61 闘技大会-3 猫と炎 / 一位と商人
闘技大会編は全6回予定。その4。
実況解説なのに実況しないとは...
次回投稿 2019/10/31 20時
▽▲▽ 2回戦 第2試合 ▽▲▽
コロシアムは異様な熱気に包まれていた。アイドルプレイヤーとして知られる"黒猫っ子"ことクロエと"爆熱幼女"ことエシリアが躍動する戦いだということもさることながら、コロシアムを包んでいたのは文字通り「熱気」だった。
観客はその熱気に当てられて汗だくになり、それでも目の前の大迫力の戦いから目が離せないでいた。
「<炸矢>!<焔柱>!...<轟炎>ッ!!」
爆発、爆発、爆発。まるで城攻めでもしているかのようなエシリアの高威力でド派手な<炎熱魔術>。炎の柱がフィールドのあちこちで立ち上り、まるで龍がうねるように暴れまわる。
そんな炎の中心で<[炎熱の魔女]の振舞>による激しく燃え盛る炎を身に纏うような派手なエフェクトを振りまくエシリアは、まるで闘技場に渦巻く大量の炎を自在に操る高名な魔女のように見える。まだ見習いだというのにこれだけ派手に炎を自在に使えるというのも、もしかすると[魔女]だからこそなのかな?
「にゃ、にゃにゃっ」
対するクロエはというと、そんな炎に満ちたフィールドでも一撃として被弾せず、飛んでくる<炎熱魔術>を悠々と素早く、余裕をもって避けている。
お返しとばかりに懐から取り出した投げナイフを投擲し、牽制する。猫のように柔軟な身体の使い方をしながらアクロバティックに空中を自在に動きまわる姿に、観客の大多数はもう彼女はただ可愛いだけの猫獣人ではないと気づいたことだろう。
「なんでっ、当たらないのよっ!」
「なんでも何もないにゃ。当たらないから当たらないのにゃ」
「意味わかんないわよ! <熱線>ッ!」
白く輝く一直線のレーザーのように杖の先から伸びる魔法がクロエに襲い掛かるも、クロエは背面飛びのような美しいフォームで軽く避けていく。
エシリアの激しく燃え盛る紅蓮の炎を纏うような煌びやかなエフェクトとは違い、クロエは柔らかく優しいオレンジ色の火のエフェクトを纏っている。その場にいるだけでスリップダメージを受けそうなまるで火口の中のように燃え滾るフィールドの中でも、クロエが何不自由なく行動できる理由がそのエフェクトにある。
【精霊】と剣系スキルを合成することで手に入る<精霊剣術>。最初は<精霊纏>しか使えないという使い勝手の悪いスキルだったが、スキルレベルが上がることで新たな技能が解放されていた。
その名も<精霊気>。武器に精霊の力を纏う<精霊纏>とは違い、自分自身に精霊の力を纏う技能。水の中では息が長く続くようになるし、山では防御力が上がる。森の中では風のように速く走れるようになるし、火の中では...熱をあまり感じなくなる。
正直、あまり使われない技能だ。水も火も、今のところ風の速さも必要ないし、唯一使いそうな土の防御力ですら使わない。なぜならわざわざ不人気エリアの北の山に行かないから。
元々ここは東の平原で、平原といえば風の精霊が多く存在する場所だ。だけど今は火の精霊がかなり集まってきていて活発に動いている。エシリアによるド派手な炎の魔法に引き寄せられたのだろう。
精霊系のスキルの共通点は"周囲の精霊の力を借りる"ということ。最初は風の精霊の手助けによって素早く動いていたのに、途中からエシリアの炎によって寄ってきた精霊によってクロエは熱への耐性を得ていた。炎の使い過ぎによって相手が炎の耐性を得ちゃうなんて、ちょっと皮肉だ。
「大技ばっかりじゃ、そりゃ当たらないにゃ。見てから回避余裕にゃよ。んで、ここからはもっと当たらないのにゃ...<速昇>にゃ」
「~~ッ!!」
顔を真っ赤にしながら地面をげしげし踏んづけつつ、炎の魔術をひたすらに当てようと連発するエシリア。
燃え滾る熱気にあふれ、炎の魔術が飛び交う闘技場を涼しい顔をしながらひょいひょいと回避するクロエ。
「当たらなければどうということはないのにゃ」
「それで本当に当たらないなんて反則よ! <爆炎>っ!」
