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54 エル姉と師匠 / 計画の始まり

二本立て。


次回更新 2019/10/15 20時









「私の師匠はね、偉大なる天才魔女だったのよ」


「ん?」



エル姉がぐつぐつとポーションの原液を煮込み、棒でかき混ぜながら不意にそう切り出した。

私は販売用の服をチクチク縫いながら傾聴する。



「この前も話したけど、私はてっきりクリスの弟子になるんだと思っていたんだけどね? クリスと再会した後、すぐに別の魔女のもとに送られたのよ」


「うん」



この前エル姉が話してくれた昔話の続きかな? 確か、「色々あってクリスに命を救われて、「魔女になりたいなら私を訪ねろ」ってクリスに言われた」って話だったよね。



「そこで出会ったのが[創薬の古き魔女]エルキュール。当時師匠はまだ[大魔女]だったんだけど、まだ[大魔女]という若い部類なのにポーション関係では他の魔女の追随を許さない程に先進的な研究を行っていたお方ね」


「うん」


「きっとクリス様は、私が魔女を目指すきっかけになったあの一件から、私が蘇生に関する「魔女の秘薬」について研究したがっているって察していたんでしょうね。だからこそ、そんな「医薬品の権威」の下で学べるように取り計らってくれたんだと思ってね」


「そうなんだ」


「私が弟子入りした師匠ってね、巷では「医薬品の権威」っていうイメージだったんだけど...実際に会ってみるととんでもないお方だったわ...って、マリ。聞いてる?」


「いきなり昔話始まったなぁ...と思いながら聞いてた」


「...確かにいきなりだったわね」


「お茶淹れてくるよ」



多分この話は長くなるからね。休憩にはちょうどいいかも。











お茶の入ったティーポットとお気に入りのティーカップを2つ持って、1階カウンターの裏の作業室へ。ドアを開けると薬草の煮詰まった香りが噴き出てきた。なんというか、抹茶っぽい。


カップにお茶を注ぎ、一息。<お茶淹れ>みたいなスキルがあったら嬉しいんだけど、生えないなぁ。この世界には貴族がいるみたいだし、メイドさんも多分いるはず。なんとか繋がりが出来ればいいんだけど...流石に貴族相手は難しそうだ。



「さっきの続きね。私の師匠のエルキュール様の一体どこが"とんでもないお方"だったのか...一言でいえば、彼女は喋れないのよ。舌がないからね」


「うん?」



あれ、なんか聞いたことある気がする。舌のない喋れない魔女...それしばらく前にクリスに聞いたような?



「...ポーションの原液飲んだって話?」


「あら、よく知ってるわね...そう、あのお方は世界で初めて「ポーション」の製法を確立したんだけど、その過程でポーションの原液を好奇心から飲んじゃって、あまりの苦さに舌を切り落としたのよ」


「クリスが話してくれたよ。どんな苦さなのか気になったから友達に飲ませたんだけど、悶絶してた」


「マリ...? あなた...」



とんでもない残酷な生き物を見るような目でこちらを見つめてくるエル姉。失敬な。

あの後自分でもちょっぴり飲んでみたけど、舌を切り落とすほどではなかった。義太夫さんも30分くらいで立ち直ってたし...

エルキュールさんが初めて作り出したポーションの原液とはそもそも違うものだったのか、もしくはNPCとプレイヤーの味覚が結構違うのか...このどっちかかな?



「魔女の知識があれば欠損した舌も元に戻せるんだけどね、「味が悪いせいでポーションの効果が分からないなんて、探究者としてありえない。であれば味覚など不要だ」なんて言っててねぇ...」


「研究者の鑑だね」


「今でこそ、この「<錬成>用抽出陣」で簡単にできるんだけど、最初はかなり大変だったみたいでね...」


「ねぇ、気になったんだけどさ」



エル姉、まるで喋れない人と普通にコミュニケーション取ってるかのように話してるけど...



「どうやってコミュニケーション取ってたの?」


「どうやってって...こうやってよ」



エル姉が人差し指で空中をなぞると、その軌跡が光り、文字として残った。ファンタジーだなぁ...

