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63 闘技大会-5 反響と後日談

闘技大会編はこれで終わり。

ちょっとだけ休憩をいただいて、次回からはいつも通り3日ごとの更新に戻ります。


次回投稿 未定(早くても7日) 20時









暖かい日差しの差し込む昼下がりのミラーウィッチ。いつものように...いや、いつも以上に沢山の人で賑わうその店内と打って変わって、二階のリビングではゆったりとした雰囲気の集会が開かれていた。



「にしても、無事終わって良かったよ...」



もはや定位置と化した窓に一番近い椅子に行儀よく座り、テーブルに置かれたチェス盤とにらめっこしながら悩むショーイチ。

彼がどこかから買ってきたらしいお茶がほのかに香る。この匂いは...椿かな?



「もうちょっとだったのにゃ...悔やまれるにゃ...」


「仕方ねぇだろ、次リベンジしてやろうぜ」


「...にゃ、次はボコすのにゃ」



そんな椿茶の匂いの中で、最後の最後で<獣化(ビーストライズ)>の効果が切れて逆転負けを喫し、ほんの少し落ち込むクロエ。次は勝つと闘志に燃えている。

そんなクロエを、グレンがクッキーを齧りながら軽く慰めている。闘技大会当日は仕事の都合でログインできなかったらしい。


闘技大会が無事に終わって一夜明け、いつもの日常が戻ってきた。変わったことといえば...これが闘技大会効果なのか分からないけれど、一階のミラーウィッチはいつもより客の入りが多かった。それくらいだ。



「んで、反響とかどうなんだ?」


「結構すごいよ。聞くかい?」


「簡潔に頼むにゃ」


「分かった。じゃあ大きなところで3つだけ...まず1つ目、このゲームで行うPvPの楽しさに目覚めた人がかなり多かったみたいで、丁度空いてたアイネールのプレイヤー東区に有志がお金出して闘技場を作るんだってさ」


「おっ、それは俺らにとっちゃ朗報だな」



今回の闘技大会は、あくまでも「第二陣として入ってきた新人のために、色んなスキルを見せよう」というコンセプトだった。つまり第二陣は見ているだけだった。それでも概ね好評で、不満点はほとんど私の耳には入ってきていない。


"俺たち第二陣も戦ってみたい"、"PvPをいつでも気軽にできる場所は欲しい"...そんな意見が闘技大会後にとても多く掲示板に寄せられ、それを見た数人のプレイヤーが「計画も建築も運営も全部やる。出資してくれるなら後のことは任せてほしい」と奮起したのが事のあらましだ。



「なんなら私も出資したからね。使用料は無料らしいし、どんどん使ってほしい」


「お大臣様! 助かるにゃー」



この「小闘技場」の建設を計画している人は、闘技大会が終わった後すぐにアイネールに店を構えてる財政的に有力なプレイヤーに出資を募ったらしく、当然ミラーウィッチを経営している私のところにも話が来た。

「小闘技場」の会計や運営も話を聞く限りでは信頼できそうだったし、お金(セル)も今のところ有り余っていたからある程度出資させてもらった。見返りは「その闘技場に小さな屋台を出せること」「闘技場の壁に広告を出せること」、そして生産職ならではの悩みである「闘技場利用客によるエリアボス討伐への随行優先」。私も何回か生産職の皆を連れてエリアボスを攻略しているけれど、それを見返りとして提示したのはかなり面白い。出資する側の生産職の人も助かるだろうし。


ちなみに私は見返りの受け取りを辞退した。私にとっては美味しくない上に、一番の見返りはプレイヤーが強くなることだからね。<友鏡喚(ミラーコール)>で呼び出せれば、私自身の戦力が上がったといっても過言ではないし。



「次は?」


「2つ目、ローさんとキルシェさんの決勝戦に触発された多くの人が、道場通いとダンジョン探索に力を入れ始めたね」


「あー...」



納得。あの決勝戦はかなりいい戦いだった。

[拳士]のローさんは言わずもがな、[刀士]のキルシェさんもかなりの切れ者だった。その手に持つダンジョンボスのレアドロップ武器「風鉄シリーズ」の刀を存分に使いこなした<刀術>は、沢山の観客に「俺も使いてぇ」と思わせたことだろう。



「俺は見てないんだが、そんな影響出るくらい良い試合だったのか?」


「凄くよかったよ。なんというか、決勝戦に恥じぬ戦いだったというか...」


「うん。いい感じに拮抗してたね。

その前の3位決定戦がアレだったから尚更」


「にゃ...」



闘技大会の本戦を見られなかったグレンに、ショーイチが決勝戦の様子を軽く説明する。

臨場感あふれるその語り口調に、昨日の情景が蘇ってきた。確か...









