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ラスボス戦3日前~side淵生

学校あると忙しいですね。あまり書く時間がないです。

 やぁ、僕だよ。神依。

 前回は僕が淵生信者に語ったり、王様に呼ばれたりしたね。そこで淵生と模擬戦やろうってなったね。今回は淵生sideだ。

 次に豆知識。淵生信者は皆温厚なんだ。けど淵生の命令は何がなんでも実行するよ。淵生もそれを知っているから、命を賭ける程の命令は絶対しない。彼も言っていたしね、信用はできないけど。

 それじゃ本編よろしく!



――――――――――――――――――――――――


 神依が図書館を出る少し前、淵生は鳥の討伐を信者達に命じ、緋奈を連れて町にいた。訓練に参加するのはオニグスに対してプレッシャーをかけかねないため、ステータスを測った日から暇な時に町に遊びに来ている淵生。お金は大道芸をすれば意外と稼げるので、というかなんだかんだお金が入ってくるので悠々と過ごしている。

「……で。決まったか? 」

「もう少し待って」

「オレこれがいい! 」

 そんな淵生は今、緋奈と共に迷子の相手をしている。

 淵生と緋奈が休みを利用して適当に町を散策していたところ、道の隅で泣いている4~5歳の少年を見つけたのだ。話を聞けば、母親と買い物に来たがはぐれてしまったとか。そして今、その少年は淵生に肩車され、“フルム”(アイスクリームみたいなもの)で餌付けされようとしている。

「おい、今すげー失礼なこと言わなかったか? 」

「兄ちゃん誰に話しかけてんの? 」

「気にするな少年」

 やがて緋奈も味を決め、3人分のフルムを買って適当なところで食べ始める。淵生と緋奈はバニラ味、少年はチョコレート味のフルムを堪能する。

「……私達の世界にあるのと一緒。食べ慣れた感じする」

「製法に何ら変わりはないみてーだな。名前違うだけで」

「なーなー、兄ちゃん達って別の世界から召喚されたんだろ? 何で? 」

「魔人族と戦争するためだ」

「ふーん」

 他愛ない会話をする3人。傍から見れば家族にしか見えない。周りに人が集まる。

「待て待て、マジで何でだ? アイス食ってるだけの連中見てて面白い? 」

「……淵生の、まあ、顔? じゃない? 」

「多分兄ちゃんだよ。皆知ってるもん。『面白い芸人が来た』って」

「この世界の情報網スゲェ。つか道化服着てねえのにわかるの? 」

「兄ちゃんイケメンでも評判だから」

「そこは仕事で評価してほし……いや、面白いって言ってた? 」

「うん」

「じゃ、いいや。お前のお母さんも見てるといいんだがな」

 彼らの想像は半分ハズレである。彼らを囲む男性は緋奈を見に来ている。

 “傾国の美”というスキルは、その名の通り国が傾くレベルの美貌を持つことを表したスキルである。それだけなら称号扱いになるが、緋奈の場合種族の垣根を越えて通じるのだ。鑑定した神依からも『今までの旅の中で何人か見たけど、ここまでは無かったね。もう呪いか何かだよ』と言われた。

