第291話 決戦前夜
「じゃあ、アレク官房長。陸上は任せたよ」
副会長は、俺にそう言った。
今までずっと小さなグループしか率いていなかったから、いきなり大軍を任されてしまって正直に言うと動揺している。
「大丈夫だ。アレクは、ずっと作戦を成功させてきただろう。ヴァンパイアや南海戦争、クーデター……。少人数のチームの応用だと考えれば大丈夫だ。補佐に、イーゴリとマリア、ユーリをつける。兵が活路を開いたら、アレクが突入して、あとは大将同士の一騎打ちだ。その間の指揮は、3局長に任せておけばいいさ」
副会長は、珍しくフランクな会話で俺を落ちつけようとしてくれているのがわかる。
彼は、第7艦隊をニキータさんと共に率いて、海上から艦砲射撃と魔力で援護してくれることになっている。
ギルド協会の西大陸にいる総力をもって、残党を叩く。
海上からの援護を考えれば、圧倒的に有利な立場だ。
だからこそ、ハデスとの戦闘は避けることができない。ハデスを倒せるかどうかが、今回の戦いを左右する。
ハデスだけで、戦局を簡単にひっくり返すことができるからな。
みんなが活路を開いてくれたら、速やかに突入し、犠牲者を最小限に抑えるためにハデスを全力で討つ。
「念のため会長にも、連絡を取っておいた。会長は、東大陸にいるらしいから、こっちに戻ってくるのに時間がかかりそうだ。最初の計画でハデスを倒すことができたら、それが一番だが、無理だけはしないでくれ。被害が大きくなりそうなときは、撤退してくれて構わないから」
「ありがとうございます! 最初の計画で終わらせるように頑張ります」
一回目で仕留めきれなかったら、伝説級冒険者も投入する二段構え。ただ、その場合は、初回の作戦でたくさんの犠牲を払った上に、さらなる犠牲が必要になることを意味する。
それだけは避けたい。
「頼んだよ。じゃあ、私は先に行くよ。健闘を祈る」
副会長は、海軍の準備のために先に協会を出る。
俺たちの陣営には、3局長と突入の援護のためにボリスとナターシャが参加してくれている。
単純な実力ならリヴァイアサンやメフィストを上回る強敵。
クロノスや古代魔力によって俺も強化されているはずだ。
だが、魔王軍最強の怪物にどこまで戦えるか……
副会長との最後の打ち合わせを終えて部屋を出ると、ナターシャが待っていてくれた。
「ずいぶん、不安そうな顔をしていますね、先輩?」
「この状況で笑っていられる奴がいたら、見てみたいよ」
「大丈夫ですよ、あなたなら」
「ありがとう」
「私は、この5年間、あなたのことだけを信じてやってきたんです。たとえ、相手が誰であろうと、先輩はもう世界最強です。あなたにできないことは、もうほとんどない」
「なら、ハデスにも勝てるかな?」
「逆ですよ。あなた以外に誰が災厄に勝てるというんですか?」
ナターシャは力強く断言してくれた。




