異世界召喚とかされたら絶対ビビる
テンポがぁぁ…話が進まぬぅぅ…
……………………あ、もうこれ始まってる感じ?
えーっと? 初めまして読者の皆様。逆波淵生だ。
誰かわからない? 前話読んでくれ。
忙しいならサクッと説明してやろう。
“なんか……光った”、以上だ。これはその後の話。
俺達がこれからどうなるかが分かるはずだ。
説明が雑? わからなくはないだろう?
んじゃあそういうことで1つ、よろしく頼む。
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人という生き物は、いや、全生物は想定外のことが起こると大抵反応が遅れる。その事態に対応しようとする思考が働かないからだろうか。
今回、光に飲み込まれたとある高校の生徒達は、今まさにそれを実感したところだろう。何せ、光が収まり目を開けると、周りの景色が変わっているのだ。
普段見慣れた教室の風景があら不思議、神秘的な装飾が目を引く白い壁、ステンドグラスのようなものから外の光が差し込み、生徒達や彼らを囲み跪いている法衣らしき服を着た人達を照らしているのだ。驚かないわけが無い。
例外として、
(これは……祭壇かな? 見たところ王宮とか神殿とかの儀式用の部屋か。祭司らしき人達もいるし、彼らが関わっているのは間違いないか。)
クラスメートが混乱しているのを後目に、現在の状況を冷静に分析する神依、
「皆落ち着いて! ひとかたまりに集まるんだ! 」
落ち着き払って皆に集団で動きやすいように指示する天哉、そして、
「うぉぉぉ……目にぃぃ……モロにきたぁぁぁ……」
光が目に直撃したのか仰向けに倒れ伏し、目を押さえて悶える淵生。
そうこうしているうちに、法衣集団の中でも一際豪奢な服を着た中年男性が歩み寄ってきた。
「急にお呼びしてしまい申し訳ございません、勇者様、そして御同胞方。そしてようこそ、“キスタリア”へ。私、名を“ハルド・スルーナ”と申します。突然のことでさぞ驚かれていることでしょう。しかし、我々にも事情があるのです。お茶の席を用意しております故、そこで私の話を聞いていただきたい。」
有無を言わさない勢いで話しかけてきたこの男性、ハルドは、そう言って優しそうな微笑みを湛えた。のだが、
「パイ投げじゃオラァ!!」
という淵生の掛け声と共に飛んできたパイを顔面に食らって後ろにすっ飛んでいった。急なパイには反応できなかったらしい。法衣集団が悲鳴を上げる。
その場にいた全員が唖然とする中、
「ふぅー、スッキリしたぜ。」
物凄い爽やかな笑顔で言った淵生の言葉が響いた。
そして間を置かず神依が淵生の顔面を地面に叩きつけた鈍い音も響いた。
余談だが、後にハルドは『アップルパイ、といいましたか。いやはや、なかなか美味でしたよ、あれ』と語ったとか。
その後怒涛の展開で放心していたクラスメート達の意識を戻し、埋まった淵生の頭と壁にめり込んだハルドを引き抜いた後、面々は応接間らしき部屋に通された。数メートルはありそうなテーブルが数十個、そのうちの一つに計36人の生徒達は席に着いた。上座にクラスカースト上位の天哉から座り、末席に話を聞く気がない淵生・神依の2人が座…ろうとしたが淵生は緋奈にひっぱられその隣に座らされた。巻き込まれた神依はその向かいに座らされた。
皆が座ったのを確認したハルドは話し始めたが、長いので要約する。
・この世界は“キスタリア”って言うよ
・この世界には“人間族”“魔族”“獣人族”“半神族”の4つの種族と“怪”って言う化物たちがいるよ
・人間族と魔族は昔っから宗教上の理由で対立が絶えないよ
・最近まで戦争は無かったけど、魔族達が何やら不穏な動きしてるっぽいよ
・ちょっとやばそうだから対策をしとこうって風潮が人間族の間で広まったよ
・そんな訳でこの国では神様の啓示に従うことにしたよ
・そしたら神様は「異世界から誰か召喚すれば? 」って言ったよ
・ってことで神様の力を借りて君たちを召喚したよ
・だから魔族との戦争に参加しやがれ勇者達
ということらしい。何人かは
(種族の命運を神頼みかよ)
とツッコミを入れようとしたが、神様の話になったあたりからそれはもう興奮した様子でまくし立てるハルドの姿を見てドン引きしてしまってそれどころではなかった。
ハルドの話が終わり、静寂が訪れて少々、誰かが叫んだ。
「ふざけんな!!なんでテメェらの都合で戦争なんぞに行かねえとならないんだよ!!俺達を元の世界に帰せ!!」
