5 スキルと街歩き
街を歩きはじめる前に、<地図>を有効化した方がいいかも?と思った。
そもそも<地図>がどんな効果なのか、正直よくわかっていない。けど、初期スキルはSP1で獲得できたはずだ。
歩き回ってスキルレベルが5になれば元が取れる...取っちゃおうかな...
SP余ってたっけ?
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<マリカード> ヒューマン ♀ Lv5
職業:鏡魔術師 SP:2
▼装備
<N> 旅人のローブ
<N> 旅人のシャツ
<N> 旅人のズボン
<N> 履き潰れた靴
▽有効スキル
▽魔法系スキル
水魔道 Lv6 鏡魔術 Lv5
▽生産系スキル
服飾 Lv1
▽便利系スキル
目利き Lv7
▽パッシブスキル
魔攻微上昇 Lv3 魔防微上昇 Lv3 物防微上昇 Lv3 器用微上昇 Lv2 敏捷微上昇 Lv2
▽称号
【合鏡の邂逅】
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▽取得可能スキル一覧(残SP:2)
▽武術系スキル
剣術 盾術 杖術 弓術 槍術 鞭術
▽魔法系スキル
火魔道 風魔道 土魔道 精霊術
▽生産系スキル
採取 伐採 採石 解体 鍛治 木工 細工 調合 釣り 料理
▽便利系スキル
地図 威嚇 夜目 察知
▽パッシブスキル
物攻微上昇
<精霊術>以外は初期スキルなのでSP1で有効化出来る。
<精霊術>は解放された1次スキルらしく、SPが3必要になるようだ。
ショーイチが持っていた<風読み>も同じ「解放された1次スキル」だったようで、同じようにSPが3必要と言っていた。
加えて「有効化に必要なSP的に、初期スキルは1次スキルの一個下なんじゃないかな?」って言ってた。なんだかそれっぽい。
考えが逸れたけど、とりあえず地図取ってもいいかなぁ? ついでにSP1残るし、他にも何か取ってもいいかも?
そういえば地味に<目利き>して気が付いたんだけど、私が採った薬草の品質は全部「E-」。それに対して<採取>Lv3のグレンが採取した薬草のうち、いくつかが品質「E」だった。高い品質の素材を手に入れるには、そういったスキルをとる必要がありそうだ。
ってことは
採石→鉱石系?
伐採→木
採取→薬草とかの小さな植物?
釣り→釣った魚?
解体→魔物の素材? ドロップアイテムかも?
という感じで影響があるのかも?
うーん、確証が得られないから、何とも言えない...
他のゲームならスキルに<鑑定>使って説明読むんだけど、このゲームまだ<鑑定>がないのよね...<目利き>、頑張って早く進化してくれ...
<解体>が魔物の素材の品質に関わってくるとしたら、服作りがやりたい私にとって割と重要かな?どうせならいい布地とか毛皮とか使いたいし。
ということで、今回は<地図>と<解体>を取ることにしました。スキル効果も憶測だけど、どっちみちスキルレベルが5になったら元が取れる。
さぁ、やることもやったし、思う存分歩き回るぞ!
※
まずは冒険者ギルド登録と、拾い集めた素材の買い取りを済ませてしまおう。
折角だし受付嬢さんと直接やり取りして登録したいところだけど、あの長い列に並ばないといけないようで...パッと見、待ち時間はだいたい1時間くらいかな?
時間もったいないし、今回は開始から数日限定でギルド付近でポップアップするウィンドウを用いて、お手軽にギルド登録を終わらせることにした。
ギルド付近で無言で突っ立って、空中で指を振り続ける怪しげな異邦者の集団に紛れこみ、ぽちぽちと登録を済ませる。気のせいならいいんだけど、街のNPCが胡乱げな表情でこっちを見ている気がする。
なにやらギルドに関するチュートリアルも含まれていたようで、軽く読み流していく。言っちゃアレだけど、大部分のシステムは他のゲームと大差ないし。
そんなチュートリアルの中にもいくつか情報が紛れていた。素材の品質についてだ。
『素材の品質は「E」(最低)から「A」(最高)までの5段階に、各値‐、無印、+の3段階を含めた15段階。さらに品質「A+」を超えるものは「S」となるため、全16段階となります。
また、この品質の良し悪しによって市場価値が変化し、「E-」と「A+」では8倍の差があります』
ということだった。
これ、素材の品質上げるスキル最優先で取ってもいいかもしれないね。8倍は大きいよ。
チュートリアルを終わらせ、ギルド登録を完了させると
『ギルド登録が完了しました。称号【Fランク冒険者】を取得しました。』
『「ギルドカード(F)」を入手しました。』
とログが流れたので、そのまま素材の買い取りに進む。
どうやらこのギルドカードに所持金が入っているようで、この中世の世界観に似合わず、街の住民はみんなカード決済しているようだ。
なるほど。龍王の咆哮でゲーム開始とともにプレイヤー全員(一人除く)死に戻ったけど、ゲーム開始時の所持金がここで渡されるから、死んでもお金落としたりしなかったのかな。
素材買取も登録と同じで、数日はギルド前ぽちぽちで完了できる。風情もへったくれもないけれど、薬草と色んなドロップアイテムを全部売る。『犬猪の毛皮』とか服作りに使いたかったけど、皮を鞣す作業が必要のようで、今のままでは手に負えないね。
初期の資金に加えて、そこそこの金額がたまった。具体的には2万セルと少しくらい。
この資金を元手に、服飾に必要な道具を揃えるんや...!!
ということで、道具屋に向かうことにした。
※
道具屋に向かう途中も寄り道を欠かさない。なんてったって<地図>のレベルを上げたいからね!
