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39 労働するプレイヤー②

次回投稿 2019/08/22 20時







その日、南の森に咆哮が轟いた。


普段は静かなその森に響いたそれは、その森に住まう生物に異変を察知させるのに十分だった。

普段から森に住む角ウサギや小鳥、蛇やネズミと言った魔物はそそくさと逃げ出し、西の林から食事をしに来た犬猪も気配を殺して帰っていく。イベント中に出現率の上がった牙ウサギすらその身を隠す。

打って変わってしんと静まり返った南の森。


そんな異変を引き起こした者たちはと言うと...



「うおおおおおおおおお!!美少女が応援してくれている!! うおおおおおお!!」


「うるせぇ!!アレは俺に向けた応援だ!! 勝手に自分のものにするなボケぇ!!」


「うるせぇのはお前じゃ!斧振れボケぇ!!」


「木こりの時間だああああああああああ!!!」



ものすごい勢いで斧や剣を振り回す男ども。まるで狂化状態のような面持ちで武器を振り回し、ものすごい勢いで材木を量産していく。その姿は悪鬼そのもの。

思った通りのレスポンスではあったけど、まさかここまで効果があるとはね...



「やりすぎちゃったかな...? 言われたとおりにやっただけなんだけど...」


「いや、素晴らしいよカナデさん。これで効率はとても上がった。オーダー通りだ」



斧を振り回す男どもから離れた場所で手を振って応援するのは、固有(ユニーク)スキル<波長魔術>を持つ[音楽師]のカナデさん。大きな音叉をその手に持ち、少し前にマリと一緒に作った服を身にまとっている。たしか...テーマは「魔法使いのセクシー女指揮者」、だったかな?



「でも...なんか気合の入り方がおかしいというか、大丈夫なんですか? ショーイチさん」


「問題ないよ。男ならアレくらい頑張らないと...ね、竹光くん」


「そうだねぇ...」



しばらく見ていなかったイザムパーティの森人(エルフ)、[木魔術師]の竹光くんはいつものように眠そうな顔で種を蒔いては木を生やしていた。

僕たちはそこそこ育てた<木魔術>の力を見込まれて、「労働支援」クエストの木を成長させて建材を増やす役目に回された。どうやらこのクエスト中は、いつものように成長させた木が枯れてなくならないようだ。



「それにしても、杉の木かい? 現実じゃひどく憎たらしいけど、ゲーム内ならメリットが多そうだね」


「あー...ショーイチ君は花粉症なんだねぇ。杉は背が高いから、材木にするにはぴったりでしょ?」



<木魔道>を育て<木魔術>を得た今、僕は「木の種類によって特性が異なる」ということに気が付いた。どうやら[木魔術師]の間では割と常識だったらしく、有用な木の種を常にストックして使い分けたりするそうだ。杉も彼のストックの一部だろう。

杉なら直線的で貫通力が高いし、現実で「防火樹」に分類されたりするイチョウは火に強かったりする。

今ではゲームオリジナルの樹木の特性について調査するのが[木魔術師]の一大ブームらしい。



「そうだね...杉の匂いも憎らしい程に再現されてるし、葉っぱを見るだけでくしゃみが出そうなほど精巧だね。腹は立つけど...仕方ない」


「花粉症、重度なのかい...?」



なんて冗談を交えながらしゃべっていると、遠くからプレイヤーの集団がやってくる。19時くらいだし、夜ログイン勢だろう。

なにやらここにカナデさんがいると聞きつけて、はるばる歩いてやってきたようだ。



「音叉っ子...じゃなかった、カナデさん!バフお願いします!」


「はーい、行きますよ! <調律(チューニング)>!そーれ!」



振り上げた音叉が木にぶつかり、ポーンという心地いい音が響く。<調律(チューニング)>により全ステータスが上昇し、彼らの労働効率は間違いなく上がる事だろう。



「それじゃ、頑張ってくださいね」


「は、はい!」



さらにカナデさんの激励によって、数値で表せないようなメンタルにまでバフをかける。完璧だ。真正面から直接応援された彼は、他のプレイヤーにやっかみを受けながらも嬉しそうにしていた。

最初ここに来た時、カナデさんが音叉を振り回して木を倒そうとしていたのを見たときは衝撃だった。バフをかけて応援する事でも貢献度として計上されることを聞いておいて正解だったね。

バフかけついでに「お姉さんっぽく一言かけると効果的ですよ」なんて助言したら、周りの男どものテンションがうなぎ上りだ。これに関しては貢献度に加算されるか分からないけど。



