4 合流と最初の街
待ち合わせの20時までにお手軽に夕食を済まし、お風呂に入りつつ軽くストレッチもしちゃう。
そんなこんなですぐに時間が来たので再ログイン。
バイザーを付けてスイッチを入れると、ログイン画面でサポートAIのアイちゃんがふよふよ浮いている。
ゲーム内でのイベントの告知等をしてくれるそうだ。さすがサポートAI。
特に告知はなかったようで、そのままログイン。まだゲーム開始数時間だし、流石にね。
一瞬の暗転の後、さっきクロエと別れた南の森のセーフティゾーンに立っていた。
「タイミングばっちしにゃ」
「クロエ、今来たとこ?」
「んー、具体的には1分前くらいにゃけど、誤差の範囲にゃね。
あとの二人は、先に入って一緒にレベル上げ中らしいにゃよ」
ちょうどいいタイミングだったらしい。あとの二人とは、私にVRMMOを勧めた友人の事だろう。
また、どうせいつもの職業を選んでいることだろう。
「じゃ、混ざりに行きましょうか」
「4人でやるのも久しぶりで滾るにゃ」
思い出話をしながら、彼らのいる場所を目指して南の森を進んでいく。
出てきた角ウサギを狩りながら進んでいると、ある場所からぱったりと角ウサギが出なくなった。
代わりに痩せたイノシシのような魔物が出てきた。
「にゃ、西エリアに切り替わったにゃね。西の推奨レベルは8くらいにゃ。」
「格上ね」
「そうにゃけど、上手く立ち回ればなんとかなるはずにゃ。数の有利を生かすべし! 回復もあるし、いけるにゃろ」
「前は任せたよ」
「まっかせ!」
クロエはそのままイノシシに突っ込んでいき、盾受けしながら隙を見て<剣撃>を入れていく。流石は獣人、頼りになる前衛だ。
彼女がヘイトを集めているので、私は後ろからちくちくと<水球>を投げつける。
こころなしか最初の時よりも<水球>の速度が上がったような気がする。
親子の平和なキャッチボールから、高校生のキャッチボールくらいになったかな?
そんなことを考えていたら、イノシシのヘイトが私に来たようだ。
まさに猪突猛進。脇目も振らずに駆けてくるイノシシに対して正面から<反射>。
はじき返されひっくり返ったイノシシに対してクロエと二人で集団暴行を加えると、光になって散っていった。
ドロップアイテムは『犬猪の毛皮』。たしかに犬と猪の合いの子のような奴だった。
「もうちょっと性能のいい盾欲しいにゃ...ちょっとHP削れちゃったにゃ」
「私としてはスキル上げられるから嬉しいけどね。<水癒>」
「生き返るにゃー...」
<水魔道>Lv5で覚えた<水癒>をクロエにかける。まだスキルレベルが低いので大した回復量は持たないけど、明らかにHPが多めに上がりそうな[見習い戦士]のクロエのHPを四分の一回復できるなら、現状問題ないだろう。
「この調子でどんどんいくにゃ! あちしらは無敵にゃ!」
「任せたよ!」
『<鏡魔術>のレベルが上昇しました。3→5』
『<水魔道>のレベルが上昇しました。5→6』
『プレイヤーレベルが上昇しました。4→5』
イノシシと戦うこと数回、レベルもちょくちょく上がっている。流石にこの辺は適正レベルが高いのか、経験値の入りがいい気がする。
魔物と戦いつつ、生えてる売れそうな草を摘みつつ歩いていると、遠くにそれっぽい二人が見えてきた。
まだゲーム序盤なのにそんなものどこにあったの?というレベルの大盾を構え、さらに逆の手に斧を持つ大柄な男。
そして、その大柄な男の後ろからぴすぴす矢を飛ばす細身の男。
昔っからごついタンクキャラで防御特化なステータスを好むグレンデル。
「弓はコスパ悪いからクソ」とどれだけ叩かれていても、絶対に弓を手離さないショーイチ。
間違いない。絶対アイツらだ。
「アレにゃね」
「まぁ、アレでしょうね」
とりあえず、戦闘が終わるまで待ちましょうかね。
※
「やっと終わったにゃ? ゲスト連れてきたにゃよ!」
「おん?」
「やっと来たね、クロエ。流石に僕の弓だけだとちょっと効率が...って...え、嘘。マリ?」
「おいおい、マリじゃねーか! お前がゲームやるなんて...何年ぶりだよ?」
「久しぶりだね、グレンもショーイチも。なんか楽しそうなゲーム出るって話だったから、ついに重い腰を上げたよ」
「あれ? この前僕らの誘い断ってなかったっけ?」
「私の前で何回も楽しそうにゲームの話するんだから、興味持つのも当然でしょ?
