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52 第二陣の参戦

流れ的にはここから第二部です。


次回更新 2019/10/06 20時






「回復ポーション1ダースに、小爆石が2ダースですね...13,200セルになります。

...そういえば、明日第二陣の方々が大勢いらっしゃるようですけど、お二方はこれから遠征ですか?」


「おうよ! ...ってか、エルちゃんNPCなのに第二陣とか知ってるんだなぁ」


「あぁ、確かに。NPCとかプレイヤーっていう概念はタブーっていうか、言っても理解されないことが多いからね...まさかエルちゃんからその言葉を聞くとは思わなかったよ」



カウンターで店番をしているエルディエが、買い物に来た男性プレイヤー二人と世間話をしている。清算待ちで並んでいる人もいないし、暇つぶしには丁度いいかもね。情報も得られるし。...私がレジやってる時にああいう世間話してくれる人って全然来ないんだけど、やっぱエル姉のほうが親しみやすいのかな...

カウンター裏に作られた作業部屋で、私はそんな世間話をBGMに販売用の服を縫う。



「私はマリから学びましたので、ある程度は分かっているつもりですよ? これでも[大魔女]ですし、頭は良いんです」


「違いないな! あぁ、ちなみに俺らはこれから北の街に遠征。小爆石と<火魔術>で北のボスぶっ倒してくるわ」


「アイネールはこれから初期プレイヤーで混雑するだろうからね。今いるプレイヤーはもう周囲の街に散ってる頃じゃないかな?」


「確かに、今日はこころなしかお客さんが少ないような気もしますね...」



見渡してみると、今店にいるのはエル姉と喋っている二人と商品を選んでいる数人だけ。平均に比べて半分程度しか店に人がいない。

そういえば第二陣って明日だったっけ...だから街歩いてても、いつもより静かに感じたんだね。



「今もアイネールに残ってるのは生産系と商業系、それに俺達みたいな出遅れた系くらいだろうな」


「あとは、エルちゃんとか魔女っ子様と話したいって人たちね。これは間違いない」


「エルちゃんは馴染みやすくて話やすいからな! 高嶺の花...っていうか、触れてはいけないようなレベルの魔女っ子様と最高の組み合わせだし、二人に会いに来てるってやつも飲み屋じゃ結構見るぜ」



私そんな風に思われてたんだ...掲示板にもフランクに書き込んじゃうくらいフレンドリーだったつもりなんだけど...?

もうちょっとこちらからアクション起こした方がいいのかな?



「そんな、褒めても何もしませんよ?」


「いいんだよ! 少しでも話せりゃ飲み屋で自慢できるんだからよ! ...っと、そろそろか」


「じゃ、残りのメンバーも準備出来たらしいし、俺達そろそろ行くよ。また買いに来るね!」


「えぇ、お待ちしてます」



話し相手だった二人の男性プレイヤーが退店していった。きっとパーティメンバーから呼び出しが来たのだろう。

これから北のボスを攻略しに行くと言っていたし、第一陣の中でも上位の力量を持っているのだろう。弱体化してもクリアできた人っては少ないらしいし、彼らには頑張ってほしいね。


服を縫い終え、ポーションを作り置きして準備完了! 周囲の街のスキルスクロールも、販売用にある程度の枚数を難波さんが買い集めてきてたし、在庫も十分...のはずだ。多すぎて売れ残る可能性もあるけれど。

きっと明日からは大量の初心者プレイヤーがポーションや装備を求めて店に来るだろうからね。私達第一陣プレイヤーには出来なかった「初期からスキルスクロールを使う」って事もできるし、是非そういう情報アドバンテージを有効活用してもらいたいものだ。

...願わくば、そうしてどんどん強くなって欲しい。第一陣が集めた情報をフルに活用して、効率よくね。

そんなプレイヤーがこの店に恩を感じて、店主の私とフレンドになってくれさえすれば...私は<友鏡喚(ミラーコール)>で召喚することが出来る。くくく、これぞ源氏物語戦法よ...!











