8 もうひとつのギルドと生産職
晩御飯を食べ、お風呂を済ませて再ログイン。
みんなは既にログインしているようだ。魔法のスキル上げ中かな?
私はもう少しで服が完成するし、生産の続きでもしよう。とりあえず街に戻る。
街に着いたら冒険者ギルドに直行し、今日の狩りの成果を売りつける。
<解体>や<採取>のおかげで少しだけ品質が上がっている。おかげで買い取り金額が結構上がった。
「E-」から「E」になっただけで、買取価格ざっと1.5倍...最初から取っておけば良かったかな...?
そこそこまとまったお金になったので、布を買う...と、その前に冒険者ギルドの隣に建っている「生産商業ギルド」に向かう。
生産商業ギルドは商人系の転職や不動産の紹介、各種スペースの使用登録などを取り扱っている。
そして私に今一番関係があるのが「プレイヤー用バザースペース」、通称フリマの使用登録だ。
今のところお金に困ってはいないが、これから先間違いなく必要になってくるはずだ。家も欲しいし、広い畑も欲しいし、なにより現実じゃ着られないような色々な服も着たい。
生産商業ギルドの方は冒険者ギルドと違って、簡易登録は出来ないようだ。諦めて受付で登録しよう。
ゲーム内の季節的に過ごしやすい気温だからか、扉は開けっ放しで固定されている。中に入ると、高い天井と左側に受付カウンター。右側は喫茶スペースになっているようで、淹れたてのコーヒーのような匂いがする。幸い今はまだ混雑していないようだ。
受付に行くと、奥から男の人が小走りで近づいてくる。受付が男とは、なんとも珍しい。
「ようこそいらっしゃいませ、お嬢様。ご用件を承ります」
「プレイヤー用バザースペースの使用登録を行いたいのですが」
「かしこまりました。 ...では、こちらの用紙に必要事項をご記入くださいますようお願い申し上げます」
「分かりました」
やたら丁寧な口調の受付に用紙を貰い、必要事項を書く。
えっと? 名前と、職業と、希望する場所と、売りたいもの...服だけでいいかな? <錬成>で作れるものとかまだよく分かってないし、とりあえずは服だけでいいかな? 再登録は二度手間になるけど、間違いがなくて済むし。
...いや、ダメもとで「<錬成>による産物」って書いておこう。案外登録通ったりしないかな?
「お願いします」
「確認いたします。 ...はい、問題ございません。プレイヤー用バザースペース「C-3」地区の使用申請を承りました」
「もう使っても大丈夫ですか?」
「はい、問題ございません。...スペース使用許可がギルドカードに付与されております。長期間使われていないことが確認された場合、こちらは自動的に失効しますのでご注意ください。
またスペース使用を取りやめる際は、ギルドカードからいつでも許可の取り消しを行えますので、わざわざギルドまでご足労頂く必要はございません」
「なるほど、ご丁寧にありがとうございました」
「いえいえ、それではまたのお越しをお待ちしております」
バカ丁寧なお兄さんに見送られ、ギルドを出る。隣の受付嬢さんの話が気になって途中聞いてなかったけど、そこまで問題ないだろう。
ちなみに隣のお姉さん受付嬢はめっちゃため口だった。きっと、たまたまバカ丁寧なお兄さんに当たったのだろう。
昨日寄った呉服屋で布、糸、ボタンを買い込み、余ったお金でちょっと高いレース生地も買っちゃう。できたワンピースが思いのほかシンプルすぎたから、フリルレースでも縫い付けて飾ろうかな?
フリマの自分のスペースに行く前に、一度宿屋に寄って部屋を取る。
さっき買った布でちょちょいと手直しし、30分ほどかけて自分の服一式を完成させた。そして着替える。
<R> 薄手の黒ローブ 製作者:マリカード
防水性の高い布を使って丁寧に縫われた黒いローブ。
黒い牙がボタンにあしらわれており、物理防御に少しだけ恩恵を得られる。
濡れにくく汚れが付きにくい。
<R> 見習い魔女の帽子 製作者:マリカード
防水性の高い布を使って丁寧に縫われた魔女風の黒い帽子。
防御性は低いが、濡れにくく汚れが付きにくい。
<R> フリル付き白ワンピース 製作者:マリカード
吸湿性の高い布を使っており、肌触りがいいワンピース。
腰から下に黒いレース生地でフリルが層状に縫い付けてある。
<R> 薄手の黒ケープ 製作者:マリカード
防水性の高い布を使って丁寧に縫われた黒いケープ。
白い布で縁取りされており、フード付き。
<HN> オーバーニーソックス
太もも半ばまでの長さの黒い靴下。
伸縮性に優れた素材ではあるが、耐久力も高く破れにくい。
<--> 古い心の首飾り
[鏡の精霊]ミラに渡された銀色のハートを象った首飾り。
身に着けるとなんだか温かい気持ちになってくる。
古い魔力の胎動を感じる...?