トンデモ理論を地で行くのがクロエのおかしなところ。観客席から戦いを食い入るように見ている獣人プレイヤーが震え上がるほどの、到底誰にも真似できないようなプレイングも軽くこなしてしまえるのは...これまで色んなゲームをやってきたけれど、そのどれをとってもスピード全振りで同じようなスタイルで戦ってきたクロエだから出来るような、彼女だからこその高いレベルのプレイヤースキルが為せる業だろう。
「歴が違うのにゃ」
※
「僕とマリはクロエと同じパーティなんだけど、実際に彼女の戦っているところをじっくり観戦してみると...なんというか、かなり理不尽な戦法だよね」
「攻撃しても素早く避けるし、遠くから一瞬で距離を詰めて攻撃されたと思ったら、反撃する頃にはすでに遠くに行っちゃってる...うん、理不尽だね」
私とショーイチはタコ焼きを頬張りながら緩い雰囲気で実況解説する。もっちゃもっちゃと咀嚼音が入ってしまっているかもしれないけれど、それはもうそういうものだと思って聞いてほしい。ASMR的な。
ちなみに、机の上にはゲストとして来てくれた難波さんが近くの屋台で買ってきてくれた色々な食べ物がずらりと並んでいる。バラエティ豊かな、それこそ現実で見たことないような面白食品がたくさんあるのは分かるんだけど...そんなラインナップに当然のように想像を絶する苦みと噂の"ポーションの原液"が混ざっているのはイタズラか何かかな? そんな見え見えの罠、引っかからないよ。
「ちゅーか...僕らみたいな魔法系スキルをメインに使ってるプレイヤーにとって、クロエはんみたいな敏捷重視キャラって大体の場合は天敵よね」
「そうだね。私は鏡の反射でなんとか軌道を変えたり出来るから、クロエみたいな相手でもギリギリ戦える...と思うんだけど、現時点で使える魔法系スキルには相手にホーミングしてくれる技とかないし、かなり分が悪いよね」
「せやねん。いくら獣人プレイヤーが"魔法に弱い"ちゅーても、それこそ『当たらなけりゃ意味がない』ねんなぁ」
そう、獣人は魔法に弱いのだ。ゲーム開始数日で行われた検証では、同じスキル構成、同じレベルで防具着用なしの各種族のプレイヤーに同じ魔法を当てたところ、実に人間の2倍のダメージが獣人に与えられていた。ちなみに魔人は人間よりも被ダメージが少なく、森人は人間と同じくらいだった。魔物は知らない。
「僕みたいな弓系でも同じことが言えそうだね。広範囲にダメージを与える技能なら大体の魔法系1次スキルのLv30で覚えられるはずだけど、エシリアさんの<炎熱魔術>では...」
「<燎焔波>っていう魔法ならこの前見たよ。炎の津波で前方の敵を巻き込む大規模な攻撃魔法なんだけど、発動前に大きな魔法陣が杖の先に出るんだよ。発動前にほんのちょっと詠唱による待ち時間があるっぽいし、多分クロエなら素早く察知して後ろに回って事なきを得ると思う」
この前エシリアさんと一緒に行った北のエリアボス討伐の時の情景を思い出す。<燎焔波>はエシリアさんの前方にしか炎が流れず、後ろにいた私たちは熱しか感じていなかった。
クロエはまだエシリアさんがその魔法を使うところは見たことない...いや、私が<友鏡喚>で呼び出したエシリアさんが使ったのを見てたっけ。
忘れてるかもしれないけど...少なくとも初見じゃない魔法だし、しれっと対処してもおかしくない。
「なるほどね...いくらエシリアさんが【魔女】としてのスキルを持っていたとしても、そもそも<炎熱魔術>を含めた現時点の魔法系スキル自体、敏捷系キャラと相性悪いって感じかな」
「んー、そもそも敏捷系ビルドが魔術師とかの遠距離系ビルドに対してかなり有利っちゅーか...もちろん獣人だから魔法一撃で大きく削れるんやけどね。【魔女】のスキルについて、その辺はマリはんどうなん?」
「私自身あまり魔女系スキルには詳しくないんだけど、知識だけは師匠に聞いてるよ。確か...」
私が結局教えてもらえなかった<魔女魔術>。何回か「教えて」って言ってみたんだけど、毎回やんわりと別の話題に挿げ替えられてるんだよね。クリスの事だし、きっと何か事情があるんだろうけど...
