40 土地の使い道
次回投稿 2019/08/25 20時
「義太夫さん、店舗とか建てられませんか?」という問いに対し、義太夫の答えは
「カーネル共々、ぜひ建築させてくれ」だった。
※
土地購入の翌日、ログインしてフレンドリストを確認すると、既に義太夫さんとカーネルさんはログインしているようだった。
今日は3人で「マリカード新店舗の間取りを考えようの会」の日だ。早速フリマに向かう。
道中、例の水餅を売っている調理人が大通りで屋台を出していたので6個買っておく。1人2つ...というか、もしかしたら難波さんが何かを聞きつけてやってくるかもしれないし、予備は必要だろう。
買い込んだ水餅を持ってフリマへ急ぐ。私のスペースが見えてくると、既に3人座っているようだった。3人?
「おう、来たか嬢ちゃん」
「遅かったね主賓さん!」
「すみません、水餅買ってました」
「あ、あの、私も混ざって良かったんでしょうか...」
買ってきた水餅を配って席に着く。[木工師]義太夫に[鍛冶師]カーネル。そしてもう一人、桜色ショートヘアのウサギ獣人[細工師]のミーナさんだ。
「手伝っていただけるんですか? その、非常に助かるのですが」
「わ、私でよければ是非!」
「ミーナちゃん、一人で店舗を切り盛りするのがどうも苦手らしくてさ。ほら、接客とか」
「だからよぉ、嬢ちゃんって結構デカい土地買っただろ? 店舗のスペースをちょっと貸し出してもらうとか相談してみたらどうだって話よ」
私の購入した土地は大通りに面した割と広い一等地だ。昨日確認してみたけど、地図で見るよりも想像以上に広かった。具体的には2倍くらい想定と違った。
何が言いたいかって、そんな広々店舗を作ったところで商品がない。納入する金額を難波さんと相談して決めたときにこっそりと話し合った「各地を行商して手に入れた商品を置くスペースを借りたい」ということを考えてもまだ広いのだ。
その点ミーナさんは屈指の人気を誇るプレイヤーだ。可愛いからね。味方に付けられたら頼もしい。
「逆に私のところで良いんですか? ミーナさんなら引く手あまたでしょうし」
「マ、マリさんなら...マリさんがいいです...」
「では私の店舗のスペースをお貸しします。それも含めて間取りを考えましょうか」
「あ、ありがとうございます...!」
「それで、義太夫さんとカーネルさんへの対価についてなんですが...」
「おう、俺たちは融資を受けたい」
「融資?」
「うん。僕たち結構稼いでたつもりだったんだけどね? 土地購入優先権のための納入と土地の購入代金で首が回らなくてさ...流石に高い土地だったよ」
なるほど、彼らにも彼らなりの理由があったみたいだ。
それにしても、彼らは
「どの辺の土地を買ったんです?」
「嬢ちゃんの後ろ」
私は後ろを振り向く。フリマなだけあってプレイヤーがそこそこ行き交い賑わっている。
中には店をたたむ準備をしている店主もいるようだ。きっと土地を手に入れて、店を建てるつもりなのだろう。
「あぁ違う違う!...って嬢ちゃんもベタだなぁ。嬢ちゃんが大通り側だろ? 俺たちは裏通り側。またお隣さんだな」
「マリがあの土地を買ったって噂が瞬く間に広まってね、すぐにマリの隣の土地が抑えられちゃったんだよ」
「抑えられちまったのはしょうがねぇってんで、裏通り側を確保したんだ。ま、それでも俺らには高すぎる土地だったがな」
「だから融資してほしいのさ、隣の土地を買うお金をね」
理解した。この人たちと離れるのかぁと少し寂しかったんだけど、これからもお隣さんになれるように頑張ってくれたみたいだ。私、何も考えてなかったなぁ。
幸い、店舗を建てるためのセルを除いてもそこそこの量の貯金がある。彼らの土地購入代、店舗建設代を融資してもなんとか足りる...だろう。多分。
最悪コピスク販売で何とかしよう。コピスク万歳!
