第8話 ヘタレ
「それじゃあ、先輩、行きましょうか」
「ああ」
俺たちはギルドから出て、別の街に向かうこととなった。この街は、ニコライの拠点なので、何度も会うとさすがに気まずすぎる。
「別の街を拠点にした方がいいですよ」というナターシャの提案で、俺たちは少し遠出をして別の街に拠点を構えることにした。この街だと、ある意味俺の名前が売れすぎたのも大きい。
注目度が異様に高まっている状況で、聖女様と一緒にイチャイチャしているなんて噂がたったら、それこそ針の筵だ。
ナターシャがいつも使っている馬車に同乗し俺たちは、新しい旅をスタートさせた。
ナターシャが保存食や水を馬車に大量に詰め込んでいた。これならしばらくは無補給でも旅ができる。「少し奮発して買った」という馬車は、造りも頑丈で、テント代わりにも使用できるため他の冒険者からみれば垂涎の的になっているはずだ。
※
「しっかし、すごい馬車だな。馬も立派だし、高かっただろう?」
「しばらく女ひとり旅でしたからね。安全のためにもちょっと奮発しちゃいました。200万ギルくらいです」
「それって、俺の手切れ金と同じくらいなんだけど……」
「私は、聖職者なので、いろいろと献金もありますし」
「聞きとうなかった」
「ハハハ、そうだ先輩、近くに薬草がたくさん自生している森があるんですが、寄っていってもいいですか? 手持ちが不足しちゃうと嫌なので」
「えっ、薬草って道具屋で買うんじゃないの?」
「どうして、そこらへんに生えているものを買うんですか? 知識があれば、簡単に手に入るのに?」
「俺には、おまえの知識のほうがよっぽどチートに見えるよ」
「愚者は損をするのが、この世界の理ですからね」
話をしていると、少し眠くなってきてしまった。あくびが自然と出てくる。
「あっ、先輩? もしかして、眠いんですか? なら、後ろで仮眠を取ってきてくださいよ~」
「いや、さすがに女の子に、馬車の運転を任せて眠るのは……」
「いいんですよ。その森は魔物も出るので、用心棒の先輩には万全のコンディションで私を守ってもらわないといけませんからね~」
「なら、お言葉に甘えようかな」
「そうしてください。私の毛布でよければ、荷物の一番上に入っているので、使ってください~」
「なにからなにまですまんな」
「それは言わない約束でしょ、先輩」
※
俺は毛布を取り出すと、少しの間仮眠を取るために目を閉じる。
目を閉じる。
目を……
やばい、全然眠れない。馬車が揺れているからとかではなく、毛布のせいだ。
ナターシャは結構キレイ好きだから、しっかり手入れされている毛布で、最高の肌触りなんだが……
どこからかいい匂いがしてきてしまうのだ。それは、少し甘くて、いろいろと脳を刺激する。
この毛布は、ナターシャの匂いがしてしまう。
(もしかして、俺は意識してしまっているのか。あの後輩を―― たしかに、ナターシャはルックスもかわいいし、優しいし、冒険者なのに女の子っぽいし、頭もいい。いや、よく考えると魅力的な女の子なんだけどさ。今までは、ずっと懐いてくる妹のように思っていた。でも、今の距離感は、兄とか妹じゃなくて――間違いなく、男女のそれだ。どうする、男女関係のもつれでパーティー解散とかよく聞く話だし。というか、俺のニコライパーティー追放がまさにそれだし――。もし、ナターシャまで失ったら、俺は絶対に立ち直れないぞ)
そんなことを考えているうちに、いつの間にか目的地に到着していたみたいだ。
「センパイ、着きましたよ~って、なんで仮眠してたのに、目が血走っているんですか?」
「これには、いろいろあってさ」
「もしかして~センパイ~私の毛布に興奮しちゃって、エッチな夢でも見たんですね~ ちょっと、なんですか~早く言ってくださいよ~」
「ばばばっばば、馬鹿いうな。興奮なんてしてねえし」
「いや完全に動揺してるじゃないですか~冗談なのに、そんな反応されたらこっちまで恥ずかしくなっちゃいます」
そう言って顔を赤らめたナターシャに不覚にも一瞬ときめきかけたが、なんとか理性が打ち勝った。というか、ナターシャは、本性は痴女なのに、肝心なところでヘタレだった。宿屋で半裸でも何もできなかった奴だったし。
ちょっと微妙な雰囲気になりつつも、この後、ふたりでめちゃくちゃ薬草を取った。
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