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36 新しいイベント

次回投稿 2019/08/13 20時








「こんにちは、マリカード。未読の通知が1件あります。」



いつものようにゲームを起動すると、ログイン画面のサポートAIのアイちゃんが私の目の前にウインドウをポップアップさせてきた。

最近は特にイベントもなかったから、なんだか久しぶりだ。




▽クエスト「アイネールを拡張しよう」開催について

 アイネールの防壁を部分的に拡張する計画が領主より発表されました。

 クエスト達成により拡張された部分がプレイヤー占有エリアとなり、土地の購入が可能になります。

 アイネール及び周辺の街の冒険者、商業ギルドよりクエスト受注可能。

 また、このクエストに合わせて「アイネール南の森」エリアに多数のエリート魔物が出現します。

 戦闘をする際は入念な準備をお勧めします。




下には分かりやすくアイネールの図が表示されている。なるほど、東から南の防壁のさらに外側にぐるりともう一枚壁を作って、その間のエリアがプレイヤー用に割り振られるのか。



「なるほど、とりあえずギルド...は混むだろうから、とりあえずフリマで情報収集かな。

 アイちゃん、ログインお願い」


「了解しました、マリカード。本日も良い冒険を」









ログインして、とりあえずフリマまで歩く。遠目に見た噴水広場はプレイヤーでごった返していた。これはフリマで正解だね...

道すがら自分の装備を確認する。最近は素材や所持金に余裕が出てきたこともあって、私服として色んな服を着て楽しんでいる。昨日は白いワンピースだったし、今日は...和服にしよう。良い感じの布を手に入れたから、フリマ中に客を待っている時間が空いたので和服風に縫い上げてみたものだ。本物の和服がどう作られてるか分からないからね...見てくれだけの偽物なのはご愛敬。柄は宇宙?銀河?みたいな感じ。

現実だと着付けとか面倒だけど、ゲームならワンボタンだからとても便利だ。いつもの魔女帽をしまって、靴は鼻緒に変える。

レンヴァイツで何故か売ってた赤い蛇の目傘を広げて手に持つ。高かったんだよなぁこれ...


ペタペタと足音を鳴らして、道すがら販売用ポーションの素材になる薬草類や布等を買いつつ、フリマの私のスペースに近づく。



「よう、マリ...また今日は一段とすげぇな」


「こんにちは、義太夫さん。風流でしょう?」


「まだ春だけどな...って、春だからこそなのか? ぶっちゃけ着物を着る時期とか分からねぇわ」


「確かに、着物って夏のイメージありますよね。いつ着ても問題ないとは思いますが」



私の隣のエリアで商売しているさわやかエルフ[木工師]の義太夫さんが声をかけてきた。

逆側で商売している赤毛ポニテ僕っ娘[鍛冶師]のカーネルさんは見当たらない。まだ来ていないのだろうか?



「そいつならギルドに行ったぞ。嬢ちゃんもログイン時に見てきたんだろう?」


「ええ、気にはなってたんですが...如何せんあの人混みの中ギルドを目指すのも気が引けて」


「そんな混んでたのか?」


「花火大会は超えてましたね」


「そりゃ結構な混み具合だな...だから今日は着物なのか?」


「ただの気分ですよ」



そんな雑談をしながら開店準備。と言っても、私の場合はポーション類と売り物の服をパパっと並べて終わりだ。

今日は<SP取引>を持ついつもの[商人]さんがいないので、コピースクロールはセルのみでの販売になる。最初はSPでしか販売していなかったけど、ギルド前に「セルをSPに変換する石碑」が設置されたので、満を持してセルでの販売も始めたのだ。

ちなみに5万セル→1SPというレートになっている。なので、コピースクロールは1枚20万セル。大儲けだ。



「ただいま! マリも来たんだ。珍しい服着てるねぇ」


「おかえりなさいカーネルさん。ギルドどうでした?」


「あぁ、義太夫に聞いた? どうもこうもすっごい混んでたよ。まいっちゃうね」


「私もギルド前の込み具合見て行くの諦めました」


「おう!帰ったかカーネル! んで、どんな話だったよ」


「結構色々あったよ。まずは...」



カーネルさんから今回のイベントの話を聞く。どうやら一つのクエストではなく、冒険者ギルドと商業ギルドで内容が分かれているようだ。

そしてそれぞれのクエストで貢献度を算定し、ランキングを作成。そのランキングによって追加の報酬がもらえるようだ。


まず冒険者ギルド。こっちは「労働支援」の募集がメインとなっている。主に指定個所の木々の伐採や、木の伐採による魔物の動向の監視。他にも色々あるけど、面白いのは【土】系の魔法をもっていれば地均しだったり防壁づくりなど、持っている技能によって様々な仕事があるということだ。


そして商業ギルド。こっちはとてもシンプルで「経済支援」がメイン。簡単に言うと献金。

クエストを受注し、セルで払う。たったそれだけだ。

現物の納品でも問題ないらしいけど...大量の石材とか持ってるプレイヤーがどれほどいるのだろうか?