「惜しむべくは、カナデさんの貢献は僕の貢献度に計上されないことかな...」


「ショーイチ君? どうしたの?」


「あぁ、何でもないよ。さ、仕事の続きをしよう」



おそらく助言は貢献には入らないだろうし、自分は自分のできることをやろう。僕は懐から(けやき)の種を取り出して成長させると、近くの木こりプレイヤーを呼びに行った。







◇◆◇








私の役目は南から来る魔物の監視。イベント中はいつもに比べて強い魔物が数多く出現してくるようだけど、流石にイベント初日なだけあって皆が競うように倒していく。



「私は「経済支援」でランキングほぼ確定だし、こっちにまで出しゃばるのは良くないよね」



なんて口には出すけど、本当は「最近魔物(モンスター)狩りばっかだったし、そろそろまったりしたい」なんていうだらけた理由だ。口に出さなきゃバレないね。


燦燦と照り付ける日差しを和傘で遮り、ゆったりとしたペースで現場を見て回る。色んなプレイヤーが汗水たらして働いている...と思ったら、割とNPCの冒険者も混ざっているようだ。


遠くに見えたちょっとした高台に、おあつらえ向きの座れそうな岩が転がっているのが見えた。そそくさとそこまで移動すると、岩に腰かけ周りを見渡す。



「いい天気だね」


『あついよー...』



この世界に四季があるのかまだ分からないけど、精霊にとって今日は暑いらしい。

私の周りを飛んでるのは緑色の小さな玉、つまり風の精霊だけど、きっと彼らも暑いより涼しい方が好みなのだろう。<水魔術>Lv15 <白霧(ホワイトミスト)>で少しだけ熱気を散らして一息つく。こころなしか精霊の動きも喜んでいるようだ。


見渡せばいろんな人がいる。それでも私の目を引くのはいつものメンバーだった。

石材を運ぶグレンは他プレイヤーの助けに入っていた。何故か目が合った気がしてちょっと面白かった。

森を駆け回っていたのはクロエかな? 前と比べてさらに早くなったような気がした。こっちを指さして喋っていたから、誰かと一緒に魔物を倒していたのだろう。手を振り返しておいた。

ショーイチは...きっと木がにょきにょき生えては倒されているあの辺だろうか? 最近は<木魔術>が楽しいとか言ってたし、SLv(スキルレベル)上げのついでに参加してそうだ。




私はそんな皆の活気あるさまを見ながら服を縫う。たまにはこんな日があってもいいよね。













順調に作業は進み、5日ほどですべての工程が終了したようだ。私は途中から色んな自己研鑽(レベル上げ)に勤しんでたから、あまり触れてないんだけどね。


結果として私は「経済支援」部門で5位だった。流石にサボりまくってた「労働支援」部門では圏外だったけど、難波さんと相談して納入した金額に間違いはほとんどなかった。

3位になれるかな?という量を納入したけれど、予想より頑張って納入したプレイヤーが多かったり、戦闘系プレイヤーが「クランハウス」のようなものを作るために、数人で協力して納入したようだ。

ともあれ、土地購入優先権は頂いた。


「労働支援」部門には見知った名前がちらほらとあった。その中でも特筆すべきは双剣使いのイザムと黒猫クロエ。3位と6位だったみたいだ。

他にも素手で木を倒しまくったらしい[拳士]のローさんや、エリート魔物を燃やし尽くした[炎熱魔術師]のエシリアなんて名前もあった。10位まではトレーススクロールを貰えるようだけど、どんな属性がもらえるかは完全にランダムらしい。

今度クロエに見せてもらわなきゃね。




その後土地の優先取引の場所を決めるために生産商業ギルドに赴いた。なにやら生産商業ギルド側で土地の大きさや形は決められているようで、すでに大通りや通路の予定地がばっちりと決められていた。

大通りに面した広い一等地から隅っこの小さい土地まで様々。優先取引の権利を得たプレイヤーは第3希望までを選択し、1位から順に決定していくそうだ。


いくつかあるうちの大通りに面した広めの土地のひとつを無事に確保。5位だからね。問題なく第一希望だった。

すぐに土地購入の代金を一括で支払い、「土地の権利書アイネール」を貰う。中にはランキングに食い込むためにセルを使い果たして土地購入資金がなかったのだろう、他プレイヤーやギルドに融資を受けてる人もいた。


無事に土地の権利も貰ったし、次は建築だ。 [木工師]の義太夫に頼んだら作ってくれるかな?

















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