第19話 オルガノンの裁き
そこからの時間は数秒だったはずだが、俺にとっては何時間にも感じるほどの密度のものとなった。
左からニコライの剣が俺に襲い掛かる。予想通りだ。俺は重心をわずかにずらしてギリギリのところでそれをかわした。そして、空振りした剣先が、すぐさま逆戻りして俺に向けられる。
(こっちのパターンだな、ニコライ?)
俺は大地を蹴り、後ろに移動することで、それを受け流す。
この程度では、もちろん終わらない。第3撃は、直進した勢いを利用しての"突き"だが、それは分かっている。移動の反動で、わざと倒れ込むようにして、首元に直撃しかけたそれをどうにかかわすと、俺はニコライの鎧にケリを入れた。これで、あいつの第4波は重心を崩した中途半端なものになる。
あいつの性格なら、この攻撃で冷静さを失うまでが定跡だ。自分の大事にしているアーマーに土がついたからな。
次の攻撃は、俺のケリでバランスを崩して上ずった腕から繰り出される振り下ろしの一撃だ。避けるのは造作もない。少し地面に転がってしまえばいい。聖剣は、土にめり込んだ衝撃でニコライの顔に泥が跳ねていく。これはニコライでもかわすことはできない。
泥が顔につくことで、あいつの視界はわずかに制限されたはずだ。このわずかな隙が、俺にとっては最高のチャンスになる。
あいつは土から聖剣を引き抜いて、単純な左からの斬撃を試みるが、そんな単純な攻撃で俺を捉えることはできない。俺にかわされた刃を、再び戻して右からの斬撃に変更するが、しょせんは苦し紛れの一撃。
あいつの連撃は残りは4発。これならいける。俺は今まで手に持つだけだったバスターソードを振るいカウンターを仕掛けた。
攻撃を仕掛けようとしていたニコライは慌てて、防御態勢になり中途半端な動きしかできなくなった。
だが、そこはやはり最強の勇者だ。
すぐさま、つばぜり合いを制して、残りの3発を俺に向けてくる。俺は、バスターソードで振り下ろしからの左右の斬撃を受けきった。
これで―オルガノンの裁き―は、受けきった。油断していた俺の腕に不意に強い衝撃が襲い掛かる。
「なっ、12連撃だと」
「誰が11連撃しか打てないって言ったんだよ、アレク。無理すれば、もう1発くらい連発できるぜ」
「くそっ」
バスターソードでギリギリ防ぐことができたが、あまりの衝撃で俺の剣は手から放り出されて、クルクルと宙を待っていた。
「チェックメイトだな、アレク。あばよ」
剣を失い無抵抗になっていた俺に、ニコライは剣を向ける。口からは吐血している。全身の闘気を放出して、肉体強化をおこない限界を超えたスピードで攻撃する技だ。肉体への負担は、とてつもなく重い。それを無理して、1撃追加したのだ。
あいつの体には、常人では耐え切れないほどの負担がかかっている。
「ああ、チェックメイトだよ、ニコライ――」
宙を舞っていたバスターソードが地面に突き刺さった。
「おまえのな?」
その瞬間、俺の魔力の暴走が大きな爆発を引き起こした。
※
「目が覚めたか、ニコライ?」
俺は、地面に倒れているこいつに剣を突きつけながらしゃべりかけた。
魔力爆発に巻き込まれたニコライは、体の骨が折れているのだろう。起き上がりたくても、起き上がれないようだ。
どうして、自分が倒れているのかも理解できていないようだ。
「なんで、お前が俺に剣を突きつけているんだよ? アレク? 逆だろ、俺は華麗な奥義でお前をぶち倒して、お前が必死に命乞いしてなくちゃいけないだろ」
「それは、おまえが負けたからだよ、親友?」
「俺は選ばれし者なんだよ。なのに、なのに、どうして、俺の攻撃が当たらないんだよ。なんかのインチキだろ。魔王軍幹部だって、この攻撃は避けられないのに。どうして、才能も実力もないお前が全部避けちゃうんだよ。インチキだ、インチキしたんだろ」
ニコライは勇者とは思えないほど、情けない声をあげていた。
あいつの自慢であった聖なる力がこめられているアーマーは爆発によって粉々に砕け散っていた。もう着れないな、あれ。