代わりに、覚えられる技能についてはちゃんと聞いておいた。
Lv1 <充魔> 次に使う魔法系スキルの消費SPと威力を2倍。
Lv10 <魔視> 空間に漂う魔力を視る。
Lv20 <魔譲> 触れ合った相手にMPを渡す。
Lv30 <練魔> 瞑想することでMP自然回復を早める。発動中は強制的に視覚、聴覚、嗅覚がなくなるが、MP回復速度が約10倍になる。発動中は被ダメージが2倍になり、ダメージを受けることで強制解除。
普通だとMPが自然に全快するまで300秒かかるところ、30秒で済むようになる<練魔>はかなり有用に見える...んだけど、パーティプレイ専用みたいなものなんだよね。戦闘中に30秒守ってくれる味方が必要だし、私みたいなソロ多めだと使いどころがない。
...あれ? もしかしてクリスが<魔女魔術>教えてくれないのって...
「...こんな感じで、正直一対一の対人戦で強いスキルじゃないよ。<魔視>を使えば相手が魔法を発動しようとしてるって分かるみたいなんだけど、クロエに限って言えば魔法ほとんど使わないからね」
「現状、クロエは完全に"魔術師殺し"っていうことか...僕みたいな弓使いも普通に殺されそうだけどね」
「とはいえ弱点がないわけじゃないんよね。敏捷系ビルドだとどうしても攻撃力に難が出てきやすいから、相手が...例えば1回戦で敗退されたライナスはんみたいな重装備だと分が悪いんよ」
確かに、クロエは防御力の高い相手がすこぶる苦手だ。北のエリアボスの時も「かたいのはもう勘弁にゃ...」とどんよりした顔で文句を言うくらいには嫌がってたし。
「遠距離系、重戦士系、敏捷系で三竦みな関係になってるんだね」
「せやね。さらに武器種、魔法の属性、選択した種族なんかでも細かい有利不利やら三竦みみたいな関係があるから、この辺は結構ややこしいんよね。
何が言いたいかって、負けたからと言ってそのスキルが弱いわけじゃないんやでって事!」
遠距離系は素早く近づいてこれない重戦士系に一方的に攻撃できるから有利。
重戦士系はその防御力で軽い攻撃をほぼ無視できるから敏捷系に有利。
敏捷系は直線的な攻撃を避けやすく素早く近づいて攻撃できるし、遠距離系ならではの低い防御力が自分の弱点である低い攻撃力をカバーしてくれるから有利。
他にも槍、剣、杖、鞭みたいな武器の種類にも細かい有利不利があるだろうし、魔法にも属性によってそういうのがありそうだ。
難波さんの「負けたからと言ってそのスキルが弱いわけじゃない」。その通りだね。
その通りなんだけど...
「難波さん、その飲み物おいしい?」
「いやぁ、引くほど苦いなぁ...」
机に置いてあったはずのポーションの原液を片手に、難波さんが青い顔でそう答えた。何してんのこの人...
※
「そろそろおしまいにするのにゃ」
「まだ...! <轟炎>ッ!!」
ほとんど傷のないクロエに対し、クロエの得意とするヒットアンドアウェイにいいようにやられてしまい、傷だらけのエシリア。強力な魔法の連発によって余裕のなくなってしまったMPを振り絞り、満身創痍で放った<轟炎>も軽々と避けられてしまう。
短剣を構えて走り、爆風を背に受けさらに加速するクロエ。エシリアに向かって一直線に、弾丸のように突き進む黒い猫に、慌てて杖を構えるも遅かった。
すれ違いざまに短剣で抉られるように切り裂かれたエシリアのアバターが光の破片と散り、倒れた状態で即時リスポーン。勝敗が決まった。
▽▲▽ 2回戦 第3試合 ▽▲▽
「いやぁ、まさかカトリはんと戦うことになるとはなぁ...運ないわ自分」
「いやいや、難波さんのご高名は聞き及んでいますよ。面白い戦いをされる方だとか」
「面白い戦い方って...僕かて本気で戦ってるんやけどね?」
アイドルプレイヤーの二人が熱戦を繰り広げた次の戦い。闘技場には初期装備の青年とうだつの上がらないおっさんが向かい合って試合開始の合図を待っていた。