ぶっちゃけた話、<地図>の効果はまだよく分かってない。プレイヤーの視界には現在HPとMPのバー、現在のレベルと経験値が邪魔にならないところに表示されている。ただそれだけなのだ。
常に表示されるミニマップとかないし、地図っぽい持ち物もない。もしかすると、どこかでアイテムの「地図」を手に入れたときに初めて効果が分かるのかもしれない。
歩き回るだけでレベル上がるのは不思議だけどね。
大通りはもちろん、その裏の裏の裏道までしっかり歩く。さすが超大作VRMMO、そんなに人が寄り付かないような街の隅っこでも、人の生活や息遣いが感じられる。細かいところまで現実と変わらないリアルさだ。
感心しながら歩いていたら、前から歩いて来た男と肩がぶつかる。
「ッ! すみま...せん」
「おっと嬢ちゃん、すまんね」
そう言いながらそそくさと歩いていく男。私はとっさに謝ったけど、途中で気が付いた。
ぶつかった瞬間、私はいつの間にか手の中に紙切れを握っていたのだ。
私の灰色の脳細胞が、瞬時に答えをはじき出す。「クエストの匂いがしますねぇ...」と。
きっと私にぶつかった彼は手紙の運び屋かなんかだったのだろう。そして、他の誰かに気づかれないように手紙を渡した。
私は何食わぬ顔で歩き出し、数分の後に手紙を読む。
―――薬屋「ポアロ」の裏口から入ってきたまえ。
目的地が決まった。
※
色々な場所に寄り道しながら、薬屋「ポアロ」を目指す。
道中寄った道具屋で、念願の裁縫キットを見つけた。
▽初心者用裁縫キット(生産用アイテム)---4000セル
初心者が<服飾>を始めるのにぴったりな裁縫キット。
簡単な作業に適した道具が揃っているが、品質は低い。
レア度の高い素材には歯が立たないため、ある程度上達したら買い替えよう。
4000セル!もちろん買います。
ついでに品質Dの糸も売っていたので迷わず購入。道具屋の店主曰く、布は近くの呉服屋のほうが品質がいいと教えてくれたので、呉服屋で布を適当に見繕った。
ほぼ現実と変わらない再現度のフルダイブゲーム。感触もしっかりと再現されていて、もちろん服を着ている感触もしっかりとある。
だからだろうか? 中世風の世界観といえど、明らかにこの時代に本当にあったの?と聞きたくなるような繊細な織物がしっかり網羅されていた。
防水できるもの、伸縮性の高いもの、肌触りがいいもの。尚且つお手頃価格を選び抜き、そこそこの量を確保した。締めて1万セルでした。
そんなこんなをしながら進んでいると目的地についた。薬屋「ポアロ」の裏口だ。
私はそっとドアを開け、すっと中に入る。
「おじゃましまーす」
何か聞こえる。...そのまま奥の部屋まで行けばいいそうだ。
靴を脱ぎ、廊下を進む。一番奥の扉を開けると、なんだか不思議な匂いが溢れてくる。
色んなものが乱雑に積まれているが、不思議とそれが心地いいような不思議な感じの部屋だ。その真ん中奥、3人掛けのソファの真ん中には、私を呼んだであろう小柄なおばあちゃん。
「ひーっ、やっと来たかい。あんまり、年寄りを長い事待たすもんじゃないさね」
「えっと、ごめんなさい」
「別にいいさね、いきなり呼んだのはこっちだからね」
古いけれど、それでも上等なものだと一目で分かるローブを羽織っているおばあちゃん。
壁にさきっちょがとんがってる黒いつば広帽子が掛けられている。
あぁこれ分かっちゃったわ。100%魔女だわ。
「残念だけどね、あたしゃ魔女じゃないよ」
「!?」
「心読んだのも魔女っぽいって? 馬鹿言うんじゃないよ」
「...」
「ん? 何でって、そりゃ流石に分かるさ。そんな熱心にこのローブ見て、壁の帽子見てなに勝手に納得した顔してるのさ?」
「...顔に出てましたかね」
「顔というか視線さね」
「...ところで、私になにか用事があったのでは?」
「いきなりだねぇ...もう少し年寄りの話に付き合ってくれてもいいじゃないのさ?
最近の若いもんはこれだから...」
「...」
「分かった、分かった...せっかちな娘さね...
んんっ、あたしはこの薬屋「ポアロ」の店主、クリスティと言う。クリスとでも呼んでくれ。年は忘れちまった」
「マリカードと言います。マリとお呼びください。鏡魔術師です」
「鏡、ね...道理で精霊の匂いがすると思ったよ。くっくっくっ」
どうやら魔女ばあちゃんのクリスは、ギルド前で登録をしている最中の私を見つけ、精霊の匂いを感じたらしい。何者だこのばあちゃん。
あの時感じた胡乱げな視線はこれが原因だったのかな?
そして私を呼び出すと決めたおばあちゃんは、知り合いの男に手紙を届けるように手配したらしい。それがあの私にぶつかってきた男なのだろう。何故あんな意味深な渡し方をしてきたのかは分からないけれど。
「それにしても、鏡のがねぇ...」
「いい人でしたよ?」
「あぁ、いやいや。良いやつだってのは知ってるさ。だけどね、鏡のは他の精霊と違って、特に排他的で有名でね」
「排他的...?」
そうだったの?
割と最初からフレンドリーに接してくれた気がするけれど...
「まぁ、そうなるのも仕方ないのかもしれんが...」
「何か事情があったんですか?」
「そうさね...」
2019/4/19
クリスの喋り方を少し修正
内容に変更はありません