第4話 ナターシャ
荷物を取ってきたナターシャと合流して、俺たちはこの街の冒険者ギルドに向かった。
パーティを組む場合は、冒険者基本法に定められた通り、ギルドに申請が必要なのだ。冒険者間のトラブル防止のため、パーティの掛け持ちは原則不可。よって、俺は、ニコライたちのパーティーを抜けるための申請も必要になる。
「手続きめんどくさいな」
「しょうがないですよ。それが冒険者の義務ですからね。下手に違法冒険でもしたら、いくらS級の先輩だって厳罰ですよ~」
「知ってるよ、言っただけだ」
「あと、私、大事なこと、先輩に伝えていません」
「えっ?」
「さっき、先輩が勘違いしたようなことは、ちゃんとムードを考えてからにしてくださいね」
「しねぇよ、ばーか」
「先輩は、からかい甲斐あるな~ そういうところも、大好きですよ」
「お前は、学生時代からいっつもそうだ」
「だって、センパイがおもしろいからですよー」
ふざけているように見えるナターシャだが、学生時代の成績は主席クラスだった。本人が希望すれば、簡単にどこかの王国に仕官して、エリート官僚の道だってあったはずなのに。こいつは、俺を慕って、冒険者になってしまった。
各国のスカウトが何度も足を運んでいたのに、だ。
彼女の決定は、世界的なニュースになったくらいで――
そして、神官としての実力・実績も申し分ない。
たしかに、腕っぷしは俺たちには敵わないが、治癒魔法や医術の分野においては、"天才"だとか"若き権威"だとか言われていると昔、新聞には書かれていた。
たしかその時に書かれていたナターシャの経歴はこうだ。
・南の大陸の流行り病"マラリウス"の原因が、モスキートという害虫であると解明
・東大陸の難民キャンプに足を運んで、負傷者や病人の治療に当たり、ウーラン王国と連携し、難民が無料で医療が受けられる制度を確立
・3年前の魔王軍との"バル"攻防戦でも、後方支援要員として応援に来てくれて、野戦病院で医療チームを率いる
戦争や最前線での華々しい活躍が少ないせいで、S級の審査は通っていないが、間違いなく世界屈指の神官。民衆からも人気があり、ついたあだ名は現代の"聖女"様だ。容姿・成績ともに抜群で、学生時代もファンが多かった。
しかし、痴女である。
この要素は、親しくなった奴にしか見せないので、みんな勘違いしている。だが、さっきのベッドもぐりこみ事件をみてもらえば分かるが、こいつも天才の性なのか、思考がかなりぶっ飛んでいる。
真面目な場においては、とことん真面目な仕事人間なのに、プライベートは完全にポンコツなのだ。
よく、ソロ冒険者で今まで無事にやってきたものだとある意味感心する。
「ねぇ、先輩?」
「どうした?」
「他の人からみたら、私たちデートしているように見えませんかね?」
「はぁ」
「なんですか、そのつまらない反応は? 私と一緒に街を歩くなんて、ファンが聞いたら闇討ちされますよ」
「あいかわらず、物騒だな」
「大丈夫ですよ、先輩が怪我したらすぐに治してあげます」
「ケガする前提かよ」
「ハハ、その反応懐かしいな~」
学生時代に戻ったような会話だ。昨日までの悲壮感がどこかに行ってしまった。
「ありがとうな、ナターシャ」
俺は思わず本音を伝えてしまった。
「えっ、なんだって~」
こういう奴である。
「絶対に聞こえただろ。お前は大事な時に、いつもそうやって逃げる」
「逃げてないですよ~ 聞こえなかったんだから、大きな声で言ってください。私への感謝の言葉を」
「聞こえてるじゃねーか。本当にお前は、官僚のスカウトが来たときに「私のフィールドは、世界です」と答えたのかよ。俺には、そんな要素一つも見せないくせに」
「あっ、言っちゃいます。それ、言っちゃいます~ 私の黒歴史、そんな大声で言っちゃいます~」
「黒歴史なのかよ!?」
※
「ねぇ、ニコライ。あんな馬鹿たち置いていって、早く行きましょうよ」
「ああ、エレン。お前の言う通りだったな。あんな奴、追放して正解だったぜ。俺には、お前だけしかいないんだからな」
「もう、ニコライったら。かわいいんだから~」
そろそろ眠くなってきたので、寝ます。
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