空中に残った文字は、普段私が現実で使っている見慣れた言語と同じだった。「<軌跡記述>」って書いてある。



「これもスキルの一つでね、<軌跡記述>って言うの。特に魔女限定のスキルとかじゃないんだけど、これが結構使い勝手がいいのよね。紙とペンがないときに、いつでも簡単に計算できるし」



作業台の端っこに積まれた白紙の紙の束から一枚引き抜くと、エル姉はその白紙の紙に細く白い人差し指を向ける。

バチリと稲妻が走ったと思うと、そこにあったのは一枚のスクロール。



「はい、これ。便利だから覚えておくといいわ」


「...エル姉もスキルスクロール作れるんだ...」


「ん? マリも<魔述>は使えるでしょ? これはその上位互換のようなものよ。いつか使えるようになる...かもしれないわね」



こういうMMO系のゲームで、自身のスキルを相手に渡せるなんてそんな事...多分ないだろうなぁ。昔はそういう自分の作った魔法をスキルとして渡せるゲームもあったって話だけど、すぐに廃れちゃったらしいし...

そんなスキル、あってもかなり終盤だろうね。普通にゲームバランスが壊れる気がするし、期待はしない方がよさそうだ。



 








<軌跡記述>で遊びながら、販売用の服作り。軽くデザインに悩んだときにささっと空中で思考をまとめられるから、思ってたより便利だった。

そういえばフレーバーとして置いておいたお飾り「魔女の大釜」を使って、エル姉はポーションの大量生産に成功していた。



「最初は「ナニコレ...?」って思っていたけど、使ってみるとかなりいいものよ、コレ。<錬金>じゃなくて<調薬>の範囲だから、<錬金>を育てているマリにはちょっと難しいだろうけどね」


「大釜で何かを煮込む魔女...エル姉、過去一番で魔女してるよ」



大釜に入った濃い緑のドロッとした液体をぐつぐつ煮込み、とんでもなく長い木の棒でかき混ぜるエル姉。このゲームで見た魔女らしい行動ランキング第一位だね。ちなみに魔女らしい行動ランキング第二位は「箒に乗って飛んで行ったクリス」。


<錬金>だとパパっと作り上げられるけど、<調薬>だと煮込んだり混ぜたりする工程が必要なようだ。私がまだフリマで物を売ってた時、他の店にはHPポーションを売ってる[調合師]がいたんだけど...きっと彼らはこういう方法で生産してたんだろうね。


ちなみに私が丁寧に手作りしたHPポーションと、エル姉が大釜で大量生産したHPポーション。横に並べて見比べると、<鑑定>なんてせずとも品質に大きな差があることが分かる。

私の<錬金>の熟練度がまだ低いのもあるだろうけれど、流石は[創薬の古き魔女]の直弟子。たとえ大量生産だろうが、その品質は非常に高い。


最近ではアイネールの住民NPCがエル姉謹製のポーションを買い求めにやってくるほどだ。

...クリスの方が魔女としての位が高いんだけど、<調薬>を専門としているだけあってエル姉の方が品質は高いらしい。それでいいのか[悠久の魔女]?



「今までの<調薬>じゃ一回で扱う素材の量はレシピ通りにするから気づかなかったんだけど、恐らくスキルレベルの上昇によって一度に扱える素材の量も増えていくんでしょうね...」



魔女は危険なスキルや技術を管理する職業だけど、新しい技術やスキルの研鑽、探究を行う研究職でもある。エル姉もたまにそういう面を見せることがある。

まさか使い道のなかった大釜から着想を得ることになるなんてね...



「きっと他の魔女がこの大釜を使っても失敗するでしょうし、最低でも私くらい<魔女の調薬ウィッチクラフト・メディスン>のレベルがないと使いこなせはしないと思うんだけど...もう少し小さめの鍋なら...?