「なるほどなぁ、セル払いと労働力払いのどっちかを選ぶのか...んで、貢献度でランキングか」


「ランキング上位報酬、前と同じなら...あの時は確か、一定額のセルとスキル有効化するチケットとかだったかな?

 流石に別の報酬になるとは思うけど」


「前イベントの報酬は...この中だとマリしかもらってないから分からないけど、商業ギルドなら土地購入の優先権だったよ。冒険者ギルドは...確か「トレーススクロール」って書いてあったと思うけど...」


「語感的にコピースクロールの仲間か? だとしたらすげぇ有用だな...」


「マリがコピースクロールの有用性をバラまいたからね...これは荒れそうだね」


「商業系のプレイヤーなら土地購入の優先権欲しいだろうし、戦闘系プレイヤーはスクロールか。需要を上手く分けてる辺り、考えたもんだなぁ...」



それにしても土地購入の優先権か...これからもずっとこのフリマに居座り続けることは出来ないだろうし、それに...コピースクロールで荒稼ぎしたセルが山ほどある。ここらで切り崩して広めの土地を割り当ててもらっても(ばち)は当たらないだろう。

でも、よくよく考えると「土地購入の優先権」。これって「土地をあげます」じゃなくて、「優先的に買える権利をあげよう」ってことだよね...引っかかる人はいないだろうけど、献金する額は考えておかないとね。



「やっぱ生産系職業と言えば、店舗建ててなんぼだよなぁ...そこそこ稼いできたつもりだが、土地買えるかは怪しいところだな...」


「そうだね...ボクのところもそんな感じかな。マリは...聞くまでもないか」


「別に1位にならなくてもいいからね。そこそこの土地でいいし」



土地欲しい談義に花を咲かせながら、今日の販売を開始する。いつもよりお客さんの数が少ないように感じるのは、きっとギルドに人が流れているからだろう。

たまに来るお客さんは、おそらく「労働支援」のクエストで南の森の警備を指示されたのだろうか、戦闘を見据えてポーション等を買い込んでいく人が多かった。


お客さんを見つつ色々考えながら商売していると、前に<SP取引>をしてもらうために手伝ってくれていたエセ関西弁の[商人]の難波(なんば)さんがやってきた。

少しよれて着崩れた黒いスーツを身にまとった、こげ茶の緩い天然パーマを右に流した丸眼鏡のおっさんだ。



「お久しぶりですなぁマリはん! 調子どうです?」


「お久しぶりです難波さん、調子ばっちりですよ。そちらは?」


「えぇ、おかげさまで儲けさせてもろてます」



いつものように胡散臭い笑みを浮かべながらそう返してくる難波さん。彼は数少ない、私が【鏡】のコピースクロールを渡したプレイヤーの一人だ。



「前々からこういう世界で行商人やるんが夢だったんですけどねぇ、貰った例のアレ(コピースクロール)で街の行き来がずいぶん楽になりましたわ」


「こちらも助けていただいたので、お互い様ですよ」



ショーイチが連れてきた彼は、初対面からすごかった。私に「あぁ、この人は生粋の商人だな。敵に回したらダメだ」と考えさせるに十分だった。なぜなら...



「マリはん! 私らの仲ですし、もう最初っから率直に言いますわ。マリはんなら間違いなく店舗購入しますやろ? もし店舗持てたなら、僕のこと使ってくれません?」


「えぇ、別に」


「いやいや、そんな難しい事やないんです。マリはんの店舗で扱ってる商品を優先的に行商させてもらいたいだけなんですわ!たったそれだけ!」


「あ、はい」


「店舗の情報なら聞いてきましたわ! なにやら、NPCを雇って店舗販売させておく...なんてこともできるらしいですわ。メインが戦闘系のマリさんなら、これ、恐ろしく便利になるんちゃいますか?」


「確かに」


「いやぁ~ものごっそい便利になると思いますわ! 是非ご一考いただけたらと思います! もし今後何かあればいつでも相談乗るんで、すぐ呼んでくださいね。特に...どれくらい献金すればいいのか、とかね」


「あぁ、はい。考えておきます」


「今後ともごひいきに!どぞ、よろしくおねがいしますわ~」



そう言うだけ言って帰っていった。御覧の通り、彼は丸め込むのが非常に上手いのだ。





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