第384話 魔王の力
―ギルド協会第7艦隊総旗艦グランド・アレク―
ついに魔王軍が出陣したという情報が協会内に入った。エカテリーナが率いる偵察部隊からもたらせれた。俺たちは新造艦に乗り込んで決戦の場所に向かう。
アドミラル・イールから旗艦はこちらに移った。
人類の命運をかけた新造艦に俺の名前が付けられる。不思議な気分だ。
「ずいぶん緊張しているね、アレク?」
パズズは俺に笑いかけてくる。
「緊張するなと言うのが無理だろ。最終決戦前だぞ」
「それもそうか」
「パズズ。魔王ってどんなに強いんだ? お前の父親だろう?」
「人類側に姿を現したのは3回だけだもんな。それもスローヴィ攻防戦と古代魔力文明での戦闘ではあれはカケラだ。父上の魔力の残滓みたいなもんだ。本人は歴史上では人類が冥王を撃破した後のリト攻勢の時しか姿を見せていない」
「あの時は、魔王軍最高幹部を初めて失い魔王軍が崩壊寸前だった。総大将が出ていかなければ敗戦すらありえたらしいじゃねぇか。会長すら逃げることしかできなかった。体長3メートルを超える悪魔。手を動かすだけで周辺からは火柱が発生したとか。退却をしようとした人類艦隊を追撃するために広範囲の海を氷漬けにしたとか。そういったうわさ話みたいなものしか聞いたことがないから実際どうなのかって」
「まあ、それくらいはできるだろうな、あの人なら。世界崩壊の時、無限にも近い魔力炉の影響を直接受けたからな」
「古代魔力文明は魔力炉の力を使っていた。だから、巨大なキャパシティーを求められる魔力を使って文明が作られていたんだろ。そう考えると魔力炉はすさまじいエネルギーを持っていたんだな」
「ああ、あの文明では想像できることは基本的に魔力で実現できたよ。だから、我々が神すらも超えることができると傲慢になっていたんだと思う。空すらも自由に飛べた。どんな場所にだって行くことができた。道さえ間違わなければ最高の時代だった」
「そんな奴に俺は勝てるのか?」
「どうだろう。でも、いい勝負はできるはずだよ。いくら父上でも魔力炉すべてを取りこめたわけではない。あくまで全体から考えればわずかな部分だけだ。アレク、キミが異質なんだよ。それほどの巨大な魔力炉ですらたどりつけなかった境地に達してしまったんだ」
「パズズ。こみいったことを聞いてもいいか?」
「なんだい?」
「お前の母親はどうしているんだ?」
こいつからは父親の話は聞けても母親の話は聞かない。
「死んだよ。魔力文明とともにね」
それは冷たい笑顔だった。