 そんな少女と、この世のものとは思えない顔立ちの少年が共にいるのだ。視線を集めない訳が無い。顔がいいと何をやっても目立つものである。

 しかしその中で、人混みを掻き分けてこちらに来る女性の姿が。

「ヴァレン! こんなところに居たのね! 」

「あ、母ちゃん! 」

 迷子だった少年、ヴァレンが淵生の肩から下り、女性に駆け寄る。

「見つかったみてーだな、肩痛え」

「お疲れ様」

 感動の再会を果たした親子が、淵生達に話しかける。

「家の息子の面倒を見てくださってたのですね。ありがとうございました! フルムまで買っていただいて……いくらでした? 」

「えっ、この流れで金の話!? 『なんとお礼をいえばいいか……』とかでもなく、金!? 払いますとか言われそうだし嫌だし言わねーよ!? 」

「いえ、聞きたかっただけです」

「えぇ……」

「……フフッ」

 随分と変わった奥さんである。淵生じゃなければ怒られていたかもしれない。緋奈も笑いを堪えきれていない。ギャラリーもこのやり取りに少し笑っている。

「あー、まあいいや。良かったな少年」

「うん、フルムありがとね、兄ちゃん」

「別にいいよ。今度俺が町に来たらお母さんと見に来い。お菓子なんかサービスしてやる」

「あら、ありがとうございます」

「何で奥さんが反応するんだ」

 ここまで言って淵生は「そうだ」と何かを思いついたように髪の中からネックレスを2つ取り出し、親子に手渡した。

「せっかくの縁だ、これを持っていけ。御守りにな」

「おー、キレー」

「私にも? 残念ですが私には夫が……」

「口説いてねーよ、緋奈もジト目やめろ。そんなら旦那さんにも渡しとけ」

 もう1つネックレスを取り出し、今度は投げ渡す。

「んじゃな少年、もうはぐれんじゃねーぞ。行くぞ緋奈」

「……またね、ヴァレン君」

 手を振りながら2人を見送る親子。瞬きをすると、2人の姿は消えていた。今までのことが夢であったかのように。



――――――――――――――――――――――――


「ウハハハハハ!!!! 逃げろ逃げろぉ!! 」

「……ねぇ、淵生」

「どうした!? 酔ったか!? 」

「確かに酔いそうだけど違う……何でこうなったの? 」

「こうって何だ!! この鬼ごっこのことか!? 経緯はナレさんが説明してくれるさ!! 」

 淵生、追いかけられてます。緋奈、お姫様抱っこされてます。

「もっと詳しく頼む!! 」

 2人が親子と別れたあと、ふらっと町の外へ出て散歩していたのだが、町からかなり離れた地点で大量の触手を持った、1メートルはあろうかという猫型生物の群れに出くわした。それを見た緋奈は珍しく、短い悲鳴をあげた。淵生も流石に生理的嫌悪を覚えた。それは仕方の無いことなのだが、悲鳴がいけなかった。この猫型生物、耳が良いのか、淵生達の存在に気づき、襲いかかってきたため、淵生が緋奈を抱き上げ、今に至るのだ。

「……なるほど……ねぇ、淵生」

「何だ!? なるべく手短に頼む!! 」

「……私、重くない? 」

「今聞きたいことかそれ!? 」

「……乙女にとっては死活問題。好きな人に重いとか思われたら死ねる」

「クハハ、そうか!! 」←嬉しい

「……で、どう? 私、重い? 」

「お前が腕に巻き付けた鎖に比べりゃ重さ無いに等しいわ!! つか、お前こそそれ重くねーか!? 」

 そう言って淵生は、緋奈の腕に巻きついた鎖に目を落とす。銀色が眩しい。

「……ちょっとだけ」

「お前の筋力やっぱ人間超えてんよ!! 神珍鐵だぜそれ!! 」

「……如意棒? 」

「そうだよく知ってるな!! かの孫悟空が使っていた“如意金箍棒”と同じ金属だ!! ちょっとした縁で大量に手に入ったことがあってよ、それを適当に加工したやつのひとつだ!! 俺は使わねーし、お前の戦闘スタイルにもピッタリだろ!! 」