初期装備の色あせたシャツとズボンを身にまとい、長剣を片手に緩やかな雰囲気を纏いながら朗らかに話すカトリ丸。剣を手に持つだけで構えてすらいないというのに、近づく羽虫すら音もなく切って捨てそうな、そんな歴戦の剣士のような感じ。実際に彼の戦いを見たプレイヤーは、皆同じような感覚になっていることだろう。
そんなカトリさん相手に物怖じひとつせず対峙しているのは、撚れたスーツを着て短いステッキのような黒い杖を構える難波。そこに闘技大会の本戦に出てくる戦士のような威圧感は一切なく、まるで天気予報で雨降るって聞いたサラリーマンが黒い折り畳み傘を持ってきただけのような、見慣れた光景...そんな既視感がある。
そんな初期装備とスーツという異色な見た目をした二人を尻目に、進行役のお姉さんがマイクを構える。
時間が来たようだ。
「準備はよろしいでしょうか? ...2回戦第3試合、[長剣士]カトリ丸 vs [商人]難波...試合開始っ!」
「よっと」
試合開始の合図とともにお札のようなアイテムを数枚投擲する難波さんに、特に驚いた様子もなく飛来した札を剣で斬り伏せつつ、呆れたような顔のカトリ丸。
「...さすがに正面からじゃ当たらんわなぁ」
「当たるも何も、そのアイテムはさっき見ましたよ」
難波の投げたお札は、札の張り付いた部位に石の枷を巻き付ける「石枷の符」。彼の1回戦の時に勇者風のルイAに使用したアイテムだ。
1回戦もしっかりと観戦していたカトリさんは当然見ていたので、普通に対策されていた。いや、対策も何も彼相手に正面から挑むのは普通に考えて無理だろう。
「仕方ない...<魔術購入/水>-<白霧>」
「おや、かくれんぼですか? 隠れるのは得意なんですけど、鬼は苦手なんですよね。俺」
白霧で視界を制限し、強制的に死角を作る。障害物がひとつもないこの闘技場で彼に不意打ちするのは厳しいだろう。であれば...
(苦いからあんまり使いたくなかったんやが...この際仕方ないわな。そのためにわざわざ原液まで飲んで舌を殺したんや...!)
レンヴァイツでショーイチと黒いローブを尾行する時にも使った気配を希薄にするアイテム「鹿狩りの薬包」を素早く自分に振り撒いて、毒々しい色合いに歪んだ丸みを帯びた「ゲイルハウトゥニアの葉」を口に含む。これはポーションの原液に匹敵するエグみや苦さを持つ代わりに、口に含んでいる間は敏捷が上がるドーピングアイテムだ。
二つのアイテムをサッと使い、カトリ丸に気取られないようにこっそりと、それでいて素早く回り込む。
「まぁ、霧の中でどうこうしようとあまり変わらないんだけどね」
試合開始から一歩も動かずに剣を振るだけで対処しているカトリ丸は、霧で視界が制限されていても悠々とした態度だ。
一般のプレイヤーが言えば強がりや虚勢に聞こえるセリフでも、彼が言えばまるでその通りのように聞こえてくるから不思議だ。あまり彼のことを知らなくても、その強キャラ感にはなぜか説得力がある。
不意に、風切り音が鳴る。
「甘いっ!」
カトリの右後ろから風切り音とともに飛んできた物体をすぐさま感知し、目にもとまらぬ速さで剣を振りぬく。
まるで少し前に見た[刀士]の居合のように素早く振りぬかれた剣は、飛んできた物体に吸い込まれるように正確な軌道を取る。
難波の使ってきたアイテムだ...身体に直接当たりでもしたらきっと碌なことにはならない。石枷の符の効果ひとつとっても剣士として致命的だ。
斬り捨てると、そこに残っていたのはさっきと同じ両断されたお札だった。
「難波さん、何度やっても同じですよ」
四方八方から次々と飛んでくるお札を斬って捨てる。まるで馬鹿の一つ覚えのような戦法に、少し難波のことを過大評価していたのかとも思い始めた。
斬り捨てた札の数が二桁に届くころ、同じように風切り音が鳴った方に剣を振りぬくと、剣がそれに到達する瞬間に目に入ったのは札ではない別のものだった。
(石...?)