丁度良く第一陣への招待が届いてたし、気が向いたからね」
「なんだよ、始めるなら俺らに一言くれてもよかったじゃねーか! 水くせぇぞ!」
「あちしにも何もなかったんにゃから、グレンに一言なんてあるわけないにゃろ?」
「あっはは! 確かに、クロエの言うとおりだね」
今更だけど、こいつらには一言伝えておいてもよかったかも?
まぁバイザー届くのが開始ギリギリだったし、別にいいか。今一緒にできてるわけだし。
「ところでショーイチ、レベル上げは順調?」
「うん、ぼちぼちかな? ステ見るかい?」
「いいの? じゃあおかまいなく」
「OK。当然マリのも見せてくれるんでしょ?」
「昔みたいに既におかしなことになってたりしてな!がはは」
グレンデル、ショーイチをフレンド登録し、彼らのパーティに入りつつステータスを交換する。
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<グレンデル> ハーフビースト(熊) ♂ Lv7
職業:見習い盾師
▼装備
<N> 古い銅の斧
<HN>木の大盾
<N> 木の鎧
<N> 旅人のシャツ
<N> 旅人のズボン
<N> 初心者の靴
▽有効スキル
▽武術系スキル
盾術 Lv7 剣術 Lv3
▽魔法系スキル
土魔道 Lv2
▽生産系スキル
採取 Lv3 木工 Lv3 伐採 Lv2
▽パッシブスキル
物防微上昇 Lv7 魔防微上昇 Lv6 物攻微上昇 Lv5
▽称号
【Fランク冒険者】
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「またなんというか...こういう感じなんだね」
「おう、そりゃ昔っからこういう職業が性に合ってるからなぁ。ゲームが変わったところで今更変えられんよ」
「そういえばマリ聞いてくれにゃ! コイツ大盾が欲しい!って街中で駄々こねやがってにゃ」
「最初の街に大盾なんて普通は置いてないし、やたら街で注目浴びるし。なだめるのに困ってたんだよね...
そしたら街の[鍛治師]の人が『そんなに欲しいなら自分で作れ!』って言ってきてね...」
「おう、あの時は目から鱗が落ちた気分だったぜ。なるほどなぁ...ってな。速攻で溜めてたSPを<木工>と<伐採>に振ってな? 速攻で大盾作ってやったわ」
「あの時は恥ずかしかったにゃ...」
「<木工>で消耗品の矢を作ってくれるし、僕としてはありがたいんだけどね」
私がミラと話していた数時間のうちにそんなことがあったのか...
私がMagiratora始めるって言わなくて本当に良かった。巻き込まれてたかもしれない。
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<ショーイチ> エルフ ♂ Lv7
職業:見習い弓師
▼装備
<HN>木の弓
<HN>銅の解体ナイフ
<N> 初心者のマント
<N> 初心者のシャツ
<N> 初心者のズボン
<N> 初心者の靴
▽有効スキル
▽武術系スキル
弓術 Lv7
▽魔法系スキル
風魔道 Lv3 木魔道(種) Lv2
▽便利系スキル
風読み Lv4
▽パッシブスキル
器用微上昇 Lv7 敏捷微上昇 Lv4 魔攻微上昇 Lv4
▽称号
【Fランク冒険者】
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「僕はこんな感じ。僕もグレンと同じで、昔からずっとやってる弓を手離す気はないからね」
「ん? この<木魔道(種)>って何?」
「あぁ、これは森人固有魔法だよ。最初に種族選ぶときに『森人は序盤から種族固有魔法を使えます』って説明に書いてあったでしょ?
ちなみにこの(種)は種族の種ね。植物の種じゃないみたい」
「ややこしいね」
「使ってみたけど、木が多いとこじゃないと使い物にならないって感じだったよ。周りの木の枝を鞭みたいにして攻撃したりするんだけどね。こんなふうに...<枝の鞭>!」
グレンとクロエが戦っているイノシシに、周りに生えている木の枝がざわざわと数本叩きつけられる。
「うおっ! あっぶねーだろショーイチ!」
「こんな感じ。周りに木がなければ不発に終わるんだよ」
「条件付きの魔法かぁ...確かに使い勝手悪そうね」
「さ、僕の番は終わりかな? ふふふ、約束通りマリのステータスも見せてもらおうか」
「気持ち悪いよ?」
私の4時間ちょっとの成果を見せる番が来たようだ。
※
「出たよ、ユニークキラー...」
「俺も冗談で言ったつもりだったんだけどな...」
「運が良かっただけだよ、ほんとに」
「ゆーて、前に比べたらまだマシじゃないかにゃ?」
「確かに、前と比べたらまだマシ...っておい、まさかこのゲームでもいきなり吸血鬼になったりしねぇだろうな?」
「なれるなら喜んでなるけどね」
「そういやお前、吸血鬼好きだったな...」
吸血鬼になれるなら、特に文句なく受け入れるけど。好きだしかっこいいし。
皆の言ってる「前」っていうのは、昔一緒にやってたVRMMOのユニーククエストで、ワールドに一人の吸血鬼になった私がなんやかんやあってプレイヤーの半分くらいを眷属にしてしまった話だろう。
その時のスキル「眷属化」にもそこそこ厳しい条件があって、ぶっちゃけ存在自体忘れてたんだけどね。丁度大規模なPvPイベントで、丁度条件がぴったり当てはまったという、事故みたいなものだった。
色んな偶然が条件にぴったり重なって、眷属の眷属って感じでねずみ講みたいにどんどん増えて面白かったなぁ。仕舞いには「吸血鬼オンライン」とか言われてたけど...きっと私とは関係ないはず。原因は私にある? いやいや、そんなスキルを作った運営こそ原因だから...
