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45 レンヴァイツに巣食う悪魔

ショーイチ君の3部作、これでやっと終わります。ちょっと冗長だったかな...


次回投稿 2019/09/09 20時









『下がれ信者ども』



くぐもった声が広場に響く。平伏していたレンヴァイツの住民たちは、その声が耳に入ると同時に側面の壁に移動していく。まるで意思を感じさせないその動きは、洗脳されているのか、あるいはゾンビ的な何かか...



『...何者だ? 信者ではなさそうだが』



立ち上がった黒ローブの声が、謁見の間に正面から入った僕らを誰何(すいか)する。くぐもってはいるけれど、思っていたよりも若い声だ。



「通りすがりの森人(エルフ)と[商人]だけど、君こそ何者? <邪術>使ってたよね」


『...なるほど、正体は掴まれているということか。私を悪魔だと知って、尚も楯突くか』


「ホンマに悪魔とかおったんや...」


「単刀直入に聞くけど、ここで何やってるの?」


『...弓を引きながら聞いてくるやつに、それを答えるとでも?』


「詠唱しながら言われてもねぇ」



玉座の前に立つ黒ローブの悪魔が、その目の前にいくつかの暗い色の魔法陣を出しながら語り掛けてくる。やる気満々だね。

それにしては、なんかこう...プレッシャーがないというか...



『小手調べと行こう。<黒土球(アースボール)>』


「難波は下がってて!<風球(ウィンドボール)>、<風矢(ウィンドシュート)>!」


「はいよ!」



ものすごい上から目線のセリフと共に黒い土の塊が数発襲い掛かってくる。避けきれないわけじゃないけど、今のうちに試すべきことがある。

マリから聞いた<邪術>の情報によると、どうやら普通の魔法に比べて消費MPが多い分威力が高いのが特徴らしい。


いくつか放たれた<黒土球(アースボール)>の一つに<風球(ウィンドボール)>を当てる。<風球(ウィンドボール)>がかき消され、軍配は<黒土球(アースボール)>に上がった。準備していた数発の矢を当てて相殺しておく。

一方、別の<黒土球(アースボール)>に当てた<風矢(ウィンドシュート)>は綺麗に相殺された。

概ね予想通りかな。


ちょっと後ろから「ヒョーッ!」という歓声のような難波の声が聞こえる。腹立つけど楽しんでくれているようだ。

まぁ、彼がいるなら万に一つも負けはない。ここは対悪魔リベンジのために少し下がっていてもらおう。






◇◆◇






「<速射(ラピッドシュート)>!」


『ふん、<黒土壁(アースウォール)>』



ショーイチはんが放った高速の矢は、黒ローブの目の前の地面からずいっと現れた黒い壁に阻まれた。正に「技の応酬」って感じで見てて楽しい。

にしてもさっきの<黒土球(アースボール)>といい、あの黒い魔法が例の<邪術>やろか? <黒土壁(アースウォール)>...確か<土壁(アースウォール)>が<土魔道>のLv10だったはずだ。

壁で視線が遮られた隙に移動しながら矢を撃つショーイチを見ながら、僕は悪魔の魔法について考察する。



『木っ端の矢なぞ...<黒土矢(アースシュート)>』


「<風矢(ウィンドシュート)>、<通撃(ペネトレイトシュート)>」



<風魔術>と<長弓術>で迎え撃つショーイチはん。わざわざ撃ち落とさんでも、いっそ避ければ楽なんちゃいますか? またいつもの悪癖がでてませんかね...?

<黒土矢(アースシュート)>の元となったであろう<土矢(アースシュート)>は<土魔術>のLv10。<邪術>による魔法の強化を見越して、ショーイチはんは二つの技能で迎え撃ったのだろう。


ショーイチはんの放った緑色の風の矢と直進する一本の矢は、思惑通り黒い矢を突き破って悪魔に襲い掛かる。



「魔法戦って派手やなぁ...」



壁の端で何故か気絶し倒れたNPCを見ながら(ひと)()ちる。戦闘開始直後にはもう倒れていたみたいだけど、原因はようわからんかった。


遠目に見えるショーイチの緑と黒ローブの黒が乱れぶつかり合うさまを見ながら、一大スペクタクルやなぁ...なんて思っちゃう。闘技場なんて作って興行したら、案外受けそうやね。