と、こんな感じになった。<服飾>のレベルが上がったからなのか、もしくはちょくちょく手直ししたからなのか、服自体のレア度が上がっている。
オーバーニーソは呉服屋で売っていたものを布と一緒に買ってきた。布代の倍くらいの価格だったけれど、今から作る時間もないし妥協した。
そしてミラに投げられたネックレスがいい感じに怪しい。可愛らしいハートの枠が2層になっていて、それぞれがくるくる回る。二重丸のハート版みたいな感じ。
レア度が確認できないのはスキルのレベルが低いからなのか、そもそもレア度という概念がないアイテムなのか...これは後々かな?
身に着けて確認すると、見た目はカンペキ魔女っ子だ。「こんな服作れますよ!」という宣伝と目安にはなるだろう。まだ肝心の売り物が出来ていないので、今日から開店とはいかないのが残念だけど。
とりあえず自分の割り当てられたスペースを見に行くことにした。魔女服で練り歩いて店の宣伝をするというサブミッションもある。むしろこっちがメインなのでは?
新しい魔女服で街を練り歩く。呉服屋さんに寄って、買った布でこんなん作りましたよアピも欠かさない。
なんだかいつもより視線を感じるのは気のせい...ではないだろうね、それが目的なところもあるし。
私、フリマで店だしますよアピも欠かさない。服作れるんだぜアピも欠かさない。
アピールを振りまきながらフリマスペースに到着する。
初日に比べてそこそこ賑わっているようだ。埋まっているスペースは全体の半分くらいかな?
自分の振り分けスペースは「C-3」。フリマスペースでは大通りから見て奥の方だ。もちろん人通りも少なめ。...ハズレ引いたかな?
どうやら私のスペースの両サイドはもう埋まっているようで、既に何かを準備していた。
「ん? よう、お客さんかい?」
「いえ、私も生産でして。お隣に振り分けられましたマリカードです。よろしく」
「おぉ、お仲間だったか! えらい別嬪なお嬢ちゃんだなぁ... 俺ぁ木工師の義太夫ってんだ! ま、同じ生産どうし、仲良くやろうや」
なんというか江戸っ子感あふれる人だ。こういう人って大体グレンみたいなごつい見た目をしているんだろうけど、この人は見た目がさわやかエルフだ。違和感がすごい。名前も義太夫だし。
「んで嬢ちゃんは何売るんだ? 俺ぁそこにある通り、木工品だが」
「服を売ろうと思いまして」
「お、服か! 良いとこ目ェつけたなぁ。鎧とか武器出してるとこはたくさんあるんだが、普段着を売る奴はなかなかいねぇからな。
実際バザーでも売ってるやつぁいなかったはずだ」
「そうなんですか? ラッキーですね」
「で? 今日から売りに出すのか?」
「いえ、まだ商品が揃ってなくて、今日は下見でして」
「おぉ、そうか...できりゃ一着売ってほしいところだったんだがなぁ」
「Tシャツでよければありますよ?」
「おぉマジかよ! したら、代金代わりにソイツでどうだ?」
そう言うと義太夫は商品スペースにある木の机といすを指さす。
<目利き>を使うまでもない。これは釣り合ってないぞ...!
