46 北へ
更新一回分、ちょっとだけお休みしてもいいですか?
次回投稿 2019/09/15 20時
「なんつーかよ」
「なんにゃ?」
「いや、なんてこたぁねーんだけど...この4人で集まるのも久々だな、と思ってよ」
「あぁ、それ僕も思ってたよ」
「案外センチなんだね、グレン」
アイネール北の山奥地を進む4人のパーティ。最近は色んな都合で4人全員が集まる事はなかったけれど、しばらく前に行われたイベント「魔物討伐戦」では7位という優秀な成績を残したパーティ、[猫魔女の集会]。いつもの私達4人組だ。
ダンジョンを攻略した次の日...だったかな? 4人全員の戦闘装備を気合入れて作ったんだけど、今日は皆そのばっちばちにキマってる装備を着てこの遠征に赴いている。
何故なら、未だ攻略されていない北のエリアボスを私達で攻略するからだ。
東は[拳士]のローさん、南は[木魔術師]の枕草子さん、西は[双剣士]のイザム。名だたるトッププレイヤーたちが解放したアイネール周辺だけど、この度、満を持して、重い腰を上げた私たちが攻略するのだ。
「タイミングが良かっただけなんだけどね」
「にゃ、新技を試すにゃ」
「その辺の魔物じゃ物足りないからね。自分のスキルがどれだけ通用するのか、とても興味深いね」
「俺は...特に新技とかないが」
黒と白、そして銀の統一感ある装備を纏った4人が、他愛もない話をしながら若干整備された登山道のような曲がりくねった道を進む。
ひらひらとその存在感をアピールする私たちの戦闘服には、全て<紋章術>による強化が為されている。効果付与に使ったアイテムはダンジョン奥の悪魔がドロップした「魔銀」...ゲーム開始1ヵ月そこらにしては優秀な防具が出来たと、大部分作った私、細かい装飾を作った[細工師]のミーナさん、鎧部分の[鍛冶師]カーネルさん、ガヤ入れの[木工師]義太夫さん共々、皆して鼻高々だ。名前はショーイチとクロエに付けてもらった。
※
<SR+> 砲撃用 [鏡の魔女]
今まで使っていた「薄手の黒ローブ」をベースに、美しく輝く銀の十字線をあしらった長いローブ。
細かな装飾があちこちに為されており、価値も高い。
黒に銀の十字線のとんがり魔女帽、真っ白なフリル付きブラウスにチェックのミニスカートがセットになっている。
<紋章術>付与→魔攻上昇(中)、魔法強度上昇、敏捷低下(大)
新しい私の戦闘用装備だ。デメリットもあるから普段使いは出来なさそうなのが難点かな...
付与された効果は「魔攻上昇(中)」と「魔法強度上昇」。「魔攻上昇(中)」によって魔法攻撃の威力がそこそこ上がり、「魔法強度上昇」によって魔法攻撃自体が打ち消されづらくなっている。<反射>とか割れにくくなるからいい感じ。...割れたことないんだけどね。
その有用な効果とバランスをとるように「敏捷低下(大)」というデメリットが付いた。動けないけど威力は高い、まさに砲撃用と言った装備だ。
※
<SR+> 斥候用 [送り風]
身体に張り付くような黒に銀の十字のインナーに、同じく黒に銀の線があしらわれた丈の短い和服を合わせた忍者風装備。
口元を隠す長いマフラー、腰に付けた投擲用ナイフ用のバッグとセットになっている。
<紋章術>付与→敏捷上昇(中)、気配遮断(極小)、マフラー延長、防御低下(中)
着てる本人が小柄で凹凸が少ないからあんまりセクシーにならないけど、結構ちらちらと色々見える。見えたところでインナーで隠れているけど。
子供心を忘れないクロエが「絶対外せないアイテムにゃ!」と懇願してやまなかった口元を隠す長い布は、長すぎて地面すれすれ。素早く動いたときに尾を引くように黒い線が延びるのが、本人曰く「とてもかっちょいい」らしい。
...まさかそのマフラーをよりかっこよく見せるために、「マフラー延長」なんていう謎エンチャントを貴重な魔銀を使ってさせられるとは思わなかったけど、本人が満足そうだから良しとした。
付与効果は「敏捷上昇(中)」、「気配遮断(小)」、マフラー延長。デメリットは「防御低下(中)」。より素早さを追い求める、彼女らしい装備になった。
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<SR+> 狙撃用 [森の眼]
黒に銀の十字をあしらった神父風の装備。装飾は少なく、とてもシンプルにまとまっている。