「分かりました。おそらく融資は問題ないです」
「っしゃ!そうと決まれば、気合入れて決めて行こうぜ!」
「マリの店だからね、他の店に負けてられないよ」
「わ、私も、その、微力を尽くしますぅ...」
※
「現時点で決まっているのは「衣服スペース」「<錬金>系の消耗品等スペース」「難波さんの行商スペース」「ミーナさんのアクセサリースペース」の四つかな」
「販売スペースは広めにとりたいよねぇ。土地も広々だし贅沢に使えそうだね」
「コピスクは...あぁ、売る時に作り出せばいいのか。ならスペースは必要ないか?」
「あー、なんか聞いた話によるとNPCを雇えるらしいんですよね。なので、そこそこの量は置いておこうとは思うんですけど」
「NPCでも販売できるようにってこと? でも盗難とか怖いよねぇ...なら、僕は金庫でも作った方がよさそうかな」
「か、鍵の部分は任せてください...[細工師]の本領です...」
※
「作業室は必須だよなぁ。動線考えるとカウンター奥が安牌だが」
「薬草育てたりもできるらしいですし、店舗裏には薬草園が欲しいですね」
「や、やはり、布を置く棚は多めに作るべきだと...」
「あとは<錬金>用の作業台ですね。個人的には座り心地のいい椅子があると嬉しいですが」
「やっぱ魔女だし、作業室には大釜がないと始まらないよねぇ」
「わ、分かります!やっぱり魔女なら大釜で何かしらをぐつぐつ煮込むべきなんですよ!そんなマリさんを見つめると、にっこり微笑み返してきて...あぁあ!」
「ちょ!ミーナちゃん!?落ち着いて!」
※
「僕らがマリの裏の土地を買ったのって、実はちょっとだけ打算があってね...」
「おう、嬢ちゃんの店舗と俺たちの店舗をつなぐ通路を作ったら売上上がるなぁ...なんて考えちまった訳だ」
「良い案ですね」
「え、良いのか?」
「地図を見た感じ、私の店からお二人のお店に行く場合、道の関係上ぐるっと遠回りしないといけませんからね。お二人のお店に行きたい人が私の店を通ってショートカットするなら、私の方でも利益上がると思いますし」
「嬢ちゃん...! 恩に着るぜ...!」
※
「そういえば、クランハウスを作るために土地を買ったプレイヤーもいるらしいですね」
「そういやそんな話も聞いたなぁ...んじゃあれだな、2階をクランハウス風にするか。部屋いっぱい作ってよぉ」
「あぁ!それは名案だね!」
「NPCも住み込みで働けるようにした方がいいよな。俺達だけなら問題ないが、そうなってくると...」
「うん、インフラ整備が必要になってくるね。NPC達は現実の僕らと同じような生活をしているらしいし」
「家主権限でお風呂を希望します」
「了解。ってことなら...2階は風呂やらトイレやらキッチンなんてのを除いて、作れても4部屋ってところか?」
「あちしの部屋には猫の彫刻が欲しいにゃ。たくさん。お金ならあるにゃ」
「わ、分かりました...?」
「クロエ...いつの間に...」
話し込んでいると、いつの間にかクロエが混ざっていた。完全に気付かなかったよ...
「にゃ、イザム連れてきたのにゃ」
後ろをくいっと指さすと、そこには悲嘆にくれたイザムが立っていた。なんというか、不幸だらけの世の中に絶望したみたいな空気感だ。
「よう、マリ...今日はちょっと頼みがあってよ...」
「あ...うん。そういえば、西のエリアボス撃破おめでとう」
「おう、ありがとう。んで頼みっていうのがだな...」
そう言うと、一枚のスクロールを私に差し出してくる。これは...
「説明読んでもいまいち強さが分からねぇし、使おうにも「適したスキルがない」とかなんとか言われて使えやしねぇ。だから...恥を忍んでお願いしたい。マリの【鏡】のコピースクロールと交換しちゃくれないか...?
よく分からん能力のアイテムと固有を交換しろっていう失礼な相談だってのは分かってるんだが...どうだ?」
あぁ、きっとイベント頑張って手に入れたアイテムが使い物にならなくて落ち込んでいたのだろう。
...それにしては落ち込み具合が大きかったけど、他にも何かあったのかな?
【友撃】か...これはなかなか。
「良いよ」
「え、マジ?」
「でもいいの?これ凄い面白そうだけど...」
【友撃】のトレーススクロール
友の力を借りる能力を封じたスクロール。SPを10消費し、自身の持つ技能と組み合わせた「複合スキル」又は「複合技能」を獲得できる。
<鑑定>すると、こんな感じだった。「友の力を借りる能力」...なんて楽しそうな響きだろうか。
「俺には使えないアイテムだからな。で、マジでいいのか? 言った俺も俺だが、【鏡】って固有だぞ?」
「構わないよ。今なら【友撃】も固有みたいなものだし、何より楽しそう。
あ、でも...」
トレーススクロールは消費SP10か...いくら固有とは言え消費SP20のコピースクロールと等価交換は割に合わないかな...?