「うーん...それにしても風と土じゃ、やっぱ相性悪いんやろな...」



ショーイチの使う風系の魔法は威力は低いが素早い攻撃を得意とする系統で、対する黒ローブの使う土系の魔法は防御重視の系統。ショーイチには弓もあるとはいえ、話に聞いた<邪術>による魔法効果の上昇も含めてその守りを破るのは容易ではないのだろう。見ている限り、ショーイチは押され気味のようだ。



『猪口才な...<黒土壁(アースウォール)>、<黒土矢(アースシュート)>』


「ふっ...! <連射(シュートラッシュ)>!」



元々耐久力の低い森人(エルフ)らしいステータスのショーイチだ。一撃でもあたると大きくHPが削れてしまうけど、敵の攻撃を避けながらうまく距離を取って戦っている。

それに対して黒い土の壁を作り、それに隠れてリーンしながら戦う黒ローブの悪魔。気になるのは、さっきから<黒土矢(アースシュート)>、<黒土壁(アースウォール)>。たまに<黒土球(アースボール)>くらいしか使っていないことかな...他の土の<邪術>は使わないのだろうか?



「暇やなぁ...」



外から見る分には楽しくて飽きないんやけど、なんというかこう...

気配を抑えるポーションを使用し、ヘイトが来ないように部屋の端っこで観戦している僕でも分かる。

さてはコイツ...悪魔にしては弱いんじゃ...?


なんて考えていたら、停滞していた戦場がいきなり動き出した。流石に相性悪かったみたいやね。

ショーイチはんは嬉しくないでしょうが、仕方ない。ここはいっちょ動くとしますか。







◇◆◇







『中々耐えるではないか、木っ端よ。<黒土矢(アースシュート)>』



もう何分戦っていただろうか...結構長く戦っている気がする。新品だったローブはところどころ破れ、仮面は一部欠けてしまっている。気に入ってたんだけどなぁ。

削れたHPをポーションで誤魔化しながら、敵の攻撃を避けて避けて弓を撃つ。狙い通りに突き進む矢は、黒く堅い土の壁に阻まれる。


このまま消耗戦を続けたとしたら、間違いなく先に力尽きるのは僕の方だろう。あの黒い壁を突破しないと有効打が与えられない...でもそれを突破する高火力の技を僕は持っていない...軽く詰んでるね。



「このままじゃ厳しいか...」


『考え事か?』


「なっ...!」



悠長に考え事をしていたら、黒ローブの悪魔がずっと隠れていた黒い壁から飛び出し、僕の懐に飛び込んできていた。近距離はまずい...! 咄嗟に弓を捨て、サイドアームとして装備していた腰のナイフを手に取って、ろくに育てていなかった<剣術>を使う。



「くっ...<剣撃(スラッシュ)>!」


『私の勝ちだ!<黒土剣(アースソード)>!』



黒ローブの悪魔が振りかぶった手の先の空中に黒く長い剣が生み出され、僕の真上から振り下ろされる。やっぱり他の術も使えたのか...!

ナイフじゃリーチが短い。<剣撃(スラッシュ)>では<黒土剣(アースソード)>に対して威力が低い。こうならないように距離を取って戦っていたというのに、失態だ...八方塞がり。


これは...僕の負けだ。



「<魔術購入/鏡(パーチェスミラー)>...」



あぁ、()()から悪魔のささやきが聞こえる...なにがやばいって、この悪魔はこちらが了承せずとも対価をかっぱらっていくから始末に負えない。おかげで勝てるからいいんだけどさ...

魂どころか、財布の中身まですべて取られてしまうんじゃないかな...



「<反射(リフレクト)>!」



見慣れた銀の鏡が僕と黒い剣を隔てる。振り下ろされた剣は鏡に当たってそのまま逆回転し、黒ローブの悪魔をざっくりと斬りつける。

そんな見慣れた銀の鏡だけれど、使ったのは美少女ではなくエセ関西弁のおっさんだ。



『ぐぬあぁああっ! 一体何が...!』


「ツケでっせ、ショーイチはん」



切り裂かれた悪魔が苦悶の声を上げる。そりゃいきなり振った剣が自分を斬りつけたんだし、困惑して当然か。


Magiratora(マギラトラ)において、固有スキルを持つ数少ないプレイヤーであるマリ。そんなマリからコピースクロールを貰った人は数多くいるけれど、その中でも【鏡】を貰った人間は両の指で数えられるほどしかいない。そのうちの一人が後ろから囁いてきた悪魔...難波だ。