飛んできた丸い石に剣が到達する直前、振り向きざまに目に入ったそのアイテム。なぜ石ころを...?と疑問に思った次の瞬間。
「...ッ!!」
音が消えた。
<白霧>の効果時間が終わり霧が晴れた時、そこにいたのは目を見開き驚愕するカトリ丸と、したり顔の難波だった。
※
「えっ? 何が起こったの?」
実況解説席にゲストとして来たエシリアさんが、机に乗り出すように前のめりになって聞いてきた。
観客からは<白霧>の効果は軽減されていて、霧がかっていても問題なく見ることが出来た。それでも、今起こっている状況がよく分からないのだろう。
そりゃ分からないのも仕方がない。難波さんのコレクションの一つだからね。
「あれは"耳割石"だね。各地でアイテムを集める趣味を持つ難波のコレクションの一つで、その名の通り耳が割れる...聴覚を奪うっていう効果だね。効果範囲はかなり狭いし、聴覚を奪う時間もそこまで長くない。さらに石自体が割れる必要があるっていう使い勝手の悪いものなんだけど...」
「視界の制限された霧の中で、何回も札を斬り続けた。そんな中でいきなり別のものが混ざるなんて、そりゃ斬っちゃうよね」
難波さんの各地で集めたアイテムコレクションのひとつ、耳割石。
見た目はただのすべすべした硬い小石。割れることで発動し、かなり近距離にしか効果がないけれど、範囲内にいる対象の聴覚を60秒奪うという破格の効果を持つ。
大声で鳴く魚の魔物の魔石を加工したものらしい。石自体が割れる必要があるので、遠くからの「/起動」は不可。
それまで馬鹿の一つ覚えみたいにお札を投げ続けたのは...
「間違いなく耳割石を斬らせるための伏線って事ね...いやらしいわねアイツ」
「ついでに言うと、難波の投げてたお札も大半は効果のない偽物のお札だよ。難波さんって、石枷の符も耳割石も一つしか持ってなかったと思う」
「お札自体もブラフ!? なんなのアイツ...そんなにお膳立てしてまで耳割石が使いたかったのかしら?」
「それでも聴覚が奪われるって、かなりのハンデになるからね。1分程度しか効果がなかったと思うけど...実際にかかってしまったカトリ丸さんは、もうかなり厳しいんじゃないかな」
「えっ? たった1分だけ耳が聞こえなくなるだけじゃない。そこまで変わるかしら?」
「いやいや、だってほら...」
「スキル名、聞こえなくなるんだよ?」
※
「<魔術購入/光>-<瞬光>!」
「くっ...」
カトリ丸には音が聞こえていない。ということはつまり、スキル名から魔法の予想が出来ないという事。強い光を瞬間的に発することで相手の目を潰す<瞬光>なんて、スキル名を言うだけで大概の人は目をつむるなりして対策できるような簡単な魔法だ。
しかし、音が聞こえないカトリ丸はそれが分からない。難波の動きを残った視覚でなんとか読み取り、素早く対処しなければいけない。
いつもよりしっかりと難波の動きを観察していたカトリ丸がどうなるかというと、答えは明白。
「目も耳も封じたったわ...!」
視覚と聴覚を封じられたカトリ丸は、先ほどまで見せていた第六感のような鋭い気配察知すらできなくなってしまい、すぐさま降参を選択した。
こうして、今大会で一番の大金星がトーナメント表に刻まれた。
◇◆◇ 新登場スキル ◇◆◇
▼魔法系スキル
▽炎熱魔術
<爆炎> Lv1 着弾とともに爆発する炎の玉
<炸矢> Lv5 着弾とともに爆発する炎の矢
<熱纏> Lv10 熱を纏い、火系魔法の威力を上げる
<轟炎> Lv15 周囲に炎を撒き散らす効果の付いた、規模の大きい<爆炎>
<焔柱> Lv20 燃え滾る炎の柱を作り出す
<熱線> Lv25 熱線を射出する。貫通力が高く、一直線に敵を焼き払う
<燎焔波> Lv30 大量の炎の波で敵を飲み込む広範囲魔法
▼武術系Exスキル
▽精霊剣術
<精霊纏> Lv1 武器に周囲の精霊の力を宿す。
<精霊気> Lv10 自身に周囲の精霊の力を宿す。
<??> Lv20
<??> Lv30
[刀士]のモブの人と[水魔剣士]にジョブチェンジした騎士長さんの戦いは時間の都合でカット。カトリさんと難波さんの戦いもかなり省略...今回は許して。
明日と明後日の更新分、まだ書けてないんですけど...
っていうか、当初の予定ではカトリさんが勝つはずだったんだけど...