それにしても、スキルレベルによって一度に扱える素材の量が増えていく可能性については盲点だったわ...レシピ通りの分量でしか作らないというのも良し悪しね...」



私とカーネルの悪ノリとおふざけから生まれた、雰囲気を出すだけの置物だったはずの「魔女の大釜」。まさかここにきて評価爆上がり。良かったね、大釜...!



「今度師匠にもお教えしましょう。その時はマリも連れて行くからね」











――――――――――――――――――――――――――――――――――――――










「僕さ、ひとつやりたいことがあるんだよね」



燦燦と日差しが入り込む雑貨屋ミラーウィッチの二階リビング。その中央に据えられた品のいい木製のテーブルに、真っ白なティーポットが置かれている。

その周りには同じく真っ白な二つのティーカップ。薬草の匂いがほんの少し混ざった暖かいお茶が注がれたそれを、テーブルに肘をついたショーイチが見つめながら物憂げに話す。



「...絵になるね」


「マリ? 話聞いてた?」



パッと見はイケイケな優男だし、耳の長い森人(エルフ)という種族も幻想性を高めているね...SS撮っておこう。今度写真立てに入れて、勝手に店の空いたところに置いておこう。もしかしたら欲しがる人もいるかもしれないし...

...んで、何だっけ?



「やりたい事?」


「うん」


「何がしたいの?」


「プレイヤー主催の闘技大会」



...思ってたより大きめな案件だった。てっきり「レベル上げ」とか「腐らせてる<剣術>を育てたい」とか言うと思ってたんだけど。

っていうか、闘技大会かぁ...クロエとイザムが張り切りそうだなぁ...



「また唐突だね」


「いや、これでも結構計画は練ってたんだよ。第二陣も入ってきた訳だし、どんなスキルでどんなことが出来るのか、実際に見られるイベントがあった方がいいと思ってね。それも、早いうちに」


「あー、確かに...」



このスキル強かったぞ!と言葉だけ聞いても分かりづらいだろうし、その目で実際に確認できる機会っていうのは必要かも。見たことないスキルを知ることもできるし、その点では第一陣にも利点がある。



「第一陣の人たちも、自分がどれくらい戦えるのか試してみるいい機会になると思うんだよ。どうかな?」


「めっちゃいいね」



物憂げだったティータイムは、一瞬にして闘技大会の計画会議へと変貌した。












どうやらショーイチは、既にマギラトラの公式運営に「プレイヤー主催で大規模なイベントを開きたい」という旨の質問を送っていたらしい。

その返答は、「プレイヤー主催で何かイベントを始めたいときは、関連するギルドに申請してください」とのことだった。申請内容は3つ。


1.予想されるイベント規模とイベント内容。

2.イベントに使用したい場所、期間。

3.賞品があればその内容。


この申請が受理されれば、イベントへの参加などの管理はギルドが請け負ってくれる。

さらに、この3つの項目で公平性や競技性、規模が認められれば、運営からサポートを受けられるとのことらしい。


私達は闘技大会についての申請を冒険者ギルドに、闘技大会周辺での出店についての申請を生産商業ギルドに行った。後は闘技大会をするとプレイヤーに周知して、大会当日が来るのを待つだけだ。



「いやー、僕ずっと前から実況解説やってみたかったんだ」


「えっ...もしかしてそれが目的だったの...?」



ちょっと理由が不純だったけど、こうして私たちの闘技大会計画はスタートした。















◇◆◇ 新登場スキル ◇◆◇



▼便利系スキル

 ▽軌跡記述

  空中を指先でなぞる事で、その軌跡を光らせるスキル。

  


▼魔女系スキル

 ▽魔女の調薬ウィッチクラフト・メディスン

  魔女が探究した調薬についての秘儀や技術の詰まったスキル。







闘技大会について言及されましたが、近いうちに"闘技大会編"が始まります。具体的には58、59話くらいからの全5回で、早めに書ければ毎日更新。

長丁場で物語が進まないのは好ましくないので、かなりさっくりさくさくな進行でかなり省略してさっさと終わらせる予定です。戦闘描写は得意じゃないんだ...許してくれ...

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