第170話 ナターシャの野望
「経済圏?」
俺は、ナターシャの言うことを繰り返すことしかできなかった。
なんとなくしか理解ができない。
「はい! 私はこの村から世界を変えるつもりです! 先輩、この村は土壌がいいので、農作物がたくさん取れますよね?」
「そうだな。ドルゴンみたいな子どもでも、しっかり農業のことを理解しているし、貴重な白米を主食にできるくらい村の人たちは食べ物に困っていない」
「そうです! でも、この近くの村々は、貧しい生活を送らなければいけなくなっています。どうしてだと思います?」
「そりゃあ、土地が悪いから、農業がうまくできないからだろう?」
「はい! そして、生活が貧しいから、隣の村には学校のような教育機関も作れないんです。でも、この豊かな村は子供たちに勉強を教えて、効率がいい農業も学ばせることができる。そうすると、この豊かな村と貧しい村の差はドンドン開いてしまいます」
「ああ」
「でも、村の成長には限界があるんですよ」
「限界?」
「そうです! この村だけではいつか限界が来ます。村の人口が増え過ぎたら、いくら豊かな村でも支えきれなくなる。仮に、飢饉や疫病が発生して、農業ができなくなったら、たちまち食べることができなくなってしまう」
「そうだな」
「だからこそ、私たちはこの村だけじゃなくて、近くの村も豊かにしなくちゃいけないんです!」
「どういうことだ?」
「この村の近くには、民芸品を作ることが上手な村、牧畜がうまい村……たくさん、あります。でも、この地域はあくまで西大陸の辺境でしかありません。大陸全体から見れば、領主以外はこの地域なんて吹けば飛ぶくらいにしか思っていない。領主さんも税を安定して取れる場所みたいに思っているでしょう」
「政府がここを発展させる気はないということだな」
ナターシャは首で肯定した。
「だから、私たちでこの地域を発展させたいんです。みんなが笑って生活できるように……。弱い人たちは簡単に切り捨てられてしまうんです。私は、難民キャンプでそういう人たちをたくさん見てきました」
俺にはめったに語らない難民キャンプのことを思い出したナターシャは、少しだけうつむく。
「だからこそ、この場所を強くするんです。自分たちを守れるくらい豊かにして、ここを楽園にします。先輩と私ならできると思うんです」
ナターシャの目は力強く俺を見つめた。まるで、卒業式の日に俺に見せたかのような力強いナターシャだった。
「先輩。私はあなたと同じ夢を見ています。でも、夢はひとつだけじゃなくてもいいですよね?」
「ああ!」
「だから、今度は、先輩に私と同じ夢を見て欲しいんです。ここから、この村から一緒に世界を変えませんか?」
ここ最近で、共犯者にされることが多すぎるな、俺。
ナターシャは、細く白い手を俺に差し出してきた。
「もちろんだ」
俺は、彼女の柔らかな手をつかんだ。




