第164話 幼馴染
俺たちは、青年の気持ちを受け止めて、帰路に就いた。
「やっぱり、重いな」
「そうですね。先輩には、どうしてもみんな期待してしまうんですよ。それが、世界の頂点にいる人の責任でもありますからね」
「ニコライもこの責任の重さにつぶされたんだろうな。同じ立場になってよくわかったよ。ナターシャやボリスみたいに支えてくれる人がいなかったら、間違いなく心に隙間ができてしまうな。そこをあの女に付け込まれたんだろうな」
俺は、後悔をナターシャに伝えた。人が良すぎるといわれるかもしれないが、俺ももう少しニコライに寄り添うべきだった。そうすれば、あいつは今でも立派な勇者だったと思う。
責任を忘れる場所が欲しい。そんな心の隙間に、エレンはうまく潜り込んだ。そして、その隙間を埋めるためにあいつは、悪女に依存した。
「過ぎたことは、考えても仕方ないですよ。それに、先輩はできる限りのことはしていたと思いますよ。ボリスさんもそう言っていましたからね。あのパーティークラッシャーの悪意は、人の善意を上回るほどのものだったんです。ニコライも、先輩のように器が大きくはなかったんですよ。人の善意をそのまま飲み込めるほどの器だったら、あんな風にはならなかったはずです」
ナターシャは、相変わらずニコライのことを呼び捨てにしている。怒りは収まっていないんだろうな。俺のために、怒ってくれる人がいる。そういう人を大事にしていきたいと本気で思った。
「先輩、エカテリーナさんには会わなくていいんですか?」
ナターシャが意外な事を言った。
「えっ?」
「エカテリーナさん、先輩の病室に何度も来ていました。本気で心配していたんだと思います。せっかく会えたのに、このまま会わないと、また長い時間会えなくなっちゃいますよ?」
「でもさ……」
「ふたりとも、私に気を遣ってくれているのはわかりますよ? でも、やっぱりちゃんと会って話しておくべきですよ。そうしないと、ふたりとも絶対に後悔します!」
「そう、だよな……」
「ということで、明日の12時にエカテリーナさんと待ち合わせしているので、行ってきてください!」
「なっ、お前、いつのまに……」
「お願いします。行ってきてください……」
彼女は我慢して、俺のことを考えて行動してくれている。なら、この善意は受け取らなくちゃいけないよな。
「ありがとう、ナターシャ!」
「どういたしまして」
そして、俺たちは宿の前に到着する。
「じゃあ、私、着替えてくるので先に部屋に行ってください」
「お、おう」
ナターシャは、朱色に染めた笑顔で、俺を見つめた。
※
私は、ドレスを脱ぎ捨てる。
なんとか、先輩を笑顔で送ることはできた。よかった。本心を出してしまえば、先輩は気にして絶対に明日は会いに行かないはず。
だから、あそこは笑顔でいるしかなかった。
「意地っ張りだな、私」
戦闘服は、もう私を守ってはくれない……
もうすぐ連載3カ月です!
いつもありがとうございます!