<紋章術>付与→射撃威力上昇(中)、射程距離上昇、近接攻撃低下(大)
「僕は、そうだなぁ...シンプルなデザインがいいなぁ。神父服とかいいかも」という要望から生み出されたショーイチの装備。デザインをすっきりまとめた結果、説明文すらすっきりした。
付与効果は「射撃威力上昇(中)」、「射程距離上昇」。デメリットは「近接攻撃低下(大)」。近接攻撃を捨てることで長所をさらに伸ばした、欠点を補い合うパーティプレイならではの装備になった。
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<SR+> 防撃用 [動く鉄壁]
動きを阻害せず、出来るだけ衝撃を吸収するように編み上げた上下セットのインナー。
魔銀を少量含んだ鉄製の黒い軽鎧とセットになっており、精緻な銀の装飾が施されている。
<紋章術>付与→魔防上昇(小)、敏捷上昇(小)
弱点を減らしたいという要望から作られた全身用のグレンの軽鎧。鎧部分はカーネルさんが作って、ミーナさんが装飾した。
私が作ったのは鎧の下に着るインナーだけだけど、出来るだけ動きを阻害しないようにしたり衝撃を吸収できるようにしたりと工夫を凝らしてみた。外からは一切見えないんだけどね。
カーネルの作った鎧には魔銀が少量含まれており、鉄に比べて少し黒ずんでいる。おかげで銀の装飾が映えて見えて、とても芸術的。
付与効果は「魔防上昇(小)」、「敏捷上昇(小)」。上昇効果を抑えることで、デメリット効果を何とか回避した。
※
控えめに言ってガッチガチの装備だ。アイネールで私がやっている「雑貨屋ミラーウィッチ」で最近販売を始めた「エンチャントされたアクセサリー」のお守りのように付与された効果ですら珍しいのに、何だろうこの贅沢な付与効果の数々は。
まぁ、魔銀使い切っちゃったからしばらく同じレベルの付与は出来そうにないんだけどね。
「にしても、ここの敵も厄介だよなぁ...出来れば盾で防ぎたくないんだが?」
「にゃ...あちしも短剣使いたくないにゃ...」
「言ってる暇ないでしょ! <風刃>!」
「<光矢>!」
グレンとクロエの前衛コンビがやる気をなくしている間に、ショーイチの風の刃が亀形魔物の表面の岩を剥ぎ、私の光の矢が傷をつける。魔法でもこれって...堅すぎない?
北の岩場奥地には子供くらいの大きさの亀が主に出現する。その名も「岩亀」...安直だ。そんな安直な名前のくせにやたら堅いのがとてもしんどい。
「グレンー、私動けないよー」
「あぁ...仕方ねぇか...」
私の方に飛んできた岩の弾丸をグレンが渋々その大盾で弾くと、ゴガン!という重い音が周囲に響く。たった一発の岩の弾丸を弾いただけでこれなら、盾が使い物にならなくなるのも時間の問題かもしれないね。
私?敏捷下がる装備だからね。避けられないよね。
こんな凶悪な攻撃をしてきたのが誰かと言うと、一つ手前のエリアである北の岩場に登場した「岩トカゲ」だ。前のエリアでは素早く突っ込んできて物理攻撃を仕掛けてきた岩トカゲさんも、このエリアでは土系の魔法を飛ばしてくる厄介な砲台にジョブチェンジ! 岩亀が守り、岩トカゲが魔法で攻撃してくるという連携技を披露してくれる。
控えめに言ってめっちゃ鬱陶しいね!
「あぁ、俺の盾が...!」
「にゃ...四の五の言ってられないにゃね...<速昇>」
「<風矢>! うん、いい加減面倒になってきたね...クロエ! これ頼む!」
「にゃ?」
短剣を一つ使いつぶす悲壮な覚悟を決めたクロエに、やたら堅い敵にしびれを切らしたショーイチが鈍く光る何かを投げつける。なんだろうあれ...石っぽく見えたけど。
「敵の真ん中に放り投げて火系の魔法を当てたら、すぐに僕らのとこに帰ってきてね!」
「にゃ? ...りょーかいにゃ」
クロエが敵陣の方に向かったのを確認すると、ショーイチが私とグレンにササっと近づき一言。
「敵、無視して駆け抜けよう」
「了解」
「仕方ねぇな!」
二つ返事で了解するとダッシュで敵とは逆方向、エリアボス方面に駆け抜ける。
数秒後、クロエの飛び込んだトカゲと亀の群れから轟音。「に"ゃー!」という声も聞こえた気がする。
この堅い敵とまともに戦ってたら日が暮れてしまう、仕方のない犠牲だったんだ...
私達は後ろを振り返ることなく駆け抜ける。
「中々優秀じゃないか...買っておいて正解だったね」
そんなショーイチのつぶやきが聞こえた。