「うん……いろいろ気になるけど……ありがとね」

「気にすんな!! そろそろ止まるぞ!! 」

 爆走していた淵生は急ブレーキをかけ、衝撃で三半規管にダメージを受け目を回した緋奈を座らせ、まだ遠くに見える猫を見る。

「さて、緋奈よ。アレが串刺しになってるのとか大丈夫か? 」

「……うー、多分」

「オッケ、駄目そうなら目ぇ瞑っとけ。さっさと終わらせるにはこれが手っ取り早い」

 そう言って淵生は右手を掲げる。

「悪ぃが、怪は殺せって言われてんでね。お前らそうだろ? そうじゃなくてもデザインキショいし死んでくれや」

 理不尽な上に頭おかしい事を口走る淵生の頭上には、仮称ネコと同じ数の光球が浮いている。掲げた右手を振り下ろすと、それらは細長い棒状になり、ネコに突っ込む。綺麗な下向きの弧を描き、ネコ達の喉元を的確に貫き、先程とは逆向きの弧を描いて地面に突き刺さった。後に残ったのは、光る棒と喉を貫かれた十数匹のネコ達。淵生のこだわりで横一列に綺麗に並んでいる。

「……よし、魔力操作の精度は落ちてないな。今度あいつらにコツを教えよう。緋奈もやるか? 」

「……よろしく」

 少々唖然としている緋奈。躊躇せず生き物の命を奪った淵生の所業に、ではなく、

「……わざわざ並べるんだね」

「……お前の精神も俺達に近づいて来たな。あまり歓迎したくないが」

 淵生の謎のこだわりに対してと、ネコ達が呆気なく死んだ事に対して、である。

「ま、俺について来るんだろ? 俺と旅するなら、分け隔てなく、自分の命を脅かす者を、場合によっては殺すっていう覚悟を持っとけっつったのは俺だしな」

 少々不本意だがな、と呟いて緋奈の目を見る淵生。

「……私は、大丈夫そう? 貴方についていける? 」

 無表情だが、少し不安そうに聞く緋奈に、淵生は心底嬉しそうに微笑んで頭を撫でる。

「つくづくお前は俺の彼女だよ」

 甘い空間を作る2人。その後ろではネコ達の串刺し。この光景を見た他人は混乱するだろう。だが、甘い空間の中心部では、惨殺死体を気にもとめず、誰にも邪魔されずイチャついている。



――――――――――――――――――――――――


 あの後、夕暮れまで平原を散歩し、怪を串刺しにしていた淵生と緋奈。そろそろ晩飯の時間だと帰ってきた2人を出迎え、鳥の討伐が終わったことを伝えた信者達。そしてそれを労う淵生の元に神依がやって来た。

「おかえり、淵生、緋奈さん。デートは楽しかったかい? 」

「ああ、途中から怪を殺し回ることになったけどな」

「……町の外へ出たら、結構いて……」

「せっかくの休みに2人きりだったのに何やってるのさ」

「いや、それは本当に申し訳ないと思ってる」

「……埋め合わせ、してくれる? 」

「勿論だ」

「……ん、ならいい」

 再び砂糖空間を作り出す2人。信者達は慣れたもので、これを拝み始める。神依は呆れ返り、続けられると鬱陶しいので、

「緋奈さん、3人の所へ行ってきたら? 特に結夢さんとこ。仕方ないけど、緋奈分が足りないとか言ってたよ? 」

 それを聞いて淵生を見上げる緋奈。行ってこいと淵生が言うので、名残惜しそうに親友の所へ向かった。

「クカカ、お前砂糖空間嫌いだったっけ? 」

「笑い方が安定しないな君。いちいち爆弾投下される僕らの身にもなったくれ。王様からも言われたんだよ、自重するように言っといてってさ」

「我らとしてはありがたいです! 」

「君らは入ってこないで、ややこしくなる。……勿論、僕も嬉しくないわけではないんだけどさ、敵が増えるから止めて欲しい」

「大丈夫だ、全くもって問題ない」

「知ってる。君のそれはフラグにならないことはわかってる。でもね? あまり犠牲者を出したくないんだ」

「まあ、そうか」

 静まり返る。誰も何も言わない。冗談にならないことは信者達含めてわかっているのだ。

「……飯、食いに行こうぜ。流石に腹減ったよ」

 沈黙に耐えられなくなった淵生の一言。その場の皆は首を縦に振る以外選択肢が無かった。

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