「これ以上ソロだとツケがさらに増えそうだ...後は任せた」


「りょーかいですわ」



アイネールで流行っている「水餅」が<調理>と【水】の産物であるように、コピースクロールは戦闘用のスキルとしか組み合わせられないわけではない。

【鏡】を手に入れた彼は、その希少なコピースクロールを生産系スキル<商売>と組み合わせた。その結果生まれたのが...<魔術購入/鏡>。彼がたった1人でも行商を成立させることが出来る大きな理由の一つ。


<魔術購入/〇(パーチェスマジック)>

指定された所持金(セル)を支払うことで、MPを消費せず魔法を使用することが出来る。

使用できる魔法は、魔術購入に続く「〇」の属性のみ。


なんとこのスキル、お金を払うだけで無料で魔法が使えるのだ! なんとも羨ましい。

この支払った金額が後で僕に請求されると思うと胃が痛いね...マリのとこでバイトしなくちゃ...



「<魔術購入/鏡(パーチェスミラー)>-<鏡値(ミラーステータス)>」


『な、なんだ貴様...! <黒土壁(アースウォール)>!』


「弓と矢と小爆石、<細工>っと、<通撃(ペネトレイトシュート)>!」



不利と見た悪魔は急いで距離を取り、またも<黒土壁(アースウォール)>で身を隠す。

難波は味方のステータスを一つ自分にコピーする<鏡値(ミラーステータス)>を使った後に、手元にインベントリから[商人]らしく販売用の弓と矢を1セット、洞窟に入る際に使った爆発する石の「小爆石」を取り出した。

<細工>で矢の鏃に手早く小爆石を括りつけると、<長弓術>のLv15、射出した矢に強い貫通効果を持たせる技能<通撃(ペネトレイトシュート)>で撃ちだす。<鏡値(ミラーステータス)>でコピーしたのは、僕の職業[長弓師]か...



貫通力を得た矢は、黒い土の壁にサクっと刺さる。何を勘違いしたのか、悪魔が嗤う。

僕もさっき落としたお気に入りの弓を拾い、準備する。



『む? なんだ、一太刀浴びせてきたから警戒したが、我が盾を破壊するにも至らぬ弱――』


「/起動(アクティブ)


『バアァアッ!!』


「...<縫矢(ソーアロー)>」



小爆石を起動し、壁ごと爆破させる難波。インベントリに蓄えられた数々の商品を上手く扱い、時に<細工>などで組み合わせ、<アイテム操作距離延長>などのスキルでステータスの低さをカバーする...これが難波の[商人]らしい戦い方だ。

僕は壁ごと吹き飛ばされた悪魔に狙いを定め、放たれた矢が敵を貫き地面に縫い留める技能<縫矢(ソーアロー)>で行動を少しでも封じる。


そんな悪魔に投げ込まれたもう一つの小爆石。「うひゃー!」なんていう歓喜の雄たけびが後ろから聞こえる。どんだけ使いたかったんだよ難波...さっきからそればっかだよ...


避けられず、遮蔽も無い状態で爆破を食らう悪魔。残り少なかったであろうHPはいともたやすく吹き飛ばされ、その場に残ったのは小さな「魔銀」。ダンジョン奥の悪魔の時も同じ魔銀だったね。

マリへのお土産が増えた。


きらきらと輝く鏡の破片が、悪魔の討伐を讃えるかのように僕の周りを舞った気がした。




『悪魔を討伐したため、称号【悪魔を屠りしもの】を獲得しました。』







◇◆◇







悪魔が倒されたことによって、倒れていたNPC達が一斉に目を覚ました。

話を聞いてみると「何故こんなことをしているのか分からない。けれど、漠然と自分が何をしていたのかは理解しているし、記憶もある」...そんな感じやった。

恐らく精神支配で崇拝させ、力を貯めていたような感じやろうか...この運営ならやりかねない。ちゅーか、同じような事件が昔のゲームでも起きてたような気がする。プロデューサー同じやし。



レンヴァイツまでは地下空間と繋がる領主館までの地下通路を通って帰った。これは後から聞いたことなんやけど、睨んだ通りあの地下通路は緊急時用の経路だったらしい。



そしていの一番にレンヴァイツに戻った僕らを出迎えてくれたのは、やたら厳めしいツラしたおっさんの領主。一時と言え、いなくなってしまった娘が心配だったのだろうね。

おっさん領主ががっつり犬の獣人(ハーフビースト)でビビった。領主の娘には一切犬っぽいパーツないから気にしてなかったんやけど...本当に親子か?ってツッコミ入れたくなるくらいには似てない。まぁ、親子関係にツッコミ入れんのも野暮やし。

かなり溺愛しているのだろう、連れ帰った時は文字通りワンワン泣いてた。



そんな領主の娘が被害者に混ざっていたこともあり、レンヴァイツまで戻った後におっさん領主から直々にクエスト報酬を貰うことになった。報酬はそこそこまとまった金額と、今話題の「トレーススクロール」。

僕の方は「【火】のトレーススクロール」やったけど、ショーイチはんの方は違ったらしい。なんや残念そうにしとったけども...僕の方は<魔術購入>の種類が増えてホクホクですわ。



それに加えて娘を守ってくれたお礼として、他にもひとつ要望を聞いてくれるとのこと。クエストの「サブターゲット報酬」と言ったところかな?