難波さんがいないから<SP取引>出来ないし...私は<魔述>を発動し、【鏡】を作り出す。二枚。
「はい。これで等価交換、自由に使ってね」
「は? おま...」
2枚差し出しても、イザムなら問題ないだろう。いずれ渡すつもりでもあったし、何よりクロエと仲良くしてくれてるし、信頼できる。
「恩に着るぜ! なんかあったらすぐ言え!何があろうと手伝ってやるよ!」
「丁度いいや、家づくり手伝ってよ」
「お?早速か!つっても何もできねーぞ?」
「魔物素材を集めてきてよ。ほら、鹿の頭のはく製を壁に飾るみたいな」
彼に家づくりに必要な色んな魔物素材を集めてきてもらおう。良い人材が見つかって良かった。
彼が手伝ってくれるなら百人力だ。クロエと競争させればさらに効率も上がるだろうし。
「にしてもまさかこんな簡単にマリに会えるとはなぁ...最初から連れてきてもらえばよかったぜ...」
イザムの呟きが聞こえた気がしたけど、済んだ話っぽいからスルーしよう。
※
それからも相談を重ね、何とか間取りを決めた私たちはついに着工する。ギルドカードをなぞり、フリマの使用権は返還した。
着々と工事は進み、1週間で出来上がった。素材集め要員としてイザムやクロエに手伝ってもらったり、木材のために<伐採>をもつグレンを頼ったり、伐採する木の種類と特性を教えてもらうためにショーイチを呼び出したりと色々な人を巻き込んだ結果、思ってたよりも早く完成した。
完成してみると、そこには見栄えのいい大きな店舗。
店舗スペースの広さはコンビニ5つ分くらいだろうか? 半分くらいのスペースに服を売るための平積み用の台にハンガー掛けがズラリと並ぶ。ハンガーは鍛治師のカーネルが大量生産してくれた。
残りのスペースは錬金で作ったポーションや状態異常回復薬などの消耗品や、塩などの素材。[細工師]のミーナさんが作ったアクセサリーや、難波さんが持ち込んだ商品などを並べるスペースになっている。
ちゃっかりミーナさんと難波さんからはほんの少しだけスペース使用料を貰うことに決まっている。
何故かすごく綺麗な魔女と猫の彫りこみが為された芸術的カウンターの奥には私の作業場が設置されており、大量の布を種類別に丸めて収納できる壁一面の棚。<裁縫>や<錬金>をする際に使う広々とした作業机。まるで魔女が何かをぐるぐるかき混ぜるときに使うような大釜。本が一冊も入っていない本棚などがきっちり作られている。大釜と本棚は完全にその場のテンションで作ってもらった。大釜とか使い方一切わかんないし、そもそも<錬金>で使うことがあるのかないのか...クリスの家でも見たことないけど。
中でも便利だと思ったのは「共有箱」だろうか。家の管理者、つまり私が許可した人が使える倉庫みたいなもので、大容量のインベントリになっている。
今は建築に使わなかった色んな素材が適当に詰め込まれてるけど、これもいずれ使うだろう。多分。
さらに2階建てになっていて、2階は従業員スペース予定の部屋と予備の3部屋だ。もちろんトイレやキッチン、リビングもある。家主権限で取り付けてもらったお風呂は木製だ。
予備3部屋には何故かベッドが当たり前のように備え付けられており、ベッドの4本の脚は桜色ちゃんによる細やかな彫刻になっていて非常に美しい。
...何故か一部屋だけ大量の猫の彫刻が飾ってあったり、脱いだ服が散乱していたりで生活感がすでに漂っているけど、きっと気のせいだろう。
1階の奥には店の裏につながるドアが設置されており、隣接した土地で開店予定のカーネルと義太夫の店に通じる道が敷設されている。ちなみに両サイドは薬草園。プライバシー設定で勝手に入れないようにはしておいたけどね。
内装を一通り見て回り、表に出る。目に入った看板は「雑貨屋ミラーウィッチ」。魔女帽に猫のマークの私の店だ。
うむ、とても満足のいく店に仕上がった。
...ところで、難波さんが言ってた「店番してくれるNPC」ってどうやって雇えばいいんだろう?