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60 闘技大会-2 狼と双剣

闘技大会編は全5回予定。その2。

モブキャラの名前を考えるのが面倒だったので、そのまま「モブ」。覚えなくてOK。

双槍の人も大剣の人も刀もモブ。なんならライナスもモブ。


次回投稿 2019/10/29 20時





▽▲▽ 1回戦ダイジェスト ▽▲▽



勝者 - 敗者


ロー vs ライナス

イザム vs 双槍の人

クロエ vs マリオネ

エシリア vs 大剣の人

カトリ丸 vs モブ

難波 vs ルイA

刀 vs モブ

騎士長 vs モブ



思い返してみて、特に面白かったのは4つだろうか。



●ロー vs ライナス


闘技大会初戦という記念すべき試合に満を持して登場した[拳士]ローと[重戦士]ライナス。すらりとした体型に[拳士]ならではの無手でふらりと現れたローに対して、ローの二倍はあるであろう巨体に厚く着込んだ鎧と大盾、そして大剣を持ったライナス。ローの実力を見たことのある観客でさえ、巨体に太く力強い一本角を額に冠したライナスの威圧感に「あぁ、これはあの狼獣人の負けだな」と思われた。


いざ試合が始まると、そんな予想はいとも簡単に覆される。超防御力に対して無手では為す術がないかと思われていたけれど、為す術がなかったのはライナスの方だった。

大剣の攻撃に冷静に対処し、背負い投げ等のライナス自身の重さをそのまま攻撃力に変換する柔の技で攻め立てた。

ライナスが着ていた鎧もまだ鉄ではなく青銅だったらしく、ローの鉄のガントレットでボコボコになってた。最後は普通に<拳術>で殴って勝利。ローのHPはほとんど削れていなかった。





●クロエ vs マリオネ


「いつのまにか解放されてたから、とりあえず転職したにゃ」という軽い気持ちで[軽業師]にジョブチェンジしたクロエと当たったのは、[土精術士]のマリオネという学者のような見た目のやせぎすな男。

声が小さくてよく聞き取れなかったんだけど、私の店で売り出している「【精霊】のコピースクロール」を<土魔術>と組み合わせた結果生まれたのが、彼がメインで使う<土精魔術>らしい。なにやら【精霊】と魔法系スキルを組み合わせるには他に条件があるらしく、それを研究しているとかなんとか...


そんなマリオネの使う<土精魔術>は、小さな土人形を作り出して精霊を憑依させ、簡単な命令を聞いてくれる1.5mくらいの大きさのゴーレムを作り出す<土形生成アースミニオンクリエイト>を始めとし、作り出したゴーレムに武器を持たせる<土形武装(アースミニオンアムド)>、全軍で一斉攻撃を仕掛ける<土形全撃アースミニオンアサルト>など、一人で軍団を率いた戦いができる魔法系スキル。


戦いが始まると、一瞬にして何体もの大量の土のゴーレム"土形(アースミニオン)"がクロエを取り囲む。それぞれが槍や剣、斧や棒を手に距離を詰めていくも、普通に術者本人を狙ったクロエに叩き斬られて即座に決着。土のゴーレムだけあって、咄嗟の動きに対処するには鈍重すぎたようだ。





●エシリア vs 大剣モブ


エシリアは常に大剣士の攻撃が一切当たらないくらいに距離を取り、狂気じみた「きゃっはは!」という笑い声をあげながら一方的に、楽しそうに燃やし続けた。


丁度その時ゲストとして実況解説席に呼んでいたイザムとショーイチは



「弓使いの僕が大剣士と戦うとしても、きっとエシリアさんと同じように距離を取って戦うだろうね。敏捷の低い前衛系だと、遠距離が得意な後衛系に距離を取られた時点でかなり厳しそうだ」


「あぁ、にしてもあれは勝ち目がないな。大剣は高威力の斬撃と、その剣の横幅を利用した盾のような守りが売りなんだが...あれだけ爆風を叩きつけられちまえば近づけねぇ。自慢の高威力の斬撃も、近づけさえしなければ持ち腐れだ」


「<大剣術>には"かまいたち"を飛ばすような遠距離技がないからね。遠距離をカバーできるスキルを身に着けていればまた話は変わっていたかもしれない。もしくは魔法に対策するかなんだけど...」