僕は「商売関係で色々と便宜を図ってもらえる権利」を貰った。領主というコネで大店とも取引できそうだし、新たな販路も築ける。解放されていないエリアの商品を先んじて手に入れられる可能性があるなら、そっちの方がワクワクするし。

ショーイチはんは特に欲しいものは無かったみたいだけど...今後面白そうな情報が入ったら教えてほしいという何ともあやふやな要望を伝えていた。「別に面白い情報なんてなかったぞ」なんて言われたら教えてもらえなくなるような、ある種「信用」を引き合いに出したような報酬やけど、娘の恩人にそんな無体な真似はするやろうか...中々、領主としてはしんどい報酬をせがんだね。



「思ってたよりもヘビーなクエストだったね...」


「悪魔倒した後の方がしんどかったですなぁ...」



おっさん領主さんと領主の娘さんの二人と、何やら豪華な部屋で話すのが異常にしんどかった。悪魔の話をするも、領主からは胡乱げな目で見られるし...特にショーイチはんが。

そりゃボロボロのローブの仮面の男だし、納得の怪しさやね。挙句の果てには「娘を催眠して乗り込んできた、お前が本物の悪魔なんじゃなかろうな」なんていう言葉も飛び出す始末。

...おかげさまで納得してもらうまでに骨が折れた。


そんなクエスト後の雑事を終わらせた僕ら二人は、さっさとアイネールに帰ることにした。

すっかり暗くなった道すがら、ショーイチはんはいつの間にやらいつもの優男感ある服装に着替えていた。手には戦いの中で欠けてしまった「大輪の花の仮面」。

まるで花弁が一つ散ってしまったようなそれを、「気に入ってたんだけどなぁ...」と残念そうに見つめていた。



「マリはんとこの[細工師]のミーナはんなら、その程度直すのも余裕ちゃいます?」


「難波...お前、分かってて言ってるよね?」


「そりゃあもう、ばっちり」



<魔術購入>の使用代、小爆石3つ、その他諸々...10万飛んで200セル。きっちり耳揃えて返してもらいましょ。













領民のために一人で悪魔と戦い、傷つきながらも仲間の手を借りて討ち倒すに至った英雄。

まるでカラスの羽のような暗いローブを身に纏い、華のように美しい仮面を戴く長弓の勇者。

きっとこの日を、私は忘れないだろう。

ついぞお顔を拝見することは叶わなかったけれど、今後も来てくれるらしい。楽しみだ。


手元には、あの地下で拾った花弁が一欠け。宝物が一つ増えた。
















◇◆◇ 新登場スキル ◇◆◇



▼武術系スキル

 ▽長弓術

  <通撃(ペネトレイトシュート)> Lv15

  貫通力の高い矢を放つ。

  

  <縫矢(ソーアロー)> Lv20  

  敵の一部を貫き、地面や壁に縫い留める効果をもった矢を放つ。

  普通にあてるだけでは効果がなく、縫い留められそうな部位や状況でないといけない。



▼邪法系スキル

 ▽土邪道

  <黒土球(アースボール)>

  <黒土壁(アースウォール)>

  <黒土剣(アースソード)>


 ▽土邪術

  <黒土矢(アースシュート)>


▼魔法系Exスキル

 ▽<魔術購入/鏡(パーチェスミラー)>

  指定された所持金(セル)を支払うことで、MPを消費せず魔法を使用出来る。

  使用できる魔法は<鏡魔術>。<魔術購入>のSLvと同Lvまでに覚える技能を使用可能。



▼便利系スキル

 ▽アイテム操作距離延長

  コマンド(「/起動」など)で操作可能なアイテムの距離上限を延長する。












犬の獣人を父親に持つ娘...仮面の欠片...匂い...ハッ!


最後の方にある「この運営ならやりかねない」については、過去話「17 ◇掲示板◇ その3」の吸血鬼オンライン関係でほんのちょっとだけ触れられています。

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