長かった闘技大会もついに決勝戦。観客は当然のごとく沸き立ち、コロシアム外で屋台を出している生産職のプレイヤーもディスプレイにかじりつくように見ていた。


そんなマギラトラのサービスが開始して数か月。過去一番の注目を集めている闘技場に立つのは、数々の名試合を繰り広げてきた2人のプレイヤーだ。


圧倒的な防御力を持つサイの獣人ライナスを力で打倒し、攻略最前線を突っ走る天才双剣士イザムを技で沈め、ゲーム内最速といわれる軽業使いの黒猫クロエを正面から叩き伏せた[拳士]ロー。

そんなローと並び立つのは、ダンジョン攻略ではトップといわれる探索者PTのリーダー。長い茶髪を簡単に後頭部で結んだポニーテールを靡かせる、中性的な顔立ちの人間の[刀士]キルシェ。


互いに交わす言葉はなく、目を閉じ集中するローと抜き身の刀身を目でなぞるキルシェ。

そんな二人の様子を確認し、準備が出来ていると判断した進行役のお姉さんは、これで最後となる合図を高らかに宣言する。



「決勝戦、[拳士]ロー vs [刀士]キルシェ...試合開始っ!!」



試合が始まると、二人は定石通り(スタンス)系の技を発動する。ローは彼の代名詞ともなっている<拳術>の<構拳(ファイトスタンス)>、そして。



「<居合>」



キルシェは<刀術>の(スタンス)系である<居合>を発動する。納刀した状態で中腰に構え、いつでも抜刀しカウンターできる体勢になると、敵の動きを一切見逃さないような鋭い眼光でローを見据える。



「やりづれぇ...」



ここまでのキルシェの戦いを観戦していたプレイヤーが全員理解したキルシェの戦闘スタイル、カウンター。ローが"カウンターもできる万能型"だとしたら、キルシェは本当に"純粋なカウンター型"なのだ。

そんな相手がいつでもカウンターできるような体勢では、とてもじゃないが手が出ない。それでも、これだけの観客が一様に見守っているのだ。いたずらに時間をかけるのはよろしくない。



「っし...」



やるしかないと覚悟を決めたローは軽く息を吐き、素早くキルシェのカウンター圏内に踏み込むと



「おらぁッ!」



様子見のように胴狙いの右ストレートを打ち込みにかかる。しかしキルシェも黙って食らうわけもなく



「ふっ、<返刀>」



ローの拳を素早い半身の摺り足で軽く避けると、打ち込んできた右腕に沿うようにして、首を狙った抜刀攻撃がローに迫る。



「<流拳(フローフィスト)>...!」



刀身がローの首に達する前に<流拳(フローフィスト)>を発動し、打ち込んだ右腕で刀の根元をそのままパリィ。空いたキルシェの腹部を左の拳で貫きにかかる。


どう移動しても避けきれないタイミングで入った<返刀>(カウンター)に対する<流拳>(カウンター)。最初の読み合いは勝ったと確信したその時、当たるはずだった左拳に手ごたえはなく、まるでそこには誰もいなかったとでもいうようにキルシェの姿が消え去った。瞬間



「<残刀>ッ!」



空を切った左拳をあざ笑うかのように、ローの背後からキルシェがスキルを発動した声が聞こえた。<刀術>のひとつ、敵の背後に瞬間移動して攻撃するカウンター技の<残刀>だ。


ここまでキルシェの戦いをしっかり観戦していたローは舌打ちしながらも、<流拳(フローフィスト)>によるパリィで浮いていた右腕を背中側に急いで移動させ、襲い掛かってきた刀身をガントレットで迎撃する。


ギィン...と金属の衝突音が鋭く闘技場に反響した。



「事前情報がなければ死んでたかもな...」


「でも、死ななかったじゃないですか」









満を持して始まった決勝戦はカウンターメインの二人の戦いとなったわけだけど、最初から最後まで技の応酬のような戦いだった。ちゃんと扱えればとんでもなく強いんだろうことはいやでも伝わったし、そういうスキルの使い方を知るひとつの切っ掛けになればいいと思って開いた闘技大会だ。そういう意味では大成功だろうね。