「<大剣術>には魔法を叩き切るような技能があるって話だが...あのチビ魔女の魔法、着弾と共に爆発してやがる。アレじゃ叩き切って魔法自体を消し去っても、発生した爆風は受けちまう。これは[大剣士]としちゃかなり辛い展開だな」



と、文字通りかなり熱の入った解説をしてくれた。





●難波 vs ルイA


勇者のような出で立ちの好青年、[見習い光魔槍士]ルイ(エース)。散らされた薔薇が似合うようなその甘いマスクにキザな言動、風になびくサラサラな金髪が一部の層にとても人気で、口々に「勇者」とさえ呼ばれている彼。


戦いの幕が切って落とされた瞬間、カッコいい銀色の鎧を輝かせ、精緻な模様の施された長い槍をこれまたカッコよく振り回してピシッと構える。[見習い光魔槍士]らしく、構えた長い槍は薄く光を纏っている。

背に背負った赤いマントがひらりとたなびき、にこりと微笑む。覗いた白い歯がきらりと光ると、観客席の一部から「勇者サマァー!」と黄色い声援が起こる。困ったような表情をして一言。



「[商人]、ここは引きたまえ。出来る事なら、非戦闘職の人間を攻撃したくはないんだ...どうだろう、僕の言葉を聞いてはくれないだろうか?」



なにか言いたげな顔をして成り行きを見守っていた難波さんは、ため息を吐かんばかりの表情で



「.../起動(アクティブ)



ルイAの槍を持つ右の手首にいつのまにか張り付けられていたお札がカッと光ると、次の瞬間まるで罪人がつけるような石の枷が巻き付いていた。

片腕を完全に封じられて満足に槍を振る事ができなくなったルイAに、小爆石を数個放り投げ爆破。いともたやすく撃沈。





▽2回戦のトーナメント表


ロー vs イザム

クロエ vs エシリア

カトリ vs 難波

刀 vs 騎士長














▽▲▽ 2回戦 第1試合 ▽▲▽




歓声や期待が入り交じり、熱く震えた空気のコロシアム。その中央に広がるフィールドには、二人の男が向かい合っていた。



「魔物討伐戦の時には世話んなったな」


「ん...? あぁ、いいってことよ」


「...そうかよ」



両の手に1本ずつ、鈍く光る長剣を持つくすんだ金髪の魔人(デミデモン)、イザム。その切れ長の目は、獲物を見つけたかのように相手から離れない。

程度を確認するように片手の剣を素振りする度、フォン、フォンと澄んだ音が鳴り響く。いつでもいいぞと言わんばかりの空気感だ。

共に戦ったというのに、自分のことを一切覚えていない。交わした言葉からそう理解したイザムの素振りする剣は、いつにも増して苛立ちが見えた。


そんな彼と相対するのは、初戦から圧倒的な勝利を観客に見せつけた狼獣人の[拳士]ロー。流石にこの場では不利だと感じたのか、いつも悪臭対策につけているマスクは外してきたようだ。

両手に着けた鉄のガントレットをガツンガツンと打ち鳴らし、いつものように構えをとる。普段は色んなことに対して「面倒だ」という雰囲気をまき散らす彼も、強敵とのPvPとなると少し空気が変わるようだ。




「それでは2回戦第1試合、[拳士]ロー vs [双剣士]イザム...試合開始っ!」


「<双昇(デュアルアップ)>、<構双(デュアルスタンス)> /右攻(ライトアタック) /左逸(レフトパリィ)


「<構拳(ファイトスタンス)>」



互いに(スタンス)系の技能を発動する。イザムは両の剣をしっかり構えて中腰に。ローはいかにも面倒そうに脱力したままの構えだ。

まるで戦うつもりがないように見えるその構えを見て、切れ長な目がさらに吊り上がる。



「てめぇ、やる気あんのか?」


「あん? そんなん人によるだろ...」


「ちっ...舐めてっと痛い目見んぜ!!」


「なんでいきなりキレてんだよ...」



急速に接近し、双剣で猛攻撃を繰り出すイザムに対し、両腕に着けたガントレットで双剣の刃を滑らせるように逸らし、躱し続けるロー。様子見なのか、それとも動きが制限されることを嫌っているのか、お互いに攻撃スキルは使わない。


