第39話 機密
俺は覚悟を固めて、記者たちの前に姿を見せた。
「アレクさん、こっち向いてください」
「笑顔お願いします」
魔力撮影装置の光がまぶしい。
「記者の皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。今回行われましたヴァンパイア討滅作戦の報告をさせていただきます」
副会長がそう言うと、さらに光が強まった。
「えー、まず、この度の件につきましては事件解決のため、報道規制をお願いしておりましたことをお詫び致します。避難民の誘導を最優先にし、その後のパニックを防ぐ目的のための措置でした」
報道規制なんてしていたのか?初めて知ったぞ、副会長!?
「まずは、被害を受けた村の数は4件です。被害者の差別等を防ぐため、村の名称は非公表とさせていただきます。被害者は1241名、重傷者及び死者は確認されていません。念のため、被害を受けた方々は、経過措置を取らせていただいておりますが、後遺症やヴァンパイアによる魔力痕跡は全く見られません。数日中には、みなさん普通の生活を送っていただけると思います」
「おお!!」
「すごい、魔王軍幹部の侵攻を受けて、ここまで被害が少なかったのは異例じゃないか!?」
「討伐チームのメンバーは、討滅作戦本部長のアレク官房長を筆頭に、マリア技術局長、ナターシャ秘書官、そして、急遽参加していただいたS級冒険者のボリスさんの4名で構成されていました」
「わずか4人で!!?」
「アレクさんとコンビネーションを考えてのメンバーだな。勇者パーティーの同僚で長年の盟友であるボリスさんを招集していたとは……」
「あの人に白兵戦で勝てる奴はいないからな」
いや、まって、俺っていつのまに「討滅作戦本部長」に任命されてたの!?初耳だよ。政治家怖い、真っ黒だよ!?
「ギルド最高評議会で、多人数の戦力では眷属化され被害が拡大する恐れがあると判断されたため、最小限の戦力のみの投入が決定されました。4人にとっては、困難な作戦になってしまいましたが、見事に成し遂げて頂きました」
会場からは割れんばかりの拍手が巻き起きた。
「それでは作戦の概要については、本部長直々に説明をお願いします」
来たあぁぁぁぁ。
今回俺が言ってはいけないのは3つだ。
会長が作戦に加わっていたこと、勇者ニコライのこと、そして、作戦が失敗した場合のサブプランのことだ。
「えー、アレクです。あまりこういう場には慣れていないもので、大変緊張しているのですが、今回の作戦はギルド協会北方支部との協力なくしては実現できないものでした。まず、この場を借りて、協力していただいた専属冒険者の皆様にお礼を言わせていただきたいと思います。本当にありがとうございました」
「若いのに、謙虚だね!」
「ああ、これは好青年ということで数字が取れるぞ」
ゲスな思惑渦巻きすぎだろ、この場所!?
「今回の作戦は、3つの段階に分かれていました。第1段階は、ヴァンパイア発生地域付近の住民の方の保護と避難誘導、その後の周辺領域の物理的な封鎖。第2段階は、第七艦隊による艦砲射撃による陽動。最終段階が、私たちによる陽動で手薄となったヴァンパイア本陣への強襲です」
ここまではナターシャが考えてくれた台本通り。もし、難しいことを聞かれても、軍事機密上の守秘義務を理由に回答できないと言えばいいという話になっているから気楽だった。
俺も簡単に作戦を説明するだけで終わりになった。質疑応答は、副会長がほとんど答えてくれるから楽だ。
「作戦領域付近で、光の魔術のような翼が発生したとのことですが勇者ニコライさんも作戦に参加していたんですか?」
「彼は入院中のため、そのような事実は存在しません」
「では、あの翼はいったいなんだったんですか?」
「あれは、アレク官房長とナターシャ秘書官が即興で試した技です。アレク官房長の魔法剣に、ナターシャ秘書官の聖魔法が組み合わせって生まれた、光の魔術に準ずるものと我々は考えていますが、原理等は未だに不明のため、私たちにもわからないというのが本当のところです」
「勇者不在の今、協会は光の魔術の代替手段を、獲得したと考えてもよろしいのですか?」
「その可能性は非常に高いものだと思っています!」
会場のボルテージは最高潮に達した!
今日の夜にも更新を予定しています!




