外伝1 Black soul / White blade
感想を貰って気が向いたので、主人公がプレイした過去のゲームを書き始めたら、思ってたよりさらっと書けたので割り込みで投稿します。
若干のサイコパスみがありますが、ゲーム内でのこと&多感な時期だったということで許してください。
☆一応、胸糞注意です。そこまでではないつもりですが、苦手な方は読まなくても物語に差し支えありません。
次回投稿変わらず 2019/08/10 20時
※公開後、気が向いたタイミングで1章「ゲームの始まり」のラストに移動させます。
Black soul / White blade。
これは私が高校2年生になった時にプレイした、「吸血鬼」に特別な思い入れを感じるきっかけとなったゲームだ。
数百年前、「魔法大戦」と呼ばれる世界規模の戦争が起こり、隆盛を極めた魔法文明に突如終焉をもたらした。
星に住む知的生命体は大きく数を減らし、魔法大戦によってばら撒かれた有害な物質によって人類には生きづらい地「魔境」が増え、野生生物は魔境に漂う有害物質によって異常な進化を遂げ「魔物」となった。
魔法のあるファンタジーではあるものの、その魔法のせいで文明が崩壊しディストピアとなってしまったダークな世界の中で、プレイヤーはその地で生きる数少ない人類として生活することとなる、そんなゲーム。
私はこのゲームを「周りのみんながやっているから」という理由で始めた。最初はそんなものだった。
プレイヤーネームは「マリ」、まだ吸血鬼の沼に落ちる前だったから、今のような「マリカード」ではなかった。
私はこの時[剣士]だった。このゲームの一つ前にプレイしたゲームでも剣士でプレイしていたのだけど、なんというか、不完全燃焼のままゲームを辞めてしまったからだ。
剣を握り、敵の攻撃を寸前で避け、弱点部位に突きいれ、斬りつける。魔法使いのような後衛プレイでは感じられないようなひりつく感覚が癖になり、どんどんゲームにのめりこんでいった。
ある日一人でクエストに向かっていると、道中に寄った小さな町でとある女NPCが目についた。
鑑定結果「吸血鬼」。このゲームは「人と魔物の戦い」がベースとなっており、吸血鬼は設定上「魔物側」だ。いくつかの街で「吸血鬼は出会ったら必ず殺せ」なんて声高に言うNPCを何度も見かけた。
もしかすると人の姿を利用して町に入り込み、何か悪だくみをしているのかもしれない。私は彼女を観察し、裏が取れ次第叩き斬ることにした。
普通にプレイしていればわざわざ目に入るはずもないその女NPCをこっそりと遠くから観察していると、日の光と人の目を避けるように街を歩き、人の寄り付かない崩れた家屋で不味い魔物を食らう貧しい生活をしているようだった。
(じれったい...)
何か行動を起こせばすぐに処理できるというのに、彼女は何もしない。普通なら不満が募るであろうその極貧とも言える生活をつづけていた。
私はその姿に興味を惹かれた。なぜ彼女は何もしないのだろうか。ゲーム内で邪険にされる設定である吸血鬼という生きづらい身体で、吸血鬼であることを隠しながら何とか毎日を生きていく。なぜそこまでして人の中で生きて行こうとしているのだろうか。人のいない場所に移り住めば、もっと自由に暮らせるだろうに。
「こんにちは、お嬢さん」
私は話しかけていた。何が彼女を動かしているのか、知りたくなった。
※
彼女はとてもよそよそしかった。警戒した態度と、私が何者かを探るような不躾な目線。当たり前だ。吸血鬼の自分にいきなり声をかけてきた見知らぬ人物なんて、信用するに値しない。
だから私は、信用してもらうために毎日欠かさず会話を心掛けた。
※
最初はほんの少しの興味と、潜入捜査の真似事のつもりだった。だけど、蓋を開けてみれば、私は彼女、エリザベートの人間性にとても惹かれていた。
当初の突き放そうとしていた態度も日に日に心を開いていき、徐々に見えてきたのは気さくで可愛らしい女の人。悪だくみなんて感じられず、瞳の奥は純真そのもの。人間よりも気高く優しいのではないか、と何回も思った。
ゲーム内で教えられる「吸血鬼」とは、魔物サイドの悪役。見つけ次第排除しろとまで言われるほどだ。
私は彼らの語る当たり前とされた「ゲーム上の設定」が、もしかすると事実と大きく異なるのではないか?と考えるに至った。
目の前の彼女が時折見せる可憐な姿は人類と何も変わらない。いや、それよりも美しいというのに、なぜそこまで邪険にされているのだろうか...とても疑問に感じた。
その頃の私は、プレイヤーの立ち上げた中堅レベルのクランに所属して活動していた。
クランの選択したクエストを攻略し、分け前を貰う。そんな毎日だ。
私はそうして稼いだお金を使って、エリザベートと同じ家で緩やかな毎日を過ごした。料理を作ってみたり、簡単にできる遊びをしてみたり、棒を持って模擬戦してみたり...私にはまだ使えなかったけど、吸血鬼の持つ剣術も教えてもらったりもした。とても楽しい日常だった。
私は頃合いを見て、何故吸血鬼という事実を隠してまで、かたくなに人里で暮らすのかを単刀直入に聞いてみた。
「私は昔、人間に助けられたんだ。自分が血まみれになってまで、ね。まるでおとぎ話のヒーローのようだった」