ちなみに優勝はローさんだった。互角の戦いだったんだけど、度重なる拳と刀の激突に刀自身が耐え切れなかったらしく、ダンジョンボスのレアドロップである「風鉄シリーズ」の刀がぽっきり折れた。

結果として<刀術>が一切使えなくなり、キルシェさんは降参。優勝が決まった。


その前にあった3位決定戦の「クロエ vs 難波さん」は...戦う本人の難波さんすら"魔術師殺し"と認めたクロエが相手ではまともに戦えるはずもなく、試合開始数秒で決着がついた。観客からは少しブーイングもあったけれど、その前に何度も見たクロエの戦い方や"魔術師殺し"というイメージがしっくり来たプレイヤーが多かったのか、そこまで大きな騒ぎにはならなかった。



「マジか...やっぱ仕事終わった後に少しでも見に来るべきだったか...」


「仕方ないにゃろ、次は絶対見に来るのにゃ」


「...それもそうだな!」



さっきグレンに言われたような慰め方をするクロエに、苦笑しながら返すグレン。

もし次回開催も主催するのなら、その時はPT戦にして私たちも出場したいところだね。今回は個人戦だったから、どうしてもタンク職の盾使いの人が目立てなかったし。



「それで最後は?」


「3つ目は、マリの人気がうなぎのぼり」


「...なんて?」


「えっと...」



きっと聞き間違いだろう。仮に誰かが人気になるとしても、それは声だけ垂れ流していた私じゃなくて、実際に闘技場で戦っていたプレイヤーが注目されるはずだもの。

ほら、丁度目の前にクロエっていう適役がいるわけだし...



「後から「闘技大会の感想」みたいな掲示板見たんだけどさ、僕らちょっと勘違いしてたみたい」


「うん?」


「実況解説は"声だけ"だと思ってたんだけど、映像も見れたらしいね」


「...うん?」


「つまり...試合を見て驚いた顔とか、タコ焼きを頬張って微笑む顔とか、解説内容に悩む姿とか...」


「ばっちり映ってたにゃ」



掲示板には「試合も熱くてかなり面白かったな!」「試合()?」「一番熱かったのは魔女っ子様の色んなご尊顔がしっかり拝めたことだろ」「あー納得」みたいな書き込みがかなり多かったらしい。


ショーイチの淹れてくれた椿茶をゆっくりと口に含み、コクリと嚥下する。別に人気者になったり注目されたりするのは慣れてるからいいんだけど、それよりも...気を抜いた表情を大勢にみられた方がダメージが...



「この話はやめよう...」


「そうだね...」



今日ミラーウィッチに人が多かったのって、もしかしてそういう事なの? こういう"点と点が線でつながる"みたいな閃きって、大体あってるんだよね...



「あっ、もう1つ。結構重要なのがあったよ」


「4つ目にゃね」


「4つ目だけど...闘技大会終わったあと、本戦出場したカトリ丸さんとかローさん、イザム君とかが仲良くなったらしくてさ」



闘技大会中は本戦出場プレイヤーの席が特別に別枠で確保されていたからね。席も近かっただろうし、観戦中に色々話したりしたのだろう。

ゲームへの熱意はみんな高いだろうし、共通の話題も色々あるだろうからね。



「そんなトップ組が意気投合して、6人PT(フルパーティ)組んでレンヴァイツ南のエリアボスに挑んだんだってさ」


「間違いなく現プレイヤーで組める最高クラスのパーティだな」


「結果どうなったにゃ?」


「惨敗。HPゲージを1割も削れなかったって。多分だけど、ここから先に進むにはさらなる上位転職が必要だね」



今の私のレベルが35。プレイヤーの中で一番高い人でも38になったくらいだろうか?

次の転職が確か45だったから...まだまだ先の話になりそうかな。












 ▽刀術(1次スキル)

  Lv1 <居合> 【構】居合の構え 抜刀後の初撃威力大上昇、二撃目以降の威力が比例的に低下

  Lv5 <返刀> 切り返しのカウンター。カウンター成功で威力アップ

  Lv10 <速刀> 目にも止まらぬ素早い一撃。納刀までがセット

  Lv15 <残刀> 発動まで移動不可の詠唱を行う。詠唱時間中に攻撃されると敵の背後に瞬間移動し、斬撃を行う。連続使用不可。1度使うと60秒<残刀>は使えない。威力は低め。

  Lv20 ??

  Lv25 ??

  Lv30 ??













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