第275話 ありえた未来
俺は前に進む。覚悟は固めている。もう、後ろには下がれない。
「そうか、勇気ある者よ。ならば、汝の覚悟を見せよ。我らは、汝が示す覚悟に試そう」
その言葉を聞いた瞬間、俺の目の前はゆがんだ。
※
目が覚めた瞬間、俺の目の前にはエカテリーナがいた。
なんで、ここに彼女がいるんだ。
俺たちは始祖のダンジョンを調べるために、地下にいたはずなのに。
エカテリーナは、かわいいワンピースを着ていた。こういう服も持っているんだな。
「あれ、ダンジョンは?」
「何を言っているのよ、アレク? 夢の中で冒険でもしていたの? ここは私たちの村で、ずっとここに住んでいるんじゃない。私たちはずっと一緒だったのよ」
「えっ!?」
「もう、あんまり新妻を困らせないで? 早く起きて、朝ご飯食べてよ。今日はお義父さんたちと買い出しのはずでしょ?」
夢。
さっきまでのは全部、夢?
村が全滅して、叔父さんたちに引き取られて、ニコライたちと冒険者になって、世界のために戦い続けていたのは、全部夢なのか。
だが、エカテリーナと話していると、それが夢だったと言われても納得してしまう自分がいた。
村には魔王軍の襲撃なんて来なくて、俺たちはずっと村で楽しく暮らしていた。
エカテリーナとはたまに喧嘩もしたけど、ずっと仲良くして、そして、去年、結婚した。
両親は、俺たちのことを涙ぐみながら祝福してくれて……
これからもずっとずっと幸せな日々が続いていく。俺は、怪我もしなくていいし、みんな楽しく生きていける。
エカテリーナだってそうだ。あいつは、家族も失わないし、孤児として寂しい思いもしなくてすむ。海軍に所属して危険なことしなくてもいいんだ。みんなが幸せな世界。
俺は彼女が作ってくれた朝食を食べる。トーストと野菜スープの簡単な朝食だ。でも、優しい味がする料理で、心が満たされる。
「美味しい」
「でしょ? アレクが好きなものを作ってあげたんだから」
「ありがとう」
「なによ、気持ち悪い」
そう言って、俺たちは笑いあった。
「さあ、食べたら、広場に向かいましょう。お義父さんたちが、結婚祝いにいろいろ買ってくれるって言ってくれているんだから、待たせたら悪いわ」
「ああ、そうだな」
「久しぶりの街だからね。とても楽しみよ」
「うん」
俺は、エカテリーナに手を引かれて家を出た。
やっぱり、俺たちが住んでいた村だ。見ているだけで、泣きそうになる。
そして、待ち合わせの広場には……
ずっと会いたかった人たちが、俺を待っていてくれた。