「この命は、その時から彼のもの。助けられたときに、すべてを捧げようと思ったんだ」
「だけど、共に生きるには...寿命が違いすぎたんだ。彼は年老いて、最後は魔物に殺された」
「遺書を見つけたよ、「この町の人々を守ってくれ」ってね」
「私はね...彼の事は、裏切りたくはないんだよ。彼が守ろうとしたものを、守りたいんだ」
理由は単純で、物語としてはよくあるものだった。もう何年前の話か覚えていないようだったけど、この崩れた家屋がもしその彼のものだったのなら...気が遠くなるような年月が経っていることだろう。彼女は、そんな長い間、ここで貧しい生活をしていたというのだろうか。
※
エリザベートとの廃屋共同生活も慣れてきた頃、魔物が彼女の住む町を襲ったらしい。私はクランの活動で別の場所にいたためにその場を見ることは出来なかったが、彼女は真っ先に先頭に立ち、無事に魔物を退けたらしい。
しかし、その魔物はいつもと様子が違っていた。ほんの少しだけ、いつもより強かった。
気が遠くなるような年月、吸血鬼だとばれないようにずっと影から街を守っていた彼女は、ほんの少し強い魔物に殺されそうになった町の衛兵を助けるために、少しだけ本気を出してしまった。
それがだめだった。魔物を退けるために使った力は、誰よりも前で戦っていた彼女を「吸血鬼」としらしめるのに十分だった。
最後は衛兵の槍だったそうだ。彼女は、彼女が守った人間に殺された。
私が駆け付けたときには亡骸だった。地面に放置され、石を投げつけられる姿は見てられなかった。
一瞬で剣を抜き、人間を殺す。いつのまにか剣士トップクラスにまで上り詰めていた鋭い剣閃は、一瞬にして私の名前を赤色に染めた。
NPC殺しのレッドネームは何故かすぐに解除されたけど、死んだ彼女は生き返らない。土に塗れ、血で汚れた亡骸をそっと彼女の家に持ち帰ると、吸血鬼らしい寝床である棺桶にそっと横たえた。
可憐な笑顔の彼女はもういない。でも、もし、彼女が生き返るなら...私は噂に聞いた伝説級のレアアイテム「蘇生薬」の噂を集めに駆け回った。
※
噂によると、今の攻略最前線よりも先にある街で売っている人がいたらしい。
しかし、攻略しようにも私自身の力が圧倒的に足りない。所属しているクランに手伝ってもらってもまだ足りない、その上クランメンバーが足手まといにすらなりかねない。
即時クランを脱退し、ソロで力を蓄えた。死に物狂いでレベルを上げ、いまだに熟練度が足りず扱えなかった彼女の剣術も、何度も何度もその動きを繰り返すことで覚えた。
今まで集めてきたレアなアイテムもすべて売り、継戦能力を高めるための高レベル消耗品や、一度きりしか使えないが死を免れる高ランク装備品などを大量に購入した。
事前にできるすべての準備が整うと、私は単身、最前線に乗り込んだ。道中をうろつく魔物を避け、「蘇生薬」のある街に行くための壁となっているエリアボスに直行する。
【見破る剣戟】。【黒血閃】。【赤断ち】。【八の剣】。
エリザベートに教えてもらった数々の吸血鬼の固有剣術「Ex.血と絆の剣閃」をこれでもかと使用し、エリアボスのHPバーを削っていく。
被ダメージなんて気にしない。とんでもなく高価な使い捨ての装備品が私を死なせないから。
エリアボスを倒した頃には私のお気に入りだった真っ白な剣は折れ、大量のゲーム内マネーを消費して揃えた数々のアイテムはほとんどなくなっていた。でもそれでいい、「蘇生薬」さえあればそれでいいんだ。
※
死に物狂いで最前線を単身で踏破し、噂の街にたどり着く。件の錬金工房を訪れると、中から出てきたのは魔女らしい魔女だった。蘇生薬を売ってくれと頼むと、
「ひぇひぇひぇ、あたしの作る薬なら、死んだ爺さんも慌てて飛び起きるさね」
セリフが終わるや否や魔女が取り出した蘇生薬を分捕ると、彼女の待つ家に飛んで帰った。棺桶の中で眠る彼女の亡骸は、時間がたっても美しいままだった。
すぐさま手に取った蘇生薬を振りかけると、しゅうしゅうと煙が噴き出てくる。蘇生が完了するまで待つ。
彼女が生き返ったら何を話そう...食べたいものはあるか。次はどこに住もうか。教えてくれた剣術も、すべて使えるようになったよ。
彼女と話したいこと、伝えたいことが山ほど出てくる。最初はただの興味本位だったけど、まさかここまで入れ込んでしまうとは...あの時の私には考えられなかったな。
噴き出ていた煙が止まる。可憐な顔でむくりと起きてくると思っていたのだけれど、一向にその気配を見せない。
不思議に思って棺桶を覗いてみると、そこに彼女の亡骸はなく、砕けた骨の破片が散らばっているように見えた。
絶望した。目の前が真っ暗になった。あぁ、私はきっと騙されたんだ。
気が付いたら私は血の滴る剣を握り、目の前には魔女の死体が落ちていた。
「Black soul / White blade」
このゲームのタイトルは7話「今までと新しい鏡」で登場しました。
お話の途中で出てきた「必死になって覚えた彼女の剣術「Ex.血と絆の剣閃」」のうちのいくつかは、15話「集結と終結」で登場しています。
こういう繋がりがあったんだなぁ...程度に読んでいただけると幸いです。