翌日。10万人に近い初期プレイヤーがアイネールと南の森の間に広がった広場に一斉に出現した。

真新しい初期装備で身を包んだ色々な種類のプレイヤーがまるで大名行列のように大通りを練り歩き、アイネール中央広場の冒険者ギルドを目指して動く。


第一陣の初日もそうだったけど、今日から数日は「ギルド受付で直接やり取りしなくても、ギルド付近で表示されるポップアップを操作することでクエスト報告や転職を完了できる」という特別措置が取られるようだ。

私はミラ関係で違ったけれど、通常プレイヤーはまず冒険者ギルドへ行き、ギルドへの登録と初期職業[見習い~]への転職を行う。そこから散っていくのだ。


多くのプレイヤーは早速レベルを上げるために東の平原へ。自信のあるプレイヤーは東エリアをスキップして南の森へ。情報通なプレイヤーは西の初心者用ダンジョンの低階層へ。慎重なプレイヤーはまず消耗品や装備を揃えるために街並みを確認する。


そして今、雑貨屋ミラーウィッチは未曽有の大盛況を迎えている。



「会計3,500セルちょーだいするにゃ! 後ろつっかえてるから早く出すにゃ!」


「つ、次の方どうぞー...!」


「このインナーは...[見習い剣士]のあなたにはちょっと合わないわね。私がお勧めしていいかしら?」


「最後尾こちらになりまーす」



ミーナさん、エル姉がカウンターで清算し、時に商品選びをお手伝い。暇そうにしていたクロエもレジに放り込み、同じく暇そうにしていたショーイチには列整理をお願いした。思っていたより商品の売れ行きが早かったので、急遽私は商品補充だ。



「にゃ? 君これスキルスクロールだけど、お金持ってるのにゃ? 1枚15万...高いにゃよ?」


「大丈夫、ランダムアイテムで20万セル出たんだよ。運が良かったみたいで...へへっ」


「にゃ...それマジ? ポーションと初心者用ローブも合わせて18万飛んで...めんどくさいから18万でいいにゃ。早く出すにゃ」



クロエ...勝手に割引しないで...?

それにしても、なんだか会話が懐かしいね。ゲーム開始時に選択できる「ランダムアイテム」。私はそれで一度死を免れるアイテムである「生命珠」を引き当てた結果、なんやかんやあってミラと出会い、【鏡】を貰って[魔女]になった。そう考えたら私のこのゲームでのターニングポイントってそこだったんだろうなぁ...ゲーム開始直後だけど。


にしても、ランダムアイテムってそんなものまで出てくるのか...当時は「くず鉄」とか「よく分からない魔物素材」っていう残念な報告しか見なかったけど、まさか大金まで出るとは。確かに豪運だね。



「お前、どの子が好み?」


「いや、お前...究極の選択じゃねーか? こんなレベル高いの選べねぇって」


「だよな...黒猫の子も桜色の子もエグい可愛さだし、あのローブの美人さんもレベルが高すぎる...冗談抜きに国に数人レベルだ」


「分かる。んで、あの奥で作業してるっぽい魔女帽の女神が...」


「噂の「魔女っ子様」だろうな。そりゃ沢山のアイドルプレイヤーがいても話題かっさらっていくよなぁ...あんな綺麗で話題性抜群なのに、ネットでどれだけSS探しても一切出てこない謎の女神。他のプレイヤーを写したSSならめっちゃ検索にヒットするってのにな。

彼女を一目見るためにゲームを始めたやつが一体どれだけいるのか...」


「まさか、そんな不純な理由でゲーム始めた奴がいるわけ...いないよな?」



あー、私ってそんな感じで見られてたのか。うん、割と慣れてるんだけどね。

SSが出てこないのは仕方ない。周りの人が過保護だからね...



「ねぇ、握手してもらえた?」


「してもらえた! もー、一生手洗わないかもしれない!」


「VRだからね。手は洗わなくてもよさそうだけど、現実ではちゃんと洗いなさいよ?

