第52話 トラウマ
「美味しいです」
俺はナターシャの横に座りながら、彼女の看病をしていた。
「とはいっても、おまえが作ってくれたスープに米をいれただけだけどな」
「作ってくれる人がいるのが嬉しいんですよ!」
ナターシャに聞きながら、風邪に効くハーブティーを作ってみた。ローズヒップとエルダーフラワーを混ぜたハーブティーだ。
ローズヒップは発熱で失いやすい栄養を補給してくれて、エルダーフラワーは、のどの炎症を抑える効果があるようだ。
「少し寝たら、だいぶ楽になりました」
「よかった」
「ご心配かけて申し訳ないです」
「病人は、変なことを考えないで休め。短い期間でいろんなことがあったから、疲れたんだろう」
「そうですね」
ナターシャは、力なく笑った。
「克服したと思っていたんですけどね。やっぱり駄目でした。先輩には、ちゃんと話しておきますね」
盗賊の話を聞いた時から、なにか様子がおかしいと思っていた。きっと、嫌な思い出があるんだろうな。
「大丈夫か?ナターシャが話したくなかったら、言わなくていいんだぞ」
「ごめんなさい。でも、聞いてほしいんですよ。先輩にも、重荷を背負わせちゃうかもしれませんが……」
「俺たちは一心同体のパーティーだ。ちゃんと聞いておきたい」
「ありがとう、ございます」
「実は、私は先輩と組む前に別の人と一時期、パーティーを組んでいたことがあるんですよ。その人は、A級冒険者の女戦士カレーニアさんという名前でした」
やっぱりな。物理的な攻撃力をもたないナターシャがソロで冒険しているのはリスクが高すぎる。俺と再会したときに「いろいろあって今はソロ」というような言い回しをしていたから気になってはいたんだ。
「カレーニアさんは、孤児院出身で、収入の一部を出身の施設に寄付していたくらい優しい人でした。A級冒険者の戦士だけあって、本当に強くて……私は何度も彼女に助けてもらいました」
全部過去形か。俺は察する。
「いつもの冒険の途中で、私たちは盗賊団に襲われました。私たちはしっかり警戒していたのに、やつらはいつの間にか私たちの後ろにいたんです」
今回のような弱小盗賊ではなく、本格的な犯罪集団に狙われてしまったんだろう。運が悪いとしかいいようがない。
「カレーニアさんは、私を守るために――」
ナターシャはうつむいた。涙を見せないようにしたかったんだろう。
「そっか」
だからさっきの「今回は間に合った」という安堵の声なんだろう。その時は間に合わなかったことの裏返しだ。彼女にとっては一番間に合わなくてはいけない時だったのに。
「私は、彼女に生かされているんです。だから、他の人を助けるために、今後は生きていこうと思いました。彼女の分まで」
ナターシャが過酷な医療現場の前線で活躍したのはそれが理由か。贖罪のような意味も込められているのは重過ぎる。
「ごめんな、ナターシャ?」
「どうして、先輩が泣いているんですか?」
いつの間にか視界がぼやけていた。
「お前は俺が大変な時に一緒にいてくれたのに――俺は、おまえが大変な時に近くにいてあげられなくてごめん。そばで話を聞いてあげられなくて、ごめん。一緒に泣いてあげられなくて、ごめん」
「違いますよ。先輩がいてくれたから、私はここまで歩いてこれたんです。あなたがいなければ、心が折れていました。だから、謝らないでください。それにありふれた話ですよ。先輩だって、大事な人や仲の良い人を目の前で失ったことあるでしょ?それがなければ、そんなに上に立つことはできない。乗り越えないといけないんです」
パーティメンバーや仲の良い冒険者が目の前で魔物の波に飲み込まれたことはたくさんある。でも、それが普通な世界じゃいけないんだ。そんな世界は変えなくてはいけない。
「俺、がんばるから。ナターシャをずっと守れるように、ナターシャたちのような悲しい思いをする人が出ないように、がんばるから。だから今度は、ずっとずっと傍で、お前を守らせてほしい」
ナターシャはそれを聞くと、俺の胸に抱き着いて、泣き始めた。
俺たちはこうして、本当のパーティになった。
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