しい雷撃の魔法剣。

 これで最後だ。


雷過流ボルテックスパーク!」


 空間に雷撃の渦が走る。

 高速で向かってきた標的は、バチバチと放電する雷撃の渦に飲み込まれ、あっけなく焼け落ちた。あたりに木質の焼け焦げた匂いが漂う。


「ど、どうだ。やったぞ」

「まあまあね。わりと頑張ったんじゃない?」

「はぁ、シル先生は相変わらず厳しいな……」


 ずいぶんと辛目の採点だ。

 俺は息を整えながら、目に入りそうになった汗をぬぐう。

 久しぶりに体が心地よい疲労感に包まれていた。


「だが、まあ、やりきった。今日はもう撃てそうにない……」

「そうね、ちょうどいいわ。休憩にしましょう」


 俺たちは、昨日と同じ泉の畔に陣取って弁当を広げた。


「あら、今日のお弁当はとっても普通なのね」

「そ、そうだな……」


 実は今朝、エリスから弁当の包みを受け取った。

 そのとき、数本の赤い花が紛れているに気が付いた。


 その花にどんな意味があるのかまったく分からない。

 だが、シルを挑発するものであることは、ほぼほぼ間違いなかった。


 もうこれ以上、女の揉め事に巻き込まれるのは御免。

 だから、悪いとは思ったがエリスの花は取り除かせてもらった。俺は修行に集中したいのだ。


 それにしても、このいたずらな精霊に一言、文句をいってやりたい。


「しかし、お前なぁー、ややこしいことをしてくれたな。わざとだろう?」

「あら、何のこと? わたしはお土産にちょうどいい花を詰めただけよ」

「はぁー勘弁してくれよ……お前だって存在を公にしたくはないのだろう?」

「あら、いつわたしがそんなこと言ったの? わたしは別にコソコソ隠れているわけではないのよ。ただこの場所を知られたくないだけ。エリスさんのところへご挨拶しに行きましょうか?」


 怖いことを無邪気に言い放つ風精霊に頭が痛くなった。


「それはぜひともやめてくれ」


 それにしても――

 俺は愛用の剣をみて、ため息がこぼれる。


「困ったな……決して安物ではないのだが……」


 雷撃の練習を何回か繰り返しているうちに、刃線の部分がボロボロに欠けてしまった。

 強力な雷電の伝搬に耐えられなかったらしい。


 ここまで刃こぼれしてしまうと研ぎなおすのも難しい。

 けっこう気に入っていた剣だったので残念だ。

 屋敷に予備はあっただろうか……。


「ねえ、ライナー。剣はちゃんと選んだほうがいいと思うの。雷魔法との相性もある。いい金鉄きんてつじゃないと、またすぐボロボロになるよ。どうせなら、真銀鋼ミスリルをお勧めするわ」

真銀鋼ミスリルの剣か……」


 あれは高価だ。とても手が出ない。

 見習いがてら、父の執務を手伝ってはいるが、それで得られる報酬は微々たるもの。

 いまの俺に自由に使えるお金はあまりない。


「あのね、ライナー。精霊石を一つか二つ分けてあげようか?」


 俺が金策に困っているのを見かねたのか、シルが思いがけない提案をしてきた。

 精霊石は、白精蘭ホーリーオーキッドの球根に含まれることがある希少な石。

 たしか、少量であれば、王室の許可がなくても個人での売買は可能だったはずだ。

 大き目の結晶が二つもあれば、真銀鋼ミスリルの剣を購入してもたぶんお釣りがくる。


 だが、しかし――


「そんな貴重なものは貰えない。白精蘭は精霊にとって大切なものなのだろう?」

「それはそうなんだけどね……。株分けしてだいぶ増えてきたから、多少ならいいわよ」

「いや……だがな……そんなに高価なものを譲ってもらっても俺には……」


 返せるものが何もない。

 シルには失意の底にいた俺を立ち直らせてくれた大きな恩がある。

 その恩もまったく返せていない。さらにいまもこうして彼女には世話になりっぱなしだ。


「じゅあ、こういうのはどう? 明日一日、わたしを楽しませてくれる?」

「あ、ああ、一日付き合うくらいどうということはないが……なにをすればいいのだ?」

「わたし、王都の街をゆっくり見物してみたい。ときどき覗きに行くんだけど、まだ見てないところもたくさんあるの。案内してくれる?」


 そういうことはあまり得意でないが、シルが喜んでくれるならお安い御用。


「そんなことでいいなら、任せてくれ」

「本当、いいの?」

「もちろんだ」


 俺はそう答え、シルの望みを快く引き受けた。

 ただ、彼女はまだ何かいいたそうにしている。


「どうしたのだ、シル? まだ望みがあるなら遠慮なく言ってくれ。対価にはまだ全然足りていない。俺にできることならなんでも協力するぞ」

「ううん、別の望みというか……えっとね……ここから王都までけっこう離れているでしょ? 向こうに着くまでにちょっと時間がかかると思うの……だから……その……」


 察するに、明日はなるべくたくさんの時間がほしい、ということらしい。

 俺の屋敷からなら、すぐに街の中心部まで行ける。この森に寄ってから街に向かうよりもずっと早い。


「ならば、今日はうちに来るか? 姿を消したほうがいいかもしれないが、少しの間ならべつに不自由もないだろう?」

「えっ? いいの?」

「ああ」


 俺が強く頷くと、シルの顔がはじけるように明るくなった。


「ただな、屋敷のメイドたちと揉め事を起こすのはやめてくれよ」

「わ、わかったわよ」


 釘を刺されるように諭されたのが気に食わないのか、シルはほんの少しだけ頬を膨らませ、上目遣いでこちらを見ていた。

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