にしても、まさかいきなり広場に現れるとはね」


「可愛かったなぁ...」


「あんた熱心なファンだもんねぇ」


「感激だよ! ネクサスと一緒に同じゲームを始められるとか...あぁ、握手の余韻がやばい。マギラトラ初めてよかったぁ」


「最近はあんまり噂聞かなかったからねぇ...」



他の女の子二人組が「ネクサス」について語っている。確か...二人組のVRアイドルだっけ?

名前だけなら知ってるけど...詳しいことは知らないなぁ。



「ネクサスかぁ...」


「ん? マリもネクサス聴くの?」


「...ショーイチも休憩?」


「うん。ある程度列整えたから、しばらくは崩れないと思うよ。...で、休憩がてらこっちに来たら、いきなりネクサスって聞こえてね」


「うん、最初の城前の広場に現れたらしいよ。第二陣のプレイヤーとしてゲーム始めたって聞こえてきて」


「...えっ、マジ? ...早急に色紙とペンを用意して...額縁はミーナさんに...難波...プリントアウト...」



何気ない私のつぶやきに反応して、お客さんから小耳にはさんだ情報をほんの少し伝えただけで、虚空を見上げながら思考の海に潜っていったショーイチ。

どうやらここにも熱心なファンがいたらしい。...にしても、彼がここまで何かに入れ込む姿はなんか新鮮だなぁ。大体ちょっと後ろから冷静に物事見つめてるタイプだと思ってたんだけど。



「...ショーイチもファンなの?」


「もちろん。VR空間で活動する二人組のアイドルなんだけど、彼女らは「歌って踊れて一緒にゲームも出来るアイドル」なんだよ。数々のVRゲームに現れては、しっかりとそのゲームをやりこむんだよ。それでいて歌も上手いし、時にはプレイ中のゲームに関わりのあるフレーズが歌詞に出てきたりしてね...ゲーム愛がすごく伝わるんだよ」


「そうなんだ」


「僕も前に彼女らとゲーム内でばったり出くわしてさ、その時パーティ組んでクエストに出かけたんだよ。そしたらびっくり、その時の僕ってネクサスのこと知らなかったんだけど、動きとかスキルの使い方、連携が抜群に上手くてさ...後からアイドルだって聞いてビビったよ」


「...ちなみに推しは?」


「究極の質問だね。そしてその質問に意味はない。碧依(あおい)た...碧依(あおい)ちゃんにも朱里(しゅり)ちゃんにもそれぞれ良さがあるし、どちらか一方なんて選べない。というか、片方だけ推してるファンなんて浅いね。二人揃ってネクサスなのであって、片方だけじゃ...」



...何気なく聞いた質問に、聞いてもない情報がくっついた長文が早口で返ってきた。ショーイチ...?

にしても、そんな二人組がいたのかぁ...それもこのゲームに第二陣として参加しているとか。いつか会えるといいなぁ。

そんなことを、未だに喋り続けるショーイチを見ながら漠然と思った。



「...と、言うわけであって...マリ?聞いてる?」


「もちろん」











数時間も経つと人も捌け、それでもいつもより人が多いけど、エル姉一人でもカウンターを回せるくらいには落ち着いた。きっと今頃、第二陣の人たちはいろんなところに散らばってレベルを上げているのだろう。

店の二階に移動して、少し休憩をとる私、クロエ、ショーイチ。ミーナちゃんはまだ働いているエル姉の手伝いをしてくれている。



「それにしてもプレイヤー増えたにゃあ...過去イチで忙しかったにゃ...」


「これから楽しくなりそうだね。僕もうかうかしてられないや」


「また一気に盛り上がりそうだね」



とんでもなく忙しかったけど、色んな人を見れてよかった。一気にプレイヤーの人数が5万人から15万人と3倍に増えたわけだし、色々な新しい発見がどんどん見つかっていくんだろうなぁ。楽しみだ。












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