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のぞきこんでくるモノ

作者: ニビ

  古い木造の駅舎はクーラーがついていなかった。やはり、という思いと落胆を押し殺し、スーツケースを引きずって待合室に入る。天井についたほこりまみれの扇風機がよどんだ空気をかき回していた。窓のそばに空いている椅子を見つけ、腰をかけて何の気なしに窓をのぞく。

  厚いガラス越しに、向かいのホームに取り付けてあるフェンスが見えた。真夏の太陽に照らされ、金属とそこに絡みついた朝顔の葉がぎらぎらと光っている。

  もっとよく見ようと窓に顔を寄せて、窓のすぐ外に誰かが立っていることに気づいた。

  黒い服を着ている。おどろくほど背が高い。思わず見上げると、顔はこちらを見ていた。異様に大きな目と目があう。垂れ下がった髪で顔はよく見えないのに、小刻みに動く大きな黒い目がくっきりと際立って見えた。ただこっちを見ているだけなのに、寒気がする。

  人間じゃない。とっさにそう思った。

 ぞっとして窓から身を引くと、それがかがみこんでくるのがわかった。じわじわと背をかがめ、窓に近づいてくる。目を離したくてたまらないのに、顔が動かせない。肩が見えた。首から上が見え始める。あの恐ろしい目が近づいてくる。

 ジリリリリ、と発車ベルが鳴った。はっとして待合室の入り口に目を向ける。駅員が反対のホームから出発する列車を告げているところだった。

 どくどくと落ち着かない心臓を抑えて窓をもう一度見たが、それはいなくなっていた。

 

 それ以降、特に変わったことはない。帰ってからその土地について何度も調べたが曰くのたぐいは全く見つからなかった。体験談を集めた本で一つだけ、あの駅で背の高い影を見たというものがあったが、それだけだった。あののぞきこんでくるモノがなんだったのか、分からないままだ。

 



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