「ニコライ、確かに初見なら、お前の奥義は必殺の連撃だよ。だけどな、俺は何度もそれを見てきたんだよ」
「あぁ」
「それに俺は何度もお前の練習相手として、付き合ったことあるよな。お前は才能は抜群なんだけど、単純なんだよ。いくつかパターン化されていて、知っていれば簡単に避けられるんだ」
「うそだ、魔物たちは、そんなこと全然なかったぞ。インチキだろ、インチキって言ってくれよ、アレク。俺の連撃は、完全無欠の最強の技で――勇者しかできない必殺の――」
「魔物たちは、俺みたいに何度もあの連撃を見ていないだろう?」
信じたくないのか、幼児退行みたいなものが始まってしまった。
正直、少しめんどくさかった。
「それに、この爆発もインチキだ。どうして、俺だけ巻きこまれたんだ。無効だ。こんな決闘無効だ。お前がなんか仕掛けてたんだろう。俺たちが今日ここに来るのを知っていて、卑怯な罠を作ってやがったんだなあああああああああああああ」
「そんなことできるなら、お前たちが最初に現れた時にやってるよ、ばーか」
「うわあああああああああああああああ。俺は天才なのに、こんな才能も無いヤツに負けるなんて俺のプライドがゆるせない。うそだあああああああああ。殺せ、いっそ殺せえええええええええええええええええ」
さすがに勇者殺害の罪で捕まりたくはないから。お前ほど馬鹿じゃないし。とりあえず、催眠魔法をかけて眠らせる。敵性補助魔法無効化の保護があった鎧は粉々に砕け散って、体力もほとんど残っていなかったニコライは、すぐに意識を失った。
「さてと、エレン?」
俺はもうひとりの黒幕に向けて殺意を送る。
「なによ、私に危害を加えようとしたら、あんたの大事なナターシャちゃんの頭が吹っ飛ぶわよ。覚悟しなさい」
「そんなことしたら、俺はこの違法に挑まれた決闘の記録を全世界に向けて配信してやる」
「はぁ? どうやって?」
「実はな、俺の鎧には特殊な魔道具が仕込まれていてさ、任意で音声記録を取ることができるようになってるんだよ。新参者のお前は知らないだろうな。最初は面白くて使ってたんだけど、お前が入ってくる前に使うのやめちゃったから。ためしに、聞かせてやるよ」
※
(「最初は、俺たち4人でボコってやろうと思ってたんだけどな。気が変わったよ。それじゃあ、お前が俺よりも格下だと証明できないもんな~ だから、1対1でやろうぜ。拒否すれば、その女、殺す」)
(「それに、この爆発もインチキだ。どうして、俺だけ巻きこまれたんだ。無効だ。こんな決闘無効だ。お前がなんか仕掛けてたんだろう。俺たちが今日ここに来るのを知っていて、卑怯な罠を作ってやがったんだなあああああああああああああ」)
(「なによ、私に危害を加えようとしたら、あんたの大事なナターシャちゃんの頭が吹っ飛ぶわよ。覚悟しなさい」)
※
まぎれもない自分の犯罪記録の音声を突きつけられて、大賢者様は顔色が真っ青だった。事の重大さに気がついて、言葉を失っている。
「今回は特別に、この音声は公表しない。だから、俺たちの目の前から消えてくれ。すみやかに、な」
エレンはゆっくり頷くと、ピエールに抱きかかえられるようにしてゆっくりとどこかに消えていった。ボリスは、申し訳なさそうにうなずくと眠っているニコライを肩に抱いて森の中に消えていった。
「終わったな」
全てが終わった後、そこにはナターシャと俺だけが取り残された。
「ナターシャ、ケガはないか?」
「大丈夫です、ありがとうございます。先輩」
「こちらこそだ。ナターシャが応援してくれなかったら、きっと負けていたよ」
「足手まといになっていましたよね、私?」
「そんなことはない。俺の夢を、俺たちの夢を守ってくれてありがとうな」
「センパ、イ」
ナターシャは俺の方に抱かれて感情を爆発させた。
次回から本格的なアレクたちの成り上がりとニコライたちのな転落が始まっていきます!
楽しんでもらえると嬉しいです!
あと、イチャイチャ分もどんどん増やす予定です!