「話変わるけど、一回街に戻らないかにゃ? インベントリちょっと整理したいんにゃけど」
「「賛成」」
「私も賛成。何気に街に入るの初めて」
「マジかよ。ゲーム始まって今まで街入ってないやつなんてマリくらいじゃねーの?
まだあんまり見て回れちゃいねーけど、着いたら少しくらいは案内したるわ」
「いいの? じゃエスコートは任せるね」
「エスコートって、そんな大したもんじゃねーぞ?」
「マリが言うとそれっぽいんだよね...」
最近のリアル事情なんかを話しつつ、街に向かう。
道中出てきた敵は倒していく。流石に4人パーティともなると、さっきまではやり過ごしていた複数の敵でもそこそこ余裕を持って対処できた。
そこまで時間もかからないうちに、最初の街<アイネール>の西門に着いた。
今まで遠目にしか見ていなかったから実感がわかなかったけれど、近くで見ると思いのほか大きい外壁だ。
門は開け放たれており、異邦者はそのまま街に入ることが出来るようだ。
というのも、ゲーム開始から数日は門を開放すると公式の前情報があった。流石に第一陣の5万人が列を成して門前に並ぶのは避けたかったのだろう。
ゲーム開始から苦節6時間、ようやく最初の街の門をくぐる。
まさか最初の街の門より先に、どっかの廃城に入るとは思ってなかったけどね。
おおきな壁の内側に広がる街は、さすが5万人が一気になだれ込んでも問題が起こらない程度には広く、賑やかな雰囲気だ。
門から中央の広場に続く大通りには色々な店が並ぶ。
武器屋、薬屋、防具屋と異邦者や冒険者がお世話になるであろう種類の店がずらりと並ぶ中、ぽつりぽつりと八百屋や肉屋、診療所なんかも並んでいる。
大通りをそれた裏通りも、特に店がなくとも初日だからか人がたくさん通っているようだ。<地図>スキルのレベルを上げつつマッピングでもしてるのかな?
「まだ初日の開始数時間だし、プレイヤーでバザー開いてるやつはいないみたいだな。あぁ、そこの裏通りの話な。少し広めに道が作られてるだろ? そこがプレイヤーのバザー用スペースになってるらしいぜ」
「掲示板にあった内容だよね。僕もさっき確認したよ。生産商業ギルドに申請さえしたら、自由に使っていいらしいよ? 自由にと言っても常識の範囲内でだけどね」
たまにモラルが酷い人がいるからね。と苦笑いしながらショーイチが補足する。
きっと私はここを利用することになる。<服飾>やりたいし。
街を軽く見回りつつ、冒険者ギルドへ向かう。グレンから聞いた話によると、開始数日は冒険者ギルドにおけるギルド登録やクエスト関連が簡略化されているようだ。具体的には、ギルド付近に行くとギルド登録のチュートリアルが始まり、ウィンドウ操作のみで完了できるようだ。
これも混雑軽減のための措置だろう。それでも受付で登録してもらうプレイヤーがそこそこいるあたり、効率重視の人とゲームを楽しみたい人が上手く分けられているようだ。
「んで、これからどうするよ。どうせまだ起きてるんだろ? 俺とショーイチは荷物整えたらまた狩りに行くけど、一緒に行かねぇか?」
「じゃ、あちしも行くにゃー。もうちょっとレベル上げたいにゃ」
「んー、私は街の確認と服飾したいからパスかな。 服作りたいし」
「了解。それじゃとりあえず...また明日かな?」
「そうね。明日も暇だし、見かけたら誘って?」
「おう! そんじゃまたな!」
一人になりました。
とりあえず手持ちの薬草やらドロップアイテムやらをお金に変えないと。
ってことは...とりあえずギルド登録かな?