鉄製の剣と鉄製のガントレットが幾度となくぶつかり合い、観客の声援をかき消すほどの金属音が何度も鳴り響く。数えきれないほどの火花が散る。


数十秒は流れただろうか。お互いに武器を巧みに動かし隙を突こうとするも、まるで結界でも張られているかのように有効打は与えられない。



「おらァ! <双撃(スラッシュ)>ッ!」


「<拳撃(スマッシュ)>!」



硬直した戦いを一旦リセットするかのように放たれたスキル同士がぶつかり合い、一際大きな金属同士の衝突音が響くと、お互いに吹き飛ばされるように距離を開ける。

飛ばされている間も互いに視線を一時として離さず、上手く姿勢を制御して着地する。



「せっかくの闘技大会、こうじゃねぇとな...!」


「ふん...!」















「派手だね」


「うん。<双剣術>も<拳術>も、それぞれ両手の武器を使った手数の多いインファイト系だからね。ここまでの試合は魔法使いvs剣士とか、お互いの毛色が大きく違うものが多かった。でも今回はかなり似てる」



フィールドでは素早く距離を詰めて素早いジャブのような攻撃を繰り出したローに、イザムが二本の剣を交差して受け流している。そのままハサミの要領で腕を切り落とそうにも、ローは既に腕を引き戻して追撃の構え。ローの得意とするインファイトだ。


しかしインファイトはイザムにとっても得意分野。追撃の拳を左の剣で上手くパリィすると、右の剣で素早く反撃。攻守は何度も逆転し、隙をついたスキル攻撃で少しづつ互いのHPを削っていく。



「イザムもローも、同じように手数の多さで猛攻撃して一気に削りきるプレイスタイルだからね。こうなってくると技術の競り合いになっていきそうだけど...どう思いますか、カトリ丸さん」


「...」



2回戦の初戦を飾った[拳士]ロー vs [双剣士]イザムの戦いには、実況解説席にゲストとしてカトリさんが来てくれていた。さっきから一言も喋らずにかなり真剣に二者の戦いを見物していたけど、彼の目にはどう映っているのだろうか。


分が悪いと感じたのか少し距離を取ろうとするローさんと、獲物は逃がさないと言わんばかりに追撃するイザムを見ながら、カトリさんが口を開いた。



「...あぁ、ごめんごめん。実況解説なのに一言も喋らないというのは少し良くなかったね。ちょっと見入っていたよ」


「カトリさんには二人の勝負、どう見えた?」


「うん...そうだね。多分だけど...」



先ほどまで短いインターバルで攻守が逆転していたのに、今は猛攻を仕掛けるイザムに対し、防御が増えてきたロー。守り切れなくなってきたのか、少しづつではあるがHPが削れてきている。<双撃(スラッシュ)>、<逸反(パリィカウンター)>、<飛双>、果てには<双剣術>Lv30の<乱舞(デュアルランページ)>まで使って追い詰めていく。


少しずつ形勢が傾いてきたように感じるけど...



「この勝負――」















「一方的で悪ぃが!このまま削りきる! <剣戟複製ソードデュープリケート>、<乱舞(デュアルランページ)>ッ!!」



私が【友撃】と交換した【鏡】を<双剣術>と組み合わせて作りだされた<剣戟複製ソードデュープリケート>。剣の軌跡を追うように、複製された鏡の剣が一定時間の間自動で追撃を行う武術系Exスキルだ。



「<耐怨(インデュアグラッジ)>...ッ!」



ただでさえ手数の多い双剣による剣戟が、更に倍になってローを襲う。まるで斬撃の雨のような4本の剣の攻撃を何とか躱し受け流すも、さすがに全ては受けきれない。自身の防御力を一定時間上昇させる<耐怨(インデュアグラッジ)>を使っていても、徐々に生傷は増え、HPはじりじりと削れていく。



「っ...!」


「逃がさねぇ!」



なんとか距離を取るローに、一気に踏み込んで斬りつけにかかるイザム。HPがすでに3割近いローに対して、イザムはまだ8割残っている。踏み込み、振り始めた両の剣筋は完全にローを捉えている。全力で振りぬけば、勝てる。



「この勝負、もらったッ!」



残りHPを吹き飛ばすつもりで振りぬいた双剣は空を切り、ローは目の前から姿を消していた。

直後、腹部にとてつもない衝撃が走った。



「...<仇拳(リベンジフィスト)>」



気づいた時には吹き飛ばされ、イザムの身体は光となって消え去った。

















「ロー氏は序盤から"間合い"を意識していた。あぁ、敵との距離の事ね。ロー氏はどれくらいイザム君と距離を開ければ踏み込んでくるのかをずっと観察していた。だから、イザム君にとっての絶好の踏み込みタイミングを意図的に作り上げて、カウンターが刺さりやすい踏み込みを誘ったんだ」