中々キレているこの言葉で他の皆様も反発しだした。
「そうだ、なんで俺達なんだ!!」
「私達が魔族と戦う理由なんて無いでしょう!!」
騒ぎ出すクラスの面々。ハルドが顔を顰めた。
「ふむ……帰せと言われましても、私達の力では無理ですな。我らが神“アルパ”様の力であなたがたをお呼びしましたので」
それを聞いて更にブチ切れる少年少女。中には泣き出した者もいる。収集がつかなくなるかという所で、実質リーダーの天哉が「皆聞いてくれ!!」と立ち上がって声を張り上げる。
「ハルドさんが出来ないって言ってるんだ、それを責めても仕方ないだろう? だったら戦うしかない。俺達に残された選択肢はそれしかないんだ! そうだろう? やるべき事をやるしかないんだよ。それに、事が終わったらもしかしたら神様が帰してくれるかもしれない、そうですよね、ハルドさん? 」
「……保証はしかねますが、アルパ様は寛大な御方です。我々を救った勇者達の願いとあらば無下にすることは無いでしょうな」
「よし、なら俺はやる。この世界の人達を救って帰してもらう。きっとやれるはずだ! 」
なんか舞い上がってる天哉の様子を見て、龍己が笑って天哉の肩に手を置く。
「ま、お前ならそういうだろうと思ったぜ。こんな事になったんだ、最後まで付き合うぜ」
続いて結夢が言う。
「それしか道はなさそうだものね。仕方ないし、私も最後まで付き合わせて頂戴? 」
そして緋奈は何も言わずともやる気が感じ取れる。
それを見た他のクラスメート達も、2人を除いて
「天哉達がやるなら、俺達も! 」「俺もやるぜ! 」「私もやるわ! 」「余も付き合ってやろう」
と好意的な反応が出てきた。それを見た天哉は「ありがとう、皆……」と呟いた。皆彼のカリスマに感化されたらしい。清々しいまでの手のひら返しである。
ハルドはその様子を見て安堵したような、しかし裏がありそうな顔をした。
しかし、沸き立つ皆の声を遮り2つの声音が聞こえた。
『あ、僕(俺)パスで』
皆が静まり返り、その声の主を見た。
そこには、机に突っ伏した神依と先程まで爆睡していた淵生がいた。見るからに不快だという顔をしたハルドが問う。
「理由をお聞きしても? 」
「俺はお前らが滅ぼうがどうなろうが知ったこっちゃねーんでな。そうでなくとも自分達の都合で俺らの向こうでの生活をガン無視して別世界に連れてくるような奴らの為に戦えるほど優しくはねーよ。つかてめぇらの力で何とかしろよ、何の関係もない人間巻き込むな」
「僕は単純に興味が無いからかな。会ってもいない人達を救いたいと思うほど義理堅くもないしね」
しかし、とハルドは続ける。
「あなた方はアルパ様に選ばれた勇者「それこそ関係ねーだろうが。んなもんはアルパ様とやらが勝手に言ってきたことだろう」アルパ様の言葉に間違いはない!!」
「そうキレんなってオッサン。そもそもアルパとかいう奴が信用出来んな。そいつ、今まさにこの状況を見て笑ってんだぜ? 何がそんなにおかしいのかわかんないがな。悪趣味なやつだ」
そんなのに仕えて何がいいんだかと嗤う淵生。ゲス顔で話しているのが非常に様になっている。
しかし、それを聞いたハルドは
「フン、貴様にアルパ様の崇高さはわかるまい。」
で済ませた。崇拝する神を貶され、己の信仰心も嘲られたというのに、である。大人の対応というやつだろうか。
淵生は愉快そうに笑う。
天哉は
「すいませんハルドさん、こいつはなんて言うか、万年反抗期みたいなものといいますか、とにかくひねくれた奴なんです。あまり気にしないでください」
と謝罪した。どうやらハルドも気にしないことにしたらしい。
スルーを決め込んでいた神依が口を開く。
「まあ皆がやるなら仕方ない、本当に仕方ない。天哉君、文句はわんさかあるけど僕も手伝うよ。そうすれば多分淵生もやることはやってくれるだろうし。」
「神依……本当にありがとう。よし、元の世界に帰るために、皆で力を合わせてこの世界の人達を救おう! 皆、頑張ろう!!」
クラスメート達から歓声が上がる。その様子を見て、完全にではないが安心したような笑みを浮かべるハルド。
ハルドの心配の種は独りごちる。
「なんかいつの間にか俺もやることになってるし……勘弁してくれ。どんだけ鍛えてもすぐ死にそうな奴らの面倒見るとか御免なんだが? 」
その顔が、先程までの愉快そうな顔でも、馬鹿にしている顔でもなく、ただ冷徹な無表情だったのを見たのは、神依と緋奈の2人だけだった。
観光には何時行けるのだろうかと心配になる凡人であった