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37 商人の繋がり

次回投稿 2019/08/16 20時












少し前に第二陣の参入が発表された。全世界10億人を突破したらしいVRMMO人口の中で、話題の超大作と期待されまくったこのゲームの第一陣はわずかに5万人。...まぁ、普通に考えて少なかった。

いまでも百万単位の人数が参入待機しているらしく、次は一気に10万人の追加になるらしい。


おそらくだけど、10万人の追加の前にアイネールの拡張を行わなければ街が破綻しかねないと考えたのだろう。だからこそ、このタイミングのアイネール拡張クエストなのだろう。アイネールのキャパシティを増やして、受け入れ態勢を整えようという魂胆なのだろう。

初心者用ダンジョンも近くに出来たし、環境は整いつつあると言える。

今ではレンヴァイツとドライアに人がそこそこ流れたみたいだけど...そういえばドライア行ってないや。今度行かなきゃな...



「ありがとうございましたー」



空いた時間で服を縫いつつ、接客する。そろそろ商品も少なくなってきたし、切り上げるにはちょうどいい時間だろうか?



「噴水広場、そろそろ空いてきましたかね?」


「おう、さっきに比べたらだいぶ落ち着いてたぞ。行くなら今じゃないかな...これから夜ログイン勢が増えてくるだろうしな」


「そうですか、ありがとうございます」



お客さんに人混み具合を聞いてみると、予想通りの答えが返ってきた。今日はもう店じまいだ。

そうと決めたらそそくさと閉店準備をして、義太夫とカーネルに挨拶。アイネール中央にある噴水広場に向かう。


フレンドリストを見ると、知り合いのほとんどがログインしていた。その中から難波さんを呼び出して、生産商業ギルド前で合流するように取り付けておいた。相談したいことがあるからね。












着ている和服を乱さないように、ゆったりとしたペースで歩く。和傘は邪魔になるから仕舞ったけど。

先ほどカーネルさんから冒険者ギルドでは「労働支援」、生産商業ギルドでは「経済支援」を募集していると聞いた。なら...とりあえず生産商業ギルドかな。私の場合は所持金渡せばやる事終わりだし。


噴水広場にたどり着く。いつもはこの辺でたくさんのプレイヤーがパーティ募集を行っていてとても賑やかだけど、今日はそこまで人が多くない。みんなさっさとクエストに行っているのだろう。

周りを見渡すと、噴水の(へり)に座ったよれたスーツのおっさんがこっちを見ながら餅のようなものを食べていた。



「マリはん、さっきぶりですね!」


「えぇ、急に呼び出してすみません。相談したいことがありまして」


「気にせんでくださいよ、「いつでも呼んでくれ」って言ったのは僕ですし。

 そういえば知ってました? コレ、最近[料理人]のプレイヤーが編み出したらしいんすわ」



そういって難波さんが見せてきたのは、先ほどから食べている餅のようなもの。

奥が透けて見える無色透明の餅に黒いシロップを垂らし、緑色の粉末を付けて食べている。



「なにやら、マリはんのとこの【水】のコピスクを<調理>スキルと組み合わせたら作れるようになったらしいんすわ。名前はそのまんま「水餅」ゆーんですけど、NPCも買いに来るくらい流行っとるらしいですよ」



私にもう一つの皿を差し出してくる難波さん。どうやら私の分も買ってきてくれたみたいだ。

お礼を言いつつ、その餅をほおばる。餅にしては柔らかく、口に入れると弾けるように消えていく。餅自体は無味無臭だけど、黒いシロップの甘みと緑の粉末の仄かな苦味が鼻に抜けていく。ついでにHP回復のエフェクトがほんの少し出た気がした。



「...なんか、抹茶のわらび餅の亜種? 和風な感じですね」


「食べ方としては信玄餅ですけど、黄な粉と黒糖の代用として使ってる粉とシロップが秀逸ですなぁ。

 おそらく、黒いシロップはゲーム内で市販されよるものでしょうが...」


「...薬草、ですかね?」


「おぉ、お目が高い! 僕も多分そうや思いますわ」



<錬金>で薬草からHPポーションを作る時、薬草からエキスが搾り取られ、干からびた薬草がその場に残る。この干からびた薬草を粉末にしたのかな?

水餅を食べきり、二人で生産商業ギルドへ向かう。



「いやぁ、僕この「水餅」がホンマに好みでしてね、コピスク様様ですわぁ」


「まさか<調理>と組み合わせる人が出てくるとは...驚きですね」



開けっ放しの扉をくぐると、まずは右側の喫茶スペースへ足を運ぶ。

適当な椅子に座ると、対面に難波さんが座る。近くを歩くウェイトレスさんにコーヒーを注文、今日の本題に入る。



「あぁ、言われなくても分かりますわ。「経済支援」クエスト、いくら程セルを納入したら優良な土地が買えるのか...その金額の相談ってとこでしょ?」


「え、はい。その通りです」


「では...ざっとランキング上位の金額を予想してみましたわ、ご査収ください。セルではなくアイテムでの納入がどれほど貢献度に影響を与えるのかは未知数なんで、あくまでも予想なんやけどね。

 マリはんの事ですしあんま心配はしてないんやけど、土地購入にもお金がかかるっていう落とし穴にも気付いてはりますよね?」


「話が早いですね」



相談を持ち掛けようと思ったら、難波さんにインターセプトされた。懐から一枚の紙を取り出すと、私の目の前にササっと広げてくる。書かれていたのは「ランキングTOP10の納入セル予想」。1位から10位までの納入金額予想がずらりと並んでいた。



「私も[商人]の端くれなんですがね、やはり[商人]とは横のつながりがとても重要なんですわ。まぁ要するに、他の有力な[商人]プレイヤーの財力の規模が何となーく分かるっちゅうただそれだけの話なんやけど」


「助かります。それにしても、全体的にあまり金額としては多くないですね」


「そらマリはんから見たら少なく見えるでしょうなぁ...一介の[商人]なら、ゲーム開始1ヵ月で作れる資金なんてそんなもんですわ」



確かに、1枚20万もするコピースクロールをバシバシ売りまくったのだ。ものによるけど、クエスト一個で約2千セル程度の世の中だ。物の価値も現実とほぼ変わらないし、荒稼ぎにもほどがあるよね。


その後、難波さんと世間話を交わして、良きところでクエスト受注に赴く。受付で「経済支援」クエストを受注し、3位くらいになれる量のセルをそのまま納入する。これで生産商業ギルドでやる事は終わりだ。


生産商業ギルドを出ると、難波さんはドライアまで商売に行くと言い残して去っていった。

私は...やる事も特にないし、隣の冒険者ギルドに入る。こっちのクエストは気が向いたら手伝おうかなって感じだったけど、丁度いいからちょっとだけ参加して、初日のお祭りの空気感を味わいたい。


クエストを受注すると、受付のお姉さんが詳細な説明をしてくれた。私はアイネール南側の監視、索敵に回されるらしい。

ログアウトするときはそのままログアウトしてもいいらしく、メニューからクエストを選択することでいつでも再開できる。また、指定されたエリアを離れるとクエストが中断されるとのことだ。



「では、いってらっしゃいませ!」



元気のいい受付嬢さんに見送られ、私は南の森を目指した。
















「全国10億人を突破したらしいVRMMO人口」...この文言を聞いたことある、もしくはどこから引用したものかが分かった人は、恐らく色んなゲームを隅々までしっかり楽しんでいる人でしょうね。

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