「<仇拳(リベンジフィスト)>...<耐怨(インデュアグラッジ)>発動中にダメージを受ければ受けるほど威力の上がる一発逆転の大技だね」


「ローさんはそれを確実に当てるために、ずっと<耐怨(インデュアグラッジ)>で耐えながらイザムの攻撃を観察していたってこと?」


「俺にはそう見えたよ。敢えて逃げるように隙を作りながら距離を取ったのも、踏み込みタイミングを計るため。彼はその踏み込みにカウンターを当てるために、試合開始からずっと準備していたんだ。

面倒くさがりな人と聞いていたけれど、彼はかなり計画的だね」



ローさん、如何にも面倒そうな雰囲気を出していたけれど、戦闘においてはかなりの切れ者だったらしい。

かすり傷のようなダメージが蓄積してHPが残り3割まで削れたローの<仇拳(リベンジフィスト)>は、イザムの残っていたHPをすべて吹き飛ばすに足る威力を秘めていたようだ。



「イザムは直感的なプレイヤー...双剣を自由自在に使いこなす天才的なプレイングスキルを持ってはいるけれど、PvPの経験、技術はまだ浅い...ということでしょうか?」


「このゲームは主に魔物を相手にするからね、イザム君はそういった経験が薄いのかもしれない。対するロー氏は道場で<拳術>を習得している。道場という事は、まず戦うのは人型のNPCだろうからね」


「なるほど...」


「それに、こういうフルダイブ系ゲームならではの弊害もあると思うんだ。この試合もそうだったけれど、戦いがよりハイスピードになるにつれて意識できない部分の直感的な行動が比例的に増えていくんだよ。その分個人の癖もより顕著に出てくる。これは俺にも言えることだし、ロー氏にもイザム氏にも言えるんだが...」



自分の行動が早くなりすぎて、意識的に行動できる限界を超えた時。そこにあるのは直感的な行動だけ...そこには個人の癖が多く含まれるとかなんとか。うーん、難しい...私、魔法使いでよかった。



「より自分の癖を出さずに防御に徹して、相手の癖を看破してカウンターを決めた...」


「そういうこと。彼はもしかすると、この先の試合も見据えているのかもしれないね」

















「あーあ、負けちまった...完敗だ。もうすこし<拳術>についての情報がわかってりゃ、対策も出来てたかもしれねぇってのに」


「...つっても、結構苦戦したが」



倒れた状態でリスポーンしたイザムは、ローに差し出された片手を取って立ち上がった。

この部分だけなら、まるで青春群像劇のようにも見える。若干の黄色い歓声が聞こえたのは気のせいかな...



「なるほどな、スキル以外の技術か...盲点だったぜ」


「気になるってんなら道場に通え。今んとこ、どこの街にもあるからよ...」


「あぁ、さらなる課題が見えた...ぜってぇリベンジするから、その時はまた俺と戦え!!」



闘技場ど真ん中のリベンジ宣言。観客大盛り上がり。

沸いた観客をちらと見て、はぁ...とため息をひとつ吐くと、一言。



「いやだよ、超面倒くせぇ...」















◇◆◇ 新登場スキル ◇◆◇



▼武術系スキル

 ▽拳術

  <耐怨(インデュアグラッジ)> Lv30

  自身の防御力を一定時間上昇させる。


  <仇拳(リベンジフィスト)> Lv30

  <耐怨>発動中にダメージを受けた分だけ威力の上昇する拳撃。一度使うとしばらく使えない。


 ▽双剣術

  <乱舞(デュアルランページ)> Lv30

  二本の剣を振り回し、連続で相手を斬りつける。発動後の一定時間上昇、剣を早く振れるようになる。


▼武術系Exスキル

 ▽<剣戟複製ソードデュープリケート>

  一定時間、剣を振った軌跡を辿るように鏡の剣が追加で斬撃を行う。












主要メンバー同士の戦いはちゃんと書きたいんだけど、戦闘描写と実況をどう混ぜるかホント難しい...


追記:2019/10/29 6:00

多数の誤字報告で指摘されていましたが、実況解説部分はマリの一人称視点なので「カトリ丸」ではなく「カトリ」でOKです。マリはカトリ丸のことを「カトリさん」と呼ぶので。

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