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お詫び閑話 恋する乙女は投げられたい

「ねぇねぇ、ルーシェ。あの人達はなにをしているの?」


 先日私の主になったソフィアお嬢様がコテリと首を傾げる。その姿に癒やされながら視線をたどると、ローゼンベルク侯爵家に仕える騎士達が素手による戦闘の訓練をおこなっていた。


「あれは柔術の稽古ですね。なんでも、相手の力を利用して投げ飛ばしたりするそうですよ」

「相手の力を……ふわぁ」


 私達の見ている前で、小柄な騎士が大男をポーンと投げてしまった。そうして地面に背中を付いた相手にのし掛かって押さえ込む。

 それを眺めていると、お嬢様がとんでもないことを口にした。


「ソフィアにも出来るかな?」


 お嬢様が大変なモノに興味を持ってしまったぞと私は眉をひそめる。

 ご令嬢が護身術を学ぶことは珍しくない。だがそれは、もう少しオトナになってからだ。まだ年齢が二桁にも満たないソフィアお嬢様が護身術など、危なくて教えられるはずがない。


 そう思っていたのに――


「ねぇねぇシリルシリル、ソフィアにじゅうじゅつ? 教えて」

「かしこまりました」

「かしこまるんですか!?」


 廊下で出くわしたシリルくんは二つ返事で承諾してしまった。ソフィアお嬢様と同い年のはずなのに、なぜかとんでもなく大人びた私の上司の言葉とは思えない。


「ちょ、ちょっと、シリルくん、こっちへ来てください」


 シリルくんの腕を掴んで、お嬢様から少し離れたところへと引っ張っていく。


「シリルくん、お嬢様に護身術を教えるつもりですか?」

「ルーシェ、公私の私ではくん付けでかまいませんが、お嬢様の前でその態度はいけません」

「すみません――ではなく、いえ、それは直しますが、そうではなく。ソフィアお嬢様に柔術を教えるなんてなにを考えているんですか、危ないですよ」

「私が見るので問題はありません」

「余計心配なんですが……」

「それに、こういうこともあろうかと、既に父の許可は取ってあります」

「こういうことってなんですか……」


 まったくもって意味が分かりません。分かりませんが、シリルくんのお父さんは、ご当主様の専属執事です。その彼が許可を出したのなら、本当に問題はないということなのでしょう――


「……へ?」


 パシンと音がしたかと思ったら、視界がクルリとひっくり返っていました。そして次の瞬間、立っていたはずの私がなぜか背中から落ちていきます。

 そして――ぽふんと、緩やかに落下が止まりました。


「いかがですか? 特に危なくはないでしょう?」


 シリルくんが私の顔を覗き込んでいます。一体なにを言っているのかと口にする寸前、私は仰向けに寝かされていることに気付きました。

 いえ、正確にはお姫様抱っこされています。


 ……あ、そっか。私は投げられたんですね。でも、結構な高さを落ちた気がするんですが……もしかして、相当高く投げられたんでしょうか?


 というか、シリルくん、男のくせにまつげがむちゃくちゃ長いですね。顔立ちも整っていますし、手足は長くて身体も子供とは思えないくらいに引き締まっています。

 私より十歳近く年下ですが……この歳でソフィアお嬢様の専属ですし、よくよく考えると超有望株ですよね。家を立て直す意味でも――ひぅっ。


 私は身を震わせた。

 視界の隅に映ったソフィアお嬢様が笑っていたんです。いえ、笑っているというと伝わらないと思いますが、なんというか笑っているのに物凄く怖く感じたんです。

 私には分かります、アレは嫉妬する乙女の顔です。


「シ、シリルさん、降ろしてください!」

「おや、そんなに慌てずとも、ルーシェはとても軽いですよ? それとも、お姫様抱っこをされるというシチュエーションに恥ずかしくなりましたか?」

「そ、そういうことを言っている訳じゃありませんからっ!」


 というか、お嬢様、お嬢様からなんかヤバイオーラが出てますって! ほら後ろ、ヤバイですよ、刺されますよっ、なんで気付かないんですか、ばかーっ!


 ……その後、ソフィアお嬢様にも同じ体験をさせてあげてくださいと誘導することでお嬢様の機嫌を改善、なんとか事無きを得ることが出来ました。

 お嬢様だけは怒らせてはいけませんね。

 というかシリルくん、あそこまで露骨な好意にどうして気付かないんでしょうね……?

 

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