「えっと、これじゃ私、丸儲けなんですが...」
「なぁに、いいってことよ! コイツ作って気づいたんだが、誰も家とか持ってない現状、一体だれが机やら椅子やらを買うのかってな。
ま、こっちも皮算用してんのさ。こんだけ別嬪なお嬢ちゃんが魔女っ子の格好してるんだ、見に来る客が増えるはずだぁな」
「それでもちょっともらいすぎな気も」
「その話、僕も一枚かませてよ」
義太夫と話していたら、逆側から別の人に声をかけられる。一人称は「僕」だけど、赤く長い髪を後ろでばっちり縛った、ポニテの小柄な女の子だ。
「話は聞いてたよ。僕は鍛治師のカーネル。Tシャツ僕にも売ってもらえるかい? 出来れば長袖」
「マリカードです。長袖のTシャツは構いませんが...」
「良かったぁ! 鍛治やってると暑くてさ、正直堪えてたんだよね」
私のスペースの隣、義太夫とは逆のそのスペースに店を構えた彼女は鍛治師のようだ。
よく見ると小さな...といってもそこそこ大きな炉が設置してある。
「それで、僕からの対価なんだけど、儲け話ってのはどうだい?」
「儲け話?」
「そう、儲け話。これも皮算用でしかないんだけどね、僕らで協力しないかい?
僕は鎧を作れるけど、鎧の下に着る服なんかは作れない。包丁の刃は作れるけど、木でできた柄は作れないんだ」
「なるほど」
「おー、そりゃ俺としてはめっちゃくちゃ助かるな」
「あぁ、僕らに付きっきりじゃなくていいさ。そうだな...「ここで売り物をする時に、僕らの間で融通しあう」というのはどうだろう?」
「それくらいならお安い御用です。私も得るものがありそうです」
「おう! 俺も乗った!」
下見程度のつもりだったけど、良い感じに斜め上の結果を出せたようだ。お隣関係うまくいってよかった。
二人に作ってあったTシャツを渡す。実はクロエ、グレン、ショーイチの丈に合わせたシャツをいつか渡そうと思って作ってあったのだ。
義太夫は細身さわやかエルフなのでショーイチ用を、カーネルは小柄女子なのでクロエ用をそれぞれ渡す。
ただ流石に長袖は作ってなかったので、その場で仕上げる。型もサイズも何となく把握している。
二人には、今度良い感じの服をコーディネートしよう。
「赤毛の嬢ちゃん、これくらいの大きさの三角形の刃って作れるか? こう、斧みてぇな、なんていうんだっけか」
「もしかしてハルバードでも作ろうとしてるのかい?」
「おう! それだそれ! この前南の森を歩いてたらよぉ、なかなか堅い木ィ見つけてよ。これなら槍くれぇなら軽々こなすはずだ。だが、事によるともっと先っちょ重くてもイケるかもしれねぇ」
「だからハルバードね。分かった、任せてよ」
私がチクチクやってる間に話がちょっと進んだようだ。
今日はこのままチクチクと商品の生産を進めて、良い感じのタイミングでログアウトしようっと。
※
「お疲れ様です、マリカード。未読の告知が一件、「キャンペーン開催について」があります。」
「見せて、アイちゃん」
いつものログイン画面。今日は初めてサポートAIのアイちゃんに呼び止められた。何やらキャンペーンがあるらしい。2/20の土曜日にゲームが開始して、今日が二日目の2/21だ。明日からキャンペーンが行われるようだ。
▽「見習いを卒業しよう」キャンペーン開催について
2/22 15時~2/26 未定
・ギルドクエストの報酬増加
・東の平原魔物ポップ数増加
という事らしい。
明日から色々売ろうと思ってたんだけど、これはレベル上げした方がいいというお告げか...?
明日の事は明日考えよう! もう寝る!
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<マリカード> ヒューマン ♀ Lv8
職業:鏡魔術師 SP:14
▼装備
<R> 薄手の黒ローブ
<R> 見習い魔女の帽子
<R> フリル付き白ワンピース
<R> 薄手の黒ケープ
<HN>オーバーニーソックス
<-->古い心の首飾り
▽有効スキル
▽魔法系スキル
水魔道 Lv10 鏡魔術 Lv10
▽生産系スキル
服飾 Lv7 解体 Lv3 錬成 Lv5
▽便利系スキル
目利き Lv11 地図 Lv6
▽パッシブスキル
魔攻微上昇 Lv6 魔防微上昇 Lv6 物防微上昇 Lv6 器用微上昇 Lv5 敏捷微上昇 Lv5
▽称号
【合鏡の邂逅】
【Fランク冒険者】
【悠久の魔女の弟子】
